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とまれ、青春  作者: 露草 彼岸
1章 運命探しの美青年
30/33

おみくじの結果はなんなりや?

 学期明けテストを終えた翌日。

 テストの結果は来週返ってくるらしいけれど、手応えでわかる。多分点数変わってない。

 これはいよいよ僕の何かが悪いのか、世界が僕にそういう運命を求めているかのどちらかなのではないかと思ってしまう。

 いいさいいさ、学期明けテストの点数はそこまで内申に響かないはず。響いたら、響いてないことにする。

 そんなこんなで次の部活の日。僕たちは大宮駅まで繰り出していた。

 あたりを見れば人、人、人。集団がいると即座に疲弊する僕と達也はややげっそりな顔をしていた。


「なんで、人間は存在するのか……」

「同意だぜ……」


 人間は簡単に哲学者になれるものだ。本物の哲学者とは異なり、不毛な考えばかりなのだろうけれど。

 月城さんは猿島や水族館の時もそうだったけれど、そこまで人混みが苦手というわけでもないようだった。ちょこんと達也の隣に立っている。


「で、目的の神社はここにあるの? 見る限りビルしかみえないんだけど」

「ああ、そんなに遠いところにはない。ここから歩いていうて15分くらいか?」


 高架橋の上を達也に連れられるがままに歩いていく。


「そういえば、大宮ってくるの地味に久しぶりかも」

「確かになぁ。俺たちは行ったところでな場所だしな。月城はどうだ?」

「たまに……買い物でくるよ……」

「まじかよ、しゃれおつや」


 こういうビルの立ち並ぶところは正直何があるのかわかっていない。道すがら看板をみれば居酒屋、服屋、飲食店、よくわからない店って感じ。果たして今ここにいるたくさんの人々は何を求めてここにきているのだろうか。いや、仕事と言われてしまえばそこまでなのだろうけれど、そうじゃない人は、ということだ。

 そのまま歩いて少し。やがて、信号の先がそのまま参道になっているところについた。


「うわ、なにこれ」

「ふっ、どうよ」


 何故か達也がどや顔しているのが腹立つ。だけど、すごいものはすごい。

 街中に突然木々に挟まれた参道が出現したのだ。参道を踏み入れれば、少し先に鳥居が建っているのがみえ、さらにその先の景色を一層静謐に感じさせる。街と自然のギャップが不思議な感覚だ。

 鳥居の前で一礼し、歩くときは真ん中を歩かない。


「神社も色々とマナーがあるもんな。ちなみに今は参拝の時に名前と住所を言うんだとか」

「それ初耳なんだけど」

「なんでも神様もたくさんの人からきいてもわからなくなるからだとか。が、公式のルールってわけじゃねぇし、どんどん厳しくなるこの社会でできたマナーなのかもなぁ」


 木々がそよぐ。


「風……涼しいね……」

「やっぱり、確かに涼しく感じられるよね」


 月城さんの言葉に僕も頷く。自然の影響なのか、木陰になっているからなのか、雰囲気のおかげなのか、涼しい。なるほど、昔の人がエアコンを使わなくても生きていけたのは、自然とともに暮らしていたからなのかもしれない。

 平日であるのに、参道を歩く人は少なくない。基本神社ってシーンとしていて、人がいないという印象だったけれど、参道の大きさといい、この神社は大きめなのかもしれない。

 他愛もない会話をしていれば段々と神社の入口であろう鳥居までくる。


「これ、思ったより大きい?」

「ああ、恐らく大きい。他の神社と比較したことがねぇからわかんねぇが、池もあるし、橋もあるしな。いやぁ、近場にこんな神社があるのは嬉しいぜ!」


 そう言って意気揚々と達也は進む。

 実際大きいのだろう。地図で確認してみると、結構な敷地にみえるし、櫻門というやつもあれば神楽殿もある。あと、巫女さんとか禰宜?さんとかもいる。

 なんだろうか、不思議と引き締まるような気持ちだ。

「うし、お参りしちまおうぜ」という達也の言葉に従い、拝殿の前まで移動する。

 財布からお金を取り出し――


「あれ、こういうときって今、いくらいれればいいんだっけ」

「いくらでもいいんじゃね? 大事なのは気持ちだ気持ち」


 それを言い訳に10円だけ取り出す。神様、貧乏な高校生をお許しください。


「ここ……神様は誰になるのかな……」

「確かにお参りっていっても誰にってなるや」


 その言葉に達也も「確かに」といい、スマホを取り出す。


「んーっと……ああ、あったあった。御祭神は須佐之男命、稲田姫命、大己貴命だそうだ」

「須佐之男命はきいたことある。でも、他は?」

「奥さんのクシナダヒメと……国造りの神のオオクニヌシノカミだね……」

「と、月城ペディアが教えてくれたぜ」

「ありがとう、月城ペディア」


「えへへ……」と照れるように月城さんが笑みを浮かべた。


「多分……御神徳は縁結びだと思う……スサノオとクシナダヒメの結ばれた話は有名だし……オオクニヌシノカミも……さっきの2柱の娘神と駆け落ちしてるし……」

「ほへぇ、詳しいね、月城さん」

「うん……名前……よくきくから調べたことがあって……」


 流石の好奇心だ。僕もソシャゲのゲームではいくらでもきいたことはあるけれど、わざわざ神話のことまで調べたことはなかった。何を覚えていると言われても、ヤマタノオロチの退治だったり因幡の白兎だったり、それくらいだ。


「……にしても、縁結び、ねぇ」


 ちらりと意味ありげに達也に視線を送ってみる。

 途端、「な、なんだよ」と彼はしり込みした。


「べっつにー? だけど、縁結びだってー。達也、誰と縁を結ぶんだろうなって思ってー。ねー、月城さん、誰になるんだろーねー」


 明らか棒読みで月城さんにパスすれば、彼女は上目遣いに達也をみた。


「久野君は……縁を結びたい人……いる……?」


 その問いにあわあわと口を震わせた達也は、うめくような音をだしつつ、「の、ノーコメントで」と絞り出すように返した。


「はぁ、へたれ、へたれや、へたれがおる」

「う、うっせ! ほら、とにかく、お参りすんぞ!」


 が、僕も月城さんも達也が言葉を濁すことは想定していた。お互い、軽く肩をすくませて、達也の後を追い、賽銭箱の前に立つ。

 賽銭を納め、二礼二拍手一礼。手を合わせ、見たことのない神様へ祈りをささげる。この祈るというのがよくわからないというか、どんな風に祈ればよいのかといつも祈り始めてから思ってしまう。

 ひとまず自己紹介。そしてお祈りの内容でも口にしてみる。縁むすびというなら願うことはひとつ。どうか、隣のへたれがさらに隣の健気な少女と結ばれますように。僕にはそういった出会いはないだろうから、その分をこの二人に回してほしいばかりだ。

 一方的な願いを押し付けられて神様も困ったものだと思うけれど、言いたいことは言わせてもらえたと思う。もう一礼して隣をみれば、二人はまだ祈りをささげているようだった。

 達也は目をぎゅっと瞑り、どこか必死そうな感じ。月城さんは静かに、祈っている。終わりを待ってみんなでその場を離れる。


「達也、なんか必死そうだったけど、何祈ってたの?」

「ぜってぇ教えねぇ」


 取り付く島もない返答だ。


「ひとまずこれで、最低限しなくちゃいけねぇことはできたな。あとは……お」


 達也が視線を向けた先。そこにはおみくじがあった。なんか達也の目がきらきらしている気がする。


「おみくじ、おみくじあるぞ! やろうぜ!」


 と、そわそわしている。


「達也、そんなにおみくじ好きだったっけ」

「あたぼうよ! なんせ占うなんてなかなかない体験だしな!」

「私……占えるよ……?」


 月城さんの言葉に、達也が「あ」とこぼす。


「た、確かに、月城がいるな」

「……浮気……?」

「い、いやいやいや、待て! それも浮気判定になるのか!?」

「ふふ……冗談……占いは……冗談……」


 その言葉にふぅ、と安堵の息をつく達也。

 ただ、少しして何か引っかかるような顔をする。


「ん? 占いは?」

「私もおみくじ好き……行こう……?」


 だけど、達也の袖を小さくつまみ、急かすものだから「あ、ああ」と達也は言われるが侭におみくじの方へといく。

 ひとりずつ、おみくじを引く。そういえば、こんな体験も本当に小さな子供以来なのではないだろうか。


「せーのっ」


 という達也の合図で一斉に中を開く。

 そして、少しの沈黙の後に、誰かが息を吐いた音がきこえた。


「全員、結果はどうだった?」

「私は……中吉……」

「くっ、俺は小吉だった。登張、お前は?」


 達也が僕をみる。一方で僕は首をかしげながら答えた。


「初凶末吉、だって」

「なんじゃそりゃ」


 そんなことを言われても僕もわからない。

 例のごとく、月城ペディアをみると、期待通りに教えてくれた。


「この神社のおみくじの種類のひとつ……初めはよくないけど……段々よくなってくるみたい……新しく物事を始める時は苦労がある……そういう意味もあるとか……」

「へぇ、そういうのもあるんだ。初めは凶、末は吉ってことか。……達也の青春こじらせが凶とか?」

「だったら、それに慣れてきて吉に考えられるようになるってことだぜ?」


 器用に達也が言葉を返してきたことで、僕は続きの言葉を諦めた。多分何か言ったら逆に追い詰められそう。


「うし、あとは内容だが……」


 そこまで言って、達也の目が止まる。

 その瞳の位置をみれば、恐らく見てるのは上段の方。そして、そこにあるのは恋愛とか待ち人とか、そのあたりに違いない。

 さっと、達也のおみくじの内容を確認した僕はそのままスピーカーと化して月城さんに届けた。


「達也、待ち人きたる、だって。これ、月城さんのことでいいんじゃない?」

「お、おい、登張!?」


 だけど、達也が僕を抑える前に、月城さんがずいと達也に近寄る。


「私も……待ち人……きたるだって……」

「お、おう。ソ、ソウカー、ヨカッタナー」

「でも……きても結ばれるとは限らない……というのはわかってるから……もっと……久野君のことを知りたいし……私のことも……知ってほしいな……」

「ハ、ハイ」


 おお、ぐいぐいと行く。こういう時、占いって便利だなと思う。こういう攻める口実をつくれるから。

 達也は顔を赤くしながらもやんややんやとどうにか月城さんのアプローチを回避していき、やがて耐えられなくなったのか大幅に距離をとって荒く息をつき始める。


「つ、月城、と、とりあえず、そこまでで……頼む……恥ずか死してまう……」

「……じゃあもっと」

「容赦なさすぎひん!?」


 傍から見ればもはやコントだ。だけど、そういうことを言い合えるくらい正直に話せているのだろうし、仲良しだってことなのだろう。嘘をつきながら付き合うカップルよりも、まだ付き合ってないけれど正直に言い合えている友達という方が健全だろうし。

 そんな二人を眺めながら、僕は自分の占い結果に目を落とす。

 待ち人……こず。

 ま、そんなものだろう。期待してなかったといえば噓になるけれど、きたる理由もなければ手繰り寄せる運命力もない。至って平凡な人間の結果と言えるだろう。

 どっちかというと、勉学の励めという一言にいらっときた。頑張ってるんじゃが?

 そうしておみくじをポケットにしまい、二人のやりとりが終わるのを待った。

 やがて、はうはうの体で僕の後ろに逃げた達也が「こ、これくらい、これくらいで勘弁してくれ!」と月城さんに懇願していた。な、なんて情けない……

 さすがにそう言われてしまっては、これ以上の猛追はできないと考えたのか「残念……」と月城さんはつぶやく。

「た、助かった……」と息をつく達也を差し出すことも考えたけれど、そこまでしてしまうといよいよ頭が爆発してしまうだろうし、僕も特に動きをみせることはしない。


「じゃ、じゃあ、ちょ、ちょっと神社周辺うろつこうぜ」


 達也の言葉に頷き、櫻門の方へ。

 その時、やけにざわりとした空気を感じる。

 それは達也も、月城さんも感じたようで、首を傾げた。


「なんだ、なんか、向こう、ざわついて――」


 櫻門の向こうがやけにざわついた声が聞こえる。そう思った瞬間。

 中から美少年が現れた。正確には美青年というべきなのか、奇麗に整えられた黒髪、一種非現実とも思える端正な顔立ち、優し気でありながら意志のある表情、瞳。すらりとしつつもほどよく鍛えられたことを感じさせる体型、女性を抱きしめるとすっぽりと胸に収まりそうな身長。

 アニメや漫画の世界から抜け出たような人物の存在に、彼の周囲の解像度が下がっているかのような錯覚を覚える。


「うわ……」


 思わず、達也が声をもらす。月城さんは驚きで口元を手で押さえていた。

 これは、あれだ。


「まるで、神山さんの男性バージョン」


 感じる存在感、描写のされ方がそれなのだ。

 彼は周囲の視線をものともせず、拝殿で静かに祈りをささげる。いや、いらんでしょ、縁結びを願っているなら、その顔と存在感でいくらでも手に入れられるだろうに、とそんな言葉が漏れそうだ。

 そのまま彼がいなくなるまで、視線が向き続けた。

 そうして姿が見えなくなったところで、全員がふぅ、と息をついた。僕や達也に限らず、すべての人が、だ。


「いや、いやいやいや、いやいやいや。いきなりの名画は心臓がもたんて。男に見惚れるって俺、初めての体験だぞ?」

「同じく。ああいうのって神山さんくらいかと思っていたんだけど、いるところにはいるんだね」


 驚き桃の木山椒の木。本当にびっくりだ。


「私も……神山さんにも驚いたけど……あの人は……もっと驚いた……」


 それは、もしかしたら異性だから、というのもあるのだろうか。

 月城さんの言葉にぴくりとわずかに達也の肩があがる。


「……じゃあよ、ひとめぼれとか、したんじゃねぇか?」

「……?」


 こてりと月城さんが首をかしげる。

 対して、達也はどこかそっぽを向いているような感じだ。なんならぐりぐりと足で砂をいじっている。

 その姿に瞬きをした月城さんは、理解したかのように目を見開くと、次いで嬉しそうにはにかんだ。そして、そっと後ろから達也を抱きしめる。


「いっ!? つ、月城!? なにを――」

「かっこいいと思ったよ……でも……好きなのは……久野君だから……」


 瞬間、達也の顔が真っ赤になる。あ、顔を手でおおった。

 多分、嫉妬、したんだろうね。月城さんとはまだ付き合えないなんて言っておきながら随分な態度だ。だけど、月城さんにとっては、あの美青年に嫉妬し、いじけたことが嬉しかったんだろう。きっと取られたくないと思ってくれたのだ、と。


「……馬鹿なことを言った。すまねぇ……」

「ううん……」


 まぁ、気持ちの確認は大事だ。強迫的にするならともかく。

 さて、そんな二人の姿の傍に僕がいるのも見た目が悪いだろう。

 と、隅の壁まで移動して、二人の姿を眺めることにした。ついでに写真もパシャリ。

 少ししてから達也が周囲から注目を浴びていることに気づいてさらに顔を赤くして、僕を探して遠くにいることに口を開閉して。だけど、抱き着く月城さんをないがしろにすることもできず。

 葛藤に葛藤する達也の姿に、僕は深くうなずくのだった。

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