第9話 金欠パーティの日常 ~天国に最も近い塔~
アリスはボルフェンから、元居たギルド近くの宿に帰ってきていた。
「ふわぁ、眠い」
アリスはあくびをしながら、朝の光で照らされた宿の廊下を歩いていた。
(昨日のロックのいびきがうるさくて、全然寝れなかったし、今日は一日ダラーっと過ごすのもありかな。)
アリスはトイレに入る。すると、そこには、頭に野イチゴの入った籠をのせ、右手に赤ん坊を抱え、左手で土砂を運び、口にトイレブラシを咥えたロックが立っていた。
「キャッ、な、何してんのよ。ロック、びっくりさせないでよ。」
「あぃぃ、あぃぃ」
「へ?」
「ひぁ、ふえふほふう」
「は?」
ロックは口にくわえていた、トイレブラシを離した。
「ク・エ・ス・ト・中」
「うわーん」
右手に抱えていた赤子が泣き出した。
「はい、よーちよち怖かったでちゅね。ごめんなちゃいねー。」
ロックは赤子をあやすが、まったく泣き止む気配がなかった。
「あ、時間だ。おい、アリス、トイレ掃除は任せた。俺はこれから犬の散歩に出かけるからさ。後は、頼んだ。」
そういうと、ロックは宿を赤子が泣き出さないように慎重に走り、出かけて行った。
「まったくもう。」
アリスはロックが口に挟んでいたトイレブラシを適当にトイレ用具入れに入れ、その中にあった比較的新しそうなブラシで掃除を始めた。
「あー、終わったー。」
ロックはベッドに倒れこんだ。
「あー、疲れたー。」
アリスは床に敷かれた布団に倒れこんだ。
「ロック、あんた、何してんの?」
「言っただろ、クエストだ。」
「だから、なんでクエストなんかやってんのよ?」
「金がねぇんだよ。」
ロックはベッドの上で足をジタバタさせた。
「金なら、前に人狼を倒して稼いだところでしょ。」
「・・・それなんだがよ、競馬でまた溶かしちまってさ。」
「はぁ~!」
アリスは布団から起き上がり、ロックの胸倉をつかんだ。
「あんた、何してんのさ!」
「ご、ごめ・・」
「問答無用!」
「ひぃー」
宿中にロックの悲鳴がこだました。
「楽しそうだな、お二人さん。」
赤毛の天然パーマの男がいつの間にか鍵のかかっていたはずの部屋に入ってきていた。
「誰だ?」
「誰?」
二人は、ほぼ同時に彼に質問した。
「俺は、カイラス・ミルテ。冒険者だ。」
「何の用だ」
ロックはアリスをかばうように前に出た。
「金のない君たちに、丁度いいクエストを持ってきたんだ。あ、でも、秘密のクエストだから他言無用だよ。」
そういうと、ミルテは二人にクエストの書かれた用紙を差し出した。
「おい、報酬が今までのクエストより、2桁分も多いぞ」
「怪しい。私はパスよ。絶対罠だよ。ロック」
「いいや、俺のセンサーにビビッと来たね。」
「そのセンサー、壊れてんじゃない?ロックの勘って、全然あてにならないし。」
「なんだと!」
「とにかく、私は行かない。今日は家でゴロゴロするわ。」
そういうと、アリスは自分の布団の中に潜った。
「よし、じゃぁ、早速クエストを受注するために、ギルドに向かおうぜ。」
「あぁ、その必要はないよ。もう、受注してる。」
「ありがてぇな」
「いえいえ。」
「っで、これからどこ行けばいいんだ?」
「それは・・・天国に最も近い塔さ。」
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