第6話 追加クエストなんて聞いてない!? ~するめと石と狼~
ロックとアリスはギルドの支援によって建てられたこぢんまりとした宿の一室でDランク昇格祝いをしていた。
「アリス、俺たちなんで一緒の部屋なんだ?年頃の娘とこんな三十路越えの男が二人きり、同じ屋根の下
って、その、なんだ、あれだ、そのぉー・・・。」
ロックは顔を真っ赤にして、居心地悪そうに視線を泳がせていた。
「私は、全然気にしてないですよ。」
床で布団を引いて寝転がるアリスは西の国名物のダイダイ・ダイオウイカのするめを齧り、素っ気なく答えた。
「そ、そうなのか」
(やっぱり、アリスって、ちょっと不思議な子だよなぁ。)
ロックはベッドの上で頬杖をついて、アリスの近くのダイダイ・ダイオウイカのするめをとり、口に運んだ。
ガキン
「硬すぎだろ、このするめ。今、絶対するめから聞こえてはいけない音がしたぞ。」
アリスは半目でロックを見上げた。
「クッソ、こうなったら、『部分石化!』」
ロックが叫ぶと、彼の歯がみるみるうちに石化した。
「これで、食える。」
そういって、するめをバリボリと音を立て、石化した歯でかみ砕いた。
「へぇ、そんなこともできるんですね。」
「石化病患者の特権だな。あっ、大丈夫だ、石化した歯は市販の金の針で元に戻る。」
ロックは金の針を取り出し、歯に少し当て、元の歯に戻した。
「ってか、お前このするめを食べて、よく歯が無事だな。」
「一応、健康優良児として、前の学校では有名でしたからね。」
アリスは鼻の下を伸ばした。
「はぁ、すげぇな」
ロックは金の針を襟の裏にしまい、柔らかそうな菓子がないか、手探りで探し始めた。
「なんかねぇかなぁ・・・」
コンコンコン
「失礼します。」
受付嬢のミリナがいきなり二人の部屋に入ってきた。
「いきなりですが、お二人に今からクエストに行ってもらいます。」
二人は露骨にいやな顔をした。
「お二人とも、前回初めてのクエストで二段階昇格されましたね。」
二人は首がもげそうなほどうなずいた。
「まずは、おめでとうございます。なんですが・・・。」
「ギルド内でも、前例がないことでして、急遽もう一つのクエストを受けてくれと帝国のギルド本部から通達が来まして、お二人には、その、こちらのクエストを受けていただきたく・・・。」
ミリナは二人にそれぞれ一枚ずつ羊皮紙のクエスト依頼文を差し出した。
「こ、これをやるのか!」
ロックは顔をひきつらせた。
二日後、二人は馬車に乗って、西の国ウエスタの中でも、屈指の田舎、ボルフェンに着こうとしていた。
小麦畑は風を受けキラキラと輝き、まるでこの村に来たことを小麦の一本一本が手を振って、歓迎しているように二人には見えた。
「こんなのどかな町に、人狼がいるのか。」
ロックはクエスト資料に改めて目を通した。
「ロックさん、今回の討伐対象の人狼ってどういう魔物なんですか?」
「あぁ、ちょっと待て。」
ロックは鞄の中から、図鑑を取り出した。
「えーっと・・・、あった。人狼。普段は人間に擬態して社会に適応しているが、満月の夜になると人を襲うため、狼の姿に変化するだってさ。」
「いわゆる、狼男ってことですね。」
「まぁ、そうだな。人間への被害も結構報告されているらしいからな、警戒はしておけよ。」
「はい」
「つきましたよ。」
御者は村の入り口に馬車を止め、二人を降ろした。
「では、またのご利用をお待ちしております。」
そういって、御者だけをのせた馬車は土煙を上げ、終わりの見えない一本道を進んでいった。
「いやぁー、遠かったな。丸二日かかっちまった。おかげで、お腹ペコペコだぜ。」
「ロック、前のクエストの報酬金まだあるよね。」
「もちろんあるぜ。」
(ちょっと、競馬に使ったけど。まぁ、ばれねぇ、ばれねぇ。)
「ちょっと、お金、前より、少なくなってる。」
アリスはロックを睨んだ。その目から、以前にあった、人生の先輩に対する尊敬は微塵も感じられず、逆
に、侮蔑と確信をはらんでいた。
「ロックさん~、勝手に使っちゃダメって前言ったばっかでしょ。」
「ごめーん」
ロックは頭を思いっきり地面にぶつける勢いで土下座をした。
「まぁ、ひとまず、あそこの食堂に入ろうぜ。話はそこで・・・」
ロックは顔を上げようとした瞬間。
「頭が高い」
アリスはロックの頭を踏みつけ、無理やり頭を地面に押し付けさせた。
「グベッ」
その後、土下座の姿勢のまま、ロックはアリスに連れられ、食堂に入った。
「お、お客様、二名様でしょうか?お、お席にご案内いたしますね。」
店員が困惑した表情で、アリスを見つめる。
「は~い、お願いしまーす。」
アリスは屈託のない、それでいて底知れない笑顔で返事をし、その場の空気が一瞬で凍りついた。
「ロック~、ちゃんと反省してる?」
「し、しています。しています。」
「じゃぁ、これ食べて。」
アリスは皿に盛りつけられた、激辛ダイダイ・ダイオウイカのイカ墨パスタをロックの前に差し出した。
カプサイシンの強烈な香りがロックの鼻を突いた。
(大丈夫、大丈夫だぞ。俺。こんなの、味覚の感じる部分を部分石化させれば、余裕で完食できる。)
『部分石化』
ロックが大声で叫ぶと店内で食事をしていた客全員が椅子を鳴らし、一斉に立ち上がった。
(あれ、俺なんかやっちゃいました?)
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