第7話 暴かれる人狼の正体 ~狼は猫をかぶる~
「おい、今、石化って、言ったか?」
大男がロックの肩をがっしりと掴んだ。
「へ、へぃ」
ロックは冷や汗をかき、目を泳がせた。
「何よ、あんた、ロックに何する気?」
アリスは大男に食って掛かった。大男はアリスの剣幕に押され、引き下がった。
「おい、アリス、これは俺の問題だ。よし、外出て話そうぜ。その方が、この店にとっても・・・アタッ、何すんだ、てめぇ。」
遠くにいた客が、ロックに石を投げつけた。
「帰れ、疫病神。」
「そうだ、帰れ帰れ。」
「石化病の病原菌をまき散らすな!」
「帰れ、帰れ、帰れ、帰れ、帰れ」
店内の空気が一気に険悪になった。
「アリス、ここを出よう。」
ロックは真顔でアリスの手を引っ張った。
「いやだ、ここで退いたら、ロックは・・・」
アリスはロックのこめかみに血管が浮き出ていることに気が付いた。
「ロ、ロック・・・。」
二人は大人しく店を出た。
「あぁ、もう、結局何も食べれなかったじゃねぇかよ。てか、なんなんだよ、店に石持ってくるとかどんだけ治安悪いんだよ、この村は。」
ロックは村の広場で地団駄を踏んだ。
「あ、あの」
細身で茶髪、八重歯の生えた男がロック達に話しかけてきた。
「宜しければ、私の家に泊まりませんか?」
「え、良いんですか?」
「えぇ、もちろん。私は、この村の人たちと違って、石化病が感染症じゃないって知っていますから。おそらく、さっきの騒ぎでこの町中にあなたが石化病ってことが広まったでしょう。こうなったら、宿をとることも簡単ではありません。」
男は淡々と語った。
「あ、申し遅れました。私、ボルフ・エルクです。エルクでいいですよ。」
「ありがとうございます。エルクさん。」
「いえいえ、お気になさらず。丁度、話し相手が欲しかったんです。」
そういうと、エルクは彼自身の家に案内した。
清潔感のある彼の見た目に反して、彼の家は壁紙が剝がれていて、中の柱まで丸見えだった。しかし、それ以外は特に散らかっている様子もなく、まるで、建設中の部屋に家具だけおいたような内装になっていた。
「すみません、最近、猫に壁をやられてしまって。」
「へぇ~、そうなんすか。」
(それにしては、かなり派手にやられてるな。)
「猫を、飼っているんですか?」
アリスは興味津々そうな顔で聞いた。
「え、えぇ、今は出かけていますがね。」
「なーんだ、猫ちゃん、モフりたかったなぁ。」
アリスは目に見えて落ち込んだ。
「大丈夫です。今日は、きっと、多分、おそらく、帰ってくるはずです。」
「はっきりしねぇな。」
「それより、ご飯食べませんか。お腹すいたでしょう。」
「確かに、もう夕飯時かよ。時間が経つのは早いな。」
「あ、私手伝います。」
「応、頼んだ。」
「ロックも手伝いなさい。まだ、お金勝手に使ったこと許してないんだから。」
「は、はい」
三人は協力して、シチューを作った。途中、ロックが砂糖と塩を入れ間違えそうになったり、皿を何枚か割ったりしたが、無事完成した。
「いただきます。」
三人は同じテーブルを囲んで、三人で作ったアツアツのシチューを食べた。
「そういえば、気になっているんだが、なんで、一人で暮らしてるのに、椅子が三つあるんだ?」
「あぁ、それは私の妻と一緒に暮らしていた時のものです。」
(暮らしていた。ということは、今はもう・・・。ロック、これは明らかな地雷だ。引き返して。)
アリスは必死にアイコンタクトをした。
しかし、
「じゃぁ、今、奥さんはどこにいるんですか?」
(バカ。何やってんのよ。ロック)
「それは、その・・・。」
ロックはようやく察しがついた。
「わりぃ、良くないこと聞いちまったな。・・・ちょっと、外の空気吸ってくる。」
ロックは家を飛び出した。
「すみません、うちのバカがとんだ失礼を。」
アリスは息子の不祥事を謝罪する母親のように深々と丁寧に頭を下げた。
「私は、気にしていませんよ。もう、八年も前のことですから。」
そういって、彼は洗い場に自分が料理を食べた皿を持っていくと、皿を洗い始めた。
洗い場には、大きな窓があり、そこから見える満月がアリスにとってとてもきれいに見えた。
「月がきれいですね。」
エルクは皿を洗いながら、ふとつぶやいた。
(え、こ、これって告白!いやいやいやいや、この世界には月はきれいですねを愛してるって読むおっさんはいないのよ、アリス。それに、この人私より年上で・・・。)
アリスは顔を赤らめた。
「こんな、月が綺麗な夜には・・・」
エルクが振り返った。首が、骨の砕ける音を立てて真後ろへと百八十度回転する。
「女の悲鳴が、よく似合う!」
その顔の半分は、すでに毛むくじゃらの「狼」へと変貌していた。
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