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sideカイル

「……随分と騒がしかったな」


空になったグラスを置き、俺は隣で茫然自失としているレオンに声をかけた。

視線の先では、エリナとソフィアが手を取り合って会場を去っていく。計画通り、いや、計画以上の幕引きだ。


俺の隣で「正義の敗北」に打ちひしがれているこの男、レオン・クラウス。

幼い頃から変わらない。真っすぐで、お人好しで、愚かなほどに正義感が強い。

寡黙で何を考えているか分からないと気味悪がられ、周囲から浮いていた俺を、彼はいつもその眩しい正義で救い出してくれた。いじめっ子たちを追い払い、俺の手を引いて笑う彼に、俺はいつしか友愛以上の情念を抱いていた。


だが、彼には公爵令嬢の婚約者という完璧な壁があった。

親友という座に甘んじ、彼の隣で毒にも薬にもならない男を演じ続ける日々。それが俺に許された唯一の聖域だと思っていた。


あの日、あの光景を目にするまでは。


放課後の校舎。静まり返った教室で、俺は見てしまった。

銀髪の女王、エリナ・アルシアが、平民の特待生を慈しむように抱き寄せ、唇を重ねているところを。


目が合った。エリナの瞳が驚愕に揺れる。

だが、俺は何も言わずにその場を去った。軽蔑も怒りもない。ただ、胸の奥で、閉ざしていた扉が音を立てて開くのを感じただけだった。


数日後、エリナは俺を呼び出し、口封じのための金か地位を提示してきた。

俺はそれを鼻で笑って断り、彼女の耳元で囁いた。

「金も地位もいらない。俺が協力してやる。……お前がその女と結ばれるために、レオンに『婚約破棄』をさせるよう、俺が仕向けてやる」


それからの日々は、実に愉快だった。

俺はエリナの意図を完璧に理解した上で、彼女の非道をレオンに報告し続けた。

「レオン、またエリナが彼女の私物を壊していたぞ」「ソフィアが裏庭で泣いていた」

嘘は言っていない。ただ、真実の断片を、レオンの正義感が最も燃え上がる角度で提示し続けただけだ。


ソフィアがレオンに相談できるよう、周囲の人間を遠ざける場を作ったのも俺だ。

「エリナを止めるには、公の場で罪を認めさせるしかない」と、卒業パーティーでの糾弾を助言したのも俺だ。

レオンが血眼になって集めていたいじめの証拠のほとんどは、俺が裏から手を回して用意したものだ。


すべては、レオンに婚約破棄を決断させるため。

エリナとソフィアが愛し合おうが、破滅しようが、知ったことではない。

彼女たちが自由を手に入れるついでに、レオンから「婚約者」という名の呪縛が消える。俺にとっては、それだけが重要だった。


「……ありがとうな、カイル」


レオンが、絞り出すような声で俺に礼を言う。

俺を信じ切り、俺を唯一の味方だと思い込んでいる、愛しい道化師。


「気にするな。これからも、俺はそばにいる」


返事はない。だが、それでいい。

来月からは、二人きりの騎士団生活が始まる。

閉ざされた規律の世界。訓練も、任務も、休息も、すべて俺の監視下に置くことができる。

エリナはこの三年間で、泥を被って愛を掴み取った。


今度は、俺の番だ。


焦る必要はない。

まずは、傷ついた彼の心を親友として一番近くで癒やしてやろう。

それから少しずつ、毒を回すように、彼の世界を俺一人だけで満たしていけばいい。


次に俺が「好きだ」と告げる時、レオン、お前にはもう、俺の手を取る以外の選択肢は残っていないはずだから。

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