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とまれ、青春  作者: 露草 彼岸
1章 運命探しの美青年
32/33

果たしてそれは誰の人生のイベントなのか

「ほへぇ、そんなイケメンがいたんだねぇ。ゆいっちと同レベルって想像できないよぉ」

「そうだね。正直、目が焼けそうだった」

「男の子でそれだもんねぇ。女子が見たら脳まで焼かれそうだぁ」


 翌日、今日も今日とてバイトの僕は碧日さんとともに店にでていた。

 昨日とは打って変わって客入りの数は至って尋常だ。この光景をみると、やはり神山さんの存在というのは異常なのだということがよくわかる。


「今日もきたりしないのかなぁ」

「どうだろうね。ただ、こないとはいいがたいのがなんとも」

「なんでぇ?」


「それは、まぁ」と僕は呆れたような顔になっていたと思う。


「多分、その人も神山さんに落とされたっぽいんだよね。神山さんについてききたいって言われたし」

「わはぁ。さすがゆいっちだぁ。ゆいっちはなんて?」

「連絡先は教えなくていいってさ」

「うへぇ、そうなんだぁ。私とか下々の人間からするとすっごい勿体ないって思っちゃうなぁ」


 その言葉には男の僕でも共感できる。

 とはいえ、よくあることでもあるのだろう。僕たちにとっては中々手に入らないものでも、それが簡単に手に入る人々にとっては特別視する必要がないっていう。


「そういうこともあって、もしかしたら今日も神山さんを求めて入店するかもしれないよ」

「それはそうかもぉ。ちょっと楽しみだなぁ」


 そんなことを言いながらも別にそわそわしたりはしない。ただ、目を輝かせている。相も変わらずのゆったりとした雰囲気だ。

 そんなこんなで1時間。かくして、本当に件の美青年がきたのだからびっくりする。

 対応するのはまたもや僕。流石に向こうも僕のことは覚えていたようで「あ」なんて気まずそうにしている。気まずいのは僕もなんだけど。

 昨日もそうだったけれど、彼の登場によって店の雰囲気が一変する。神山さんばりの空間掌握能力だ。

 特に私情をはさむことなく、席を案内し、そそくさと僕は定位置に戻る。

 そうして今回はぽてぽてと碧日さんが近づいてくる。お盆で口元を隠している。


「わひゃあ。ねぇねぇ、もしかして、あの人が――」


 そのまま頷くと、再度「わひゃあ」と碧日さんの嘆息が漏れる。


「すごいねぇ、あれ。なんというか、すっごくすごいよぉ」

「語彙力」


 ただ、語彙力が溶けるのも納得はできるイケメン具合だ。

 にゅっと裏手からでてきた店長が苦笑して戻っていく。あ、もうその程度の反応で済ませちゃうのね。


「ここを気に入ってくれた、というなら良いお客さんなんだろうけど、昨日の今日と考えると、多分僕の予想通りの来店理由なのかな」

「そうだねぇ。店長さんには悪いけど、その可能性が高いかもぉ……」


 実際、メニューを開いたり、水を飲んだり、そういう視線が動いて然るべき一瞬のタイミングで彼の目が周囲をみているのがわかる。なんでわかるって彼のことを観察しているからに他ならない。だけど、僕の視線に彼が反応することはない。だって僕と同じように(理由は違うけれど)彼のことをみている人はたくさんいるのだから。むしろ、熱意の視線という点では周りの女性客の方がすごいんじゃないかと思う。

「すみません」という声がすれば、即座に碧日さんが注文をとりにいく。なんぞその速度は。

 そうして戻ってきた碧日さんは照れ照れしている。


「間近でみたけど、やっぱりイケメンだったぁ」

「それはよかったね」

「あの人、何歳くらいなんだろぉ?」


 再度、美青年に目を向ける。

 みてくれはもう大人だ。体も仕上がっているし、顔の彫りもあり、だけど肌年齢は若そう。


「大学生か、高3くらいとか?」

「だよねぇ。私もそうかなぁって思うよぉ。学校とか、どこいってるんだろぉ?」

「きいてくれば?」

「でも、代わりにゆいっちのこときかれるもん」


 そこで神山さんを売らないのは碧日さんの良いところだ。


「学校、ねぇ……」


 流石に遠いところの学校にいて、なんかの用事でここを寄ったにしてはポップアップが急すぎるし、偶然に偶然が重なり過ぎている。だとしたら、この近くの学校となる。だけど、大学はこの辺りにはないし、ここから近い大学に通っていたとしても、家がこのあたりにないのであれば、わざわざ最寄りの駅から20分くらいかけてこの店に立ち寄ることになる。それも変だ。そうすると、この近くの高校とかになるけれど、そうすると考えられるのは……


「僕の学校か、碧日さんの学校くらいか」


 もし彼が高校生であるのなら、地理的にそのどちらかと思ったのだ。

 だけど、碧日さんはゆるゆると首を横に振る。


「私の学校にはあんな人いないよぉ。いたら絶対噂になってるもん」

「だよね。だけど、僕の学校にも――」


 そこまで口にして、僕は続きを言えなくなる。

 いない? 本当に? 頭の中で可能性を模索する。何かひっかかるものがあった。それは神山さん。神山さんは学校ではどのような立ち位置だった? それは――


「……あっ。6大アニメキャラ」

「なぁにそれぇ?」

「僕の学校のよくわからないやつで、学校には6人の、まるでアニメや漫画の世界からきたような人がいるってやつ」

「とばりんの学校ってそんな面白いのあるんだぁ。たとえばどういう人がいるのぉ?」

「神山さんとか」


 その一言ですべてを察したかのように「あぁ……」と碧日さんが頷く。


「なっとくぅ。確かにゆいっちはそうだよねぇ。じゃあ、ゆいっちと同じ感じのあの人も……」

「うん。そういえば、2年生に神山さんの男バージョンがいるって話、きいたことある」


 達也が前にそう言っていたのを思い出した。なんなら僕自身、神山さんに言ったこともあった。


「あまりに僕には無縁な話だと思って記憶のかなたに追いやっていたけど、もしかして」

「うん、もしかしてなんじゃないかなぁ」


 これは意外な接点だ。接点というかなんというか。

 ……ただ、まぁ。


「だけど、それで僕とあの人との関係は終わりだと思うけどね」

「うん? どういうことぉ?」

「だってさ、僕たちにとって彼は天上人で、学校が同じだからといって何があるわけでもないだろうし。遠くでみるのが精いっぱいって感じ?」

「あー……そうだよねぇ」


 碧日さんもイメージできたのか、ひとつ頷く。


「全力でアタックしたら、とか?」

「僕がそういうことする人だと思う? というか、何を求めてアタックするのさ」

「……腰巾着?」


 がっくしと僕はうなだれる。ナチュラルにひどいことをいう。


「でもほら、そんな頑張らなくても仲良くなる機会はあるんじゃないかなぁ。ゆいっちとも仲良くしてるんだし」

「まるで僕が目の前の美青年と仲良くなりたいかのような発言は大いに誤解を招くことになるからよしてもらえると嬉しいんだけど。それに神山さんとは成り行きでそうなってるってだけだし」

「それでも、だよぉ。もし仲良くなれたら私のことも紹介してねぇ」


 なるほど、僕を彼と仲良くさせたいのはそういう意図があったのか。

 回りくどいながらも効率的な一手に「そんな機会があるのならね」とだけ答えておいた。


 なお、神山さんがいないと悟った彼は頼んだ一杯の珈琲を飲んだ後、少しして席を立った。


 ・

 ・


「――という感じでね。あんなイケメンの時間を費やさせるとは、神山さんは恐ろしい人だと思ったよ」

「まぁ、神山だしなぁ」


 月曜日、昼休み。がやがやと騒がしいクラスで僕は達也に昨日一昨日のできごとを報告していた。

 今日は午前からテストが返却されていたけれど、あれはもう存在を抹消すべきだと思う。あとで燃やそう。


「つーか、そうだよな、絶対あのイケメン、6大アニメキャラの一角だろ。それがなにがどうして神社でみかけるなんて奇跡がおこるんだ?」

「まぁ、みるだけならそうおかしなことでもないんじゃない?」


 別に見たからといって、これで君とも縁ができたね♪ なんてことはないだろうし。


「だがよ、その後登張のバイト先にも現れるんだろ? どういう確率よ、それ」

「僕も驚いたよ。だけど、結果として目的は神山さんになったわけだし、そういう風に考えると、神山さんの人生におけるイベントにたまたま僕がいたって感じなんじゃない?」

「だとしたら神山の人生、やべぇな。俺たちに当てはめてみれば、人生において美少女とエンカウントするイベントが用意されてるってわけだろ? ずるすぎね?」


 ああ、なんて世の中は不公平なのかと達也が嘆くけれど。


「……へぇ、じゃあさ、達也は月城さんと出会ったわけだけど。月城さんのこと、美少女とは思ってないんだ?」


 そのように問うと、途端に達也の顔が真っ赤になる。


「は、あ、い、いや、ち、ちげぇだろ、それ、それと、これ、とは」

「そう? だって、必然か偶然かはさておき、イベントってところでは達也だってそういうイベントがあったわけじゃん? なのに神山さんを羨ましがるってことは、月城さんと出会ったことは、達也そんなに嬉しくないのかなぁって」


 なんというか、我ながら嫌な質問の仕方だとは自負している。

 だけど、そうでもしないと達也は中々心の内をだしてくれないのだから仕方ない。仕方ないのだ。決して達也を色恋の話題でおちょくりたいとか、そういうわけではないのだ。


「う、嬉しいに決まってるだろ! だ、だが、それとこれとはなぁ」


 照れながらも僕の言葉に反論しようとする達也。

 ――そのタイミングで、既視感のあるざわめきを肌で感じた。

 クラスの外でざわめきの声が響いている。


「……なぁ、登張。俺、この感覚、最近も感じたことあるんだが」

「奇遇だね。僕はなんと3回もこの感覚を味わってるんだよね」


 お互い何がいいたいのかを確認しあい、頷く。

 これは、あれだ。

 徐々にざわめきが近づいてくる。

 そうしてクラスの前を、ひとりの美青年が通りがかった。もう描写もいらないだろう、件の彼である。

 予想通り、この学校の生徒だったようだ。なんとまぁ、制服が様になっちゃって。

 相も変わらずあらゆる人の脳を焼きながら、穏やかな笑みを浮かべた彼はゆっくりと廊下を歩いている。果たして何の用で1年のクラスの廊下を歩いているのかは不明だけれど、可能性としては神山さん探しだろうか。向こうも向こうでバイトをしているなら近くの高校に通っているかもしれない、と考えてもおかしくない。

 その目が一瞬クラスの中をのぞき、かつ僕のことを見たような気もしたけれど、気がした程度のささいなものだ。

 そのまま彼はクラスを通り過ぎ、されどざわめきだけは置き去りにしていった。

 ただ歩いただけだというのに、ほとんどの人が今きた美青年の話題で持ちきりになる。あれぞまさに6大アニメキャラにひとりに違いないという声も多数だ。なんというか、四天王みたいな感じの紹介文になってない?


「いっひゃあ……まじでやべぇな。予想してたっていうのに、寝てる時に爆音流された時みてぇな心臓の負担があるわ」

「それ、表現としてはただしいの?」


 ともあれ、3度目になってもまだ息をついてしまうくらいだ。神山さんしかり美人も3日過ぎればというけれど、多分あれは嘘だと思う。流石に3日で慣れないって。


「……んで、あの様子じゃあ、十中八九神山探してるよなぁ」

「うん、だと思う」

「けどよ、今頃神山のクラスに到着してんだろうし、告白なりなんなりしたら黄色い悲鳴でねぇか?」

「まぁ。だけど、きこえないね」


 達也のいうように、もし彼が神山さんに接触したのであれば、絶対なにかしらこちらまできこえてくるはずだ。それが、きこえない。


「……威力偵察か?」

「あのイケメンにいる? それ」

「だが相手が神山だしなぁ。いきなり出会って5秒で告白はそもそもどんなやつも引くだろ。つーか、登張、お前のほほんとしているが、いいのか?」


「何が?」と首をかしげると、達也が微妙な顔をした。


「いや、だから、あのイケメンに神山がとられることになるんだぞ?」

「……あのね、そこで僕がBSSになるとでも?」


 盛大にため息をついてみせる。


「前々から言っているように、僕は神山さんと付き合いたいだとか独占したいとか、そういうのはないよ。そんな気持ち持ってても何の結果にもつながらないし、どれだけ想ったところであり得ない妄想にしかならないからね。だから、この結果神山さんに彼氏ができたところで良かったねという一言でしかないんだけど」

「まぁじで、夢がねぇよなぁ、お前……」


 合理的と思ってほしい。第一、現実なんてそんなものだ。人には然るべき人というのがいる。まかりまちがっても神山さんの然るべき人というのは僕ではない。

 むしろ、神山さんとの契約を考えれば、ちょうど恩恵と契約のバランス的に潮時でもあるのではないだろうか。もう少し恩恵が欲しかったという気持ちはあるにはあるけれど、あんな絶世の美少女と家で遊んだり、水族館に行ったという経験だけでも十分すぎる特別感だ。その特別を彼に渡すのも世の理というものではなかろうか。

 そう思っていたのだけれど、やはりざわめきはありつつも、特に何かアクションがあった雰囲気は感じない。


「……様子、見に行ってみるか?」

「僕はいいや、多分人混みとかできてるんじゃない?」

「あ、そうか……んじゃあ、俺もいいかぁ……」


 気になる気持ちはある。だけど、現在クラスの外には結構な人がでているのだ。あれに揉まれるのは勘弁。というかこれが陰キャの限界なのだ。


「結果については次神山さんとバイトが被ったときにでもきいてみるよ。前はあんま興味なさそうだったけど、実際に話してみると、心情変わってもしかしたら、とかもあるかもしれないし」

「頼むわ。俺、かなり気になる」


 そこまで話して昼休みの終わりを告げる鐘がなる。

 さて、この後もテストの結果が返ってくる。お願いだから少しは素敵な点数でありますように。

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