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sideエリナ

「平民の分際で、私の視界に入らないで頂戴」


吐き捨てた言葉とは裏腹に、私の胸のうちは、彼女への愛おしさで張り裂けそうだった。


すべては、入学式に遡る。

新入生総代として壇上に立ったソフィア・ルネ。特待生という、針のむしろのような立場で、彼女は誰よりも背筋を伸ばしていた。王国中の高貴な血が集うこの学び舎で、舐められてはならない、負けてはならないと自分を鼓舞するその瞳。

その凛とした輝きに、私は一瞬で心を射抜かれた。


「美しい……」


それは、温室で守られてきた私たち令嬢には決して持ち得ない、野に咲く花の強さだった。

私は、彼女が欲しかった。公爵令嬢という立場も、親が決めたレオンとの退屈な婚約も、すべてが色褪せて見えるほどに。


それからは、無我夢中だった。

高貴な身分を盾に彼女へ近づき、時に助け、時に語り合う。最初は野良猫のように鋭い目を向けていたソフィアも、私の献身が打算ではないと知ると、少しずつその柔らかい内側を見せてくれるようになった。


放課後、夕闇が差し込む誰もいない教室。

「エリナ様……私、怖かったのです。貴族の方々は、皆私を壊そうとしているのだと」

「そんなことはさせないわ、ソフィア。私が、あなたを守る。……この命に代えても」


震える彼女の肩を抱き寄せ、初めて唇を重ねたあの日。

私たちは、単なる友人という境界線を越えた。同時に、私たちの前にある巨大な壁――「婚約者レオン」と「公爵家の義務」を、はっきりと自覚した。


私は決意した。

望まぬ結婚をして、彼女を一生「愛人」という日陰に置くなど、私の誇りが許さない。

ならば、私の側から汚名を被り、この身分を捨ててでも、彼女と公道で手を繋げる未来を掴み取ってみせる。


「レオン様の正義感を利用するの。……ねえ、協力してくれる?」

「エリナ様が望まれるなら、喜んで。……私を、あなたの色に染めてください」


そうして始まった、二人の作戦。


廊下で彼女を罵倒するたび、その夜には誰にも見つからない場所で、彼女の耳元に何百倍もの愛の言葉を囁いた。

「ごめんなさい、ソフィア。あんな酷いことを言いたくなかった」

「いいえ、エリナ様。お声が聞けるだけで、私は幸せなのです」


彼女のペンを折り、鞄を切り裂く。

周囲の令嬢たちが勝ち誇ったように笑う中、私は裏ですぐに、王室御用達の職人が打った最高級の万年筆を彼女に贈った。


ソフィアは、私が自分のために「加害者」という泥を被ってくれていることに、深い恍惚を感じていたようだった。虐げられ、泣き真似をするたびに、彼女の瞳の奥では私への盲目的な愛情が燃え上がっていた。


そして今夜。

卒業パーティーという晴れ舞台で、すべては計画通りに運んだ。

レオンの「婚約破棄」という叫びを聞いた瞬間、私は心の中で快哉を叫んだ。


(ああ、ようやく。ようやくこれで、私は『公爵令嬢』ではなく、ただの『エリナ』として、あなたを愛せるわ)


会場の扉を開け、ソフィアと共に夜風の中へ踏み出す。

背後でざわめく貴族たちの声など、もうどうでもいい。

繋いだソフィアの手は、驚くほど熱かった。


「エリナ様。……いえ、エリナ。これからは、ずっと一緒ですね」

「ええ、ソフィア。私たちが描いた、自由な世界へ行きましょう」


月明かりの下、私たちは誰に憚ることなく、もう一度深く口づけを交わした。

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