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とまれ、青春  作者: 露草 彼岸
1章 運命探しの美青年
29/33

夏休み明けの部室

 9月。本来9月は秋に分類され、月見であったりと空気が冷えることで月が奇麗にみえてくる、というのもあると思う。

 だけど、悲しいかな。現代において、9月は秋ではなく夏だ。

 少し前までは夏が終わろうとしていた、と感傷的な気持ちになれていたというのに。始業式の今日も暑くて暑くて仕方ない。

 退屈な始業式を終え、どうにか間に合わせた宿題を提出し、今日は授業というわけでもなく早めに下校だ。明日からある学期明けテストのためのせめてもの慈悲ともいえる。


「宿題じゃなくて勉強ならまだやる気もでるけど、どうせ点数とれないと考えると俄然やる気がなくなる」

「お前のそれはほんと謎だよなぁ。見る感じ、変な勉強法はしてねぇのに」


 それは僕がききたい。どういうわけか、勉強をしてもしてなくても、同じくらいの点数。なら勉強する意味ないじゃんと思うが、じゃあ勉強をしなくても満足できるかというと、ちょっと心もとない点数。これから部室で勉強会なのだけど、どうせ点数とれないのならやる意味ないのではという気持ちが強くなってしまう。

 別棟4階奥の部屋、第4資料室とプレートのかけられた部屋をノックして入れば、黒の長髪を扇風機で揺らしながら英単語帳を読む少女が視界に入る。

 彼女もまた、僕たちの登場に気づき、儚げなほほ笑みを浮かべてきた。


「こんにちは……久野君……登張君……」

「や」

「うぃっす」


 こういったやりとりもだいぶ慣れたように感じる。達也なんて、当初は挨拶のたびに「よ、よお」ってどもっていたのに、今では自然に手をあげて挨拶をかわし、なんなら当たり前のように月城さんの隣に座る。そして、月城さんもまた、そのことに何の疑問も抱いていない。ほんと、さっさと付き合えばいいのに。


「月城、夏休み明けのクラスはなんか変わったことあったか?」

「ううん……久野君の方は……?」

「いんや、幸いっちゅうかこっちも何もなかった。先生が不穏なこと言ってたから学校こなくなったやつとかでてくるのかとちとドキドキしてたんだが、さすがにうちの学校、そこまで爛れてないよなぁ」


 「よっ」と達也はいくつかの参考書を開く。僕もまた、自分に課すべき科目の教材を鞄から取り出した。中身としては化学とか数学とか。至って平均的な点数しかとれない僕でも理系科目は平均点よりちょっと低めの点数になってしまうことが多い。あまり興味もないのだから点数が落ちるのは仕方のないことだけど、せめてやらかしの点数はとらないようにしたい。

 夏休み明けでああるのに、部室の中は久しぶり、という空気でもない。それもそうだ。つい数日前には図書館で宿題の消化をやっていたし、定期的に部活で会っているし。

 そのため、世間話もそこそこに僕たちは勉強をすることになった。

 暑さがなんともうっとおしい。かといって家だと誘惑が多すぎるし、今日は図書室も結構込んでいるのではないだろうか。


「……わからん、どういうことだ……」


 とある項目で何度読んでも理解できないところがあり、たまらず僕の口から言葉が漏れる。おかしい、日本語のはずなのにまるで頭に入らない。

 すると、ぴくりと月城さんが椅子から立ち上がり、僕の向かいから内容をみる。


「そこ……覚え方は……」

「ふむふむ、ふむ? ……ああ、なる。そういうことか。ありがとう、月城さん」


 流石は月城さん。言葉少なでも分かりやすく教えてくれた。

 お礼を言えば「どういたしまして……」とはにかみ定位置に戻っていく。

 その後も勉強会は続き、2時間ほどみっちりと無言の時間を経たうえで、達也が徐に「んあ~」と伸びをした。


「なぁ、ちと休憩しねぇか?」

「ん、賛成」


 僕もそう集中力が続くタイプじゃない。月城さんもこくりと頷くと教材を机に置き、前に伸びをする。なんかふるふる震えている。

 勉強するぞ、という空気感もなくなったので、僕は疲労のままに机に倒れこむ。あ、ちょっとひんやりしてる。


「しっかし、暑いよなぁ。まだまだプールとか行けるんじゃねぇか、これ?」

「だね……久野君……行く……?」


 突然のお誘いに達也が「うい!?」と声を裏返らせる。


「いいじゃん、プール。行って来たら? ふたりで」


 ふたり、という言葉を強調して僕は言う。いいじゃないか、プール。恋愛ものにおいてプールは必須イベントみたいなものだし。


「い、いや、だけどよ、そんな、男女がプールって不純異性交遊になるんじゃ……」

「何がどうしてそうなるのさ。第一青春イベントリストにプールって書いてあるの、知ってるんだからね」

「う、うぐ」


 大方、否定する理由としては恥ずかしいとか、ふたりというのにまだ慣れてないからとか、そんな感じだろう。へたれ。これでは付き合ってもその先に中々進めないのではないだろうか。そう思うと、俄然行ってこいという気持ちが強くなる。


「うん、そうだよ、達也は一回月城さんとプールに行ってくるべき。月城さんの水着姿をみれば、いくら達也でも気分が高ぶってそのまま木陰に――」

「言い方ァ!! だからなんで俺がそんな節操なしになるんだよ!?」


 赤い顔をして達也が叫ぶ。一方で、月城さんはもじもじと身をよじりつつも上目遣いに達也をみる。


「でも……久野君なら……」

「いい、いいから、月城もばかまじめに言わんでいいから! 言われた俺はどう返せばいいかわからんくなるんだわ!」


「終わり、この会話終わり!」とぶんぶんと手振りで達也は会話を終わらせる。


「だけど、いいの? 折角の青春イベントをクリアできるチャンスだろうに」

「お、俺にはまだレベルが高い! もっとこう、他にもできるやつがあるだろ!?」


 そういって、達也は慌てたようすでノートを開くと、「な、なんか、なんかあるだろ」と代替案を探し始める。月城さんをみると珍しくちょっと不満そうだった。


「月城さんもごめんね、達也が不甲斐ないばかりに」

「ううん……そこも……久野君の素敵なところだと思う……」

「おい、お前ら、きこえてるからな!」


 達也の突っ込みが入った。

 そうして少し、達也がうんうん唸り、やがて「あったぞ!」と快哉の声をあげた。

 

「まだ、このくそ暑いうちにできるやつ!」

「と、いうと」

「とどのつまり、神社への参拝だ!」


 …………?


「ごめん、きこえなかった。なんて?」

「いや、絶対きこえてたよな!?」

「いやだって、どう考えても青春イベントとは程遠いイベントにきこえたし、暑いからなんだという話だし。大体、参拝なんてリストにあったっけ?」


 僕が覚えている限り、お互いにだしあった案の中に神社巡りという項目はなかったように思う。


「後々俺がいれたんだよ。だってよ、よくあるだろ? 夏、青少年たちが緑に囲まれた神社で屯する光景! アニメで50回はみたわ!」


 言われてみれば、まぁ、ないとはいえない。日常系のアニメだったり、儚い系のアニメにはお約束だ。

 だけど、それは果たして青春なのだろうか。いや、達也にとってはアニメのようなイベントを青春と感じやすいからそうなのだろう。


「ということで、今度の休み、神社に行こうぜ!」

「いってら~」

「だから梯子を外すな!」

「だけどさ、別にそれはひとりで行ったっていいやつだろうし、それこそ月城さんといってくればいいだろうに」


 いつもはこう言うと、達也は顔を赤くして否定するのだけれど、今回は「ふっ」と何か含みのある笑みをした。


「いいか、登張。俺が提示した青春イベントは神社で『屯する』こと。つまぁり! 少なくとも3人以上は欲しい! っていうか、2人じゃなんか違うイベントになっちまう!」

「イチャラブシーンとか、告白シーンとか、実は余命僅かなんだみたいな衝撃の事実が知らされたり?」

「最後だけ湿度おかしくね?」


 なるほど。だけど、達也の言い分としてはその場にいくことではなく、その場で誰と何をするからしい。


「そもそも、月城さんは行くの? とききたかったけど」

「もちろん……行きたい……!」


 まぁ、そうだよね。そりゃあそうだ。


「私……神社も好きだから……雰囲気も好き……」

「お、そういってくれるとありがてぇ。陰キャは人を誘うときに罪悪感に蝕まれるから、まじで助かる」

「達也、僕を誘うときはあるの? 罪悪感」

「いんや? なんせ登張だし」


 僕だからなんだというのか。

 はぁ、とこれ見よがしにため息をついてみせる。


「お、折れた音がしたぜ。んじゃあ登張もきてくれるってことだな!」

「こういう時だけ、達也って強情だからね。色恋沙汰になると途端弱々になるくせに」

「こ、こ!?」


 ほら、そういうところ。


「じゃ、予定も決まったし、勉強に戻ろうかな」


外からはまだ生ぬるいというより、暑いくらいの風が吹いている。

夏はまだ続きそうだ。

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