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9、脱出

ちょっと長めです。

その頃、とある部屋で、一人の男が電話に向かって叫んでいた。

 「馬鹿野郎!!何故、今あれを放った!」

電話越しに、落ち着いた声が答える。

 「今の状態でも崩壊には十分です」

その返しに、しかし彼は怒鳴る。

 「そうじゃない!!今は、あいつらが調査に来てるんだ!!」

 「あいつら・・・とは?」

訝しげな声。

 「童顔の長身がいただろ、あいつは本当に危険なやつだ」

 「その男なら見かけましたが・・・」

 そこまで言ってその若い男は頭を搔き毟った。若い、のに白髪がもう生え始めている。

 その男があきらめた声を出す。

 「とにかく・・・ここまで来たら乗り掛かった船だ、この街だけしっかり遂行しろ」

 「かしこまりました」


















 ところは戻って屋上。

ドアを開けて四人がしなければならないのは、まず、この化け物の巣窟を抜け出すこと。

 それから、病院の屋上へ行くこと。

 

 そのためには、間違いなくウジャウジャいるであろうムカデの囲いを抜け出すこと。

 

 十分に、無理難題だった。

 「・・・行くか」

 谷がそう声をかけ、重みのある金属のドアに手をかけた。そして、暗い世界に足を踏み入れた。

 

 ギチョン。

 

 後ろで、ドアが閉まった。それは、もう戻れないことを現わしているかの様だった。


 中は暗かった。電気は止まってしまっているらしい。たまに、水の垂れる音がした。不気味な雰囲気が、その場を支配していた。四角い螺旋の様な階段を降り、一時間前に走った廊下を通り、そこには二年生の教室だけでなく、用務員室がある。そういうルートを通ると一番近い・・・

 「おい、何してる!とりあえず動く!」

 谷の声で体が反射的に動く。ぼんやりしすぎた。気を抜いたら、やられる。

 「莉音、柑奈、先行って」眞希が声を出す。

 「分かった」

 足の遅い女の子二人を真中につかせる。これによって全くはぐれずに進むことができる。

 「ここからどう行くんだい?」谷が落ち着いて問う。

 「この階段を一階まで駆け降りて廊下を通るのが一番早いです」

 「そうか、じゃあ行こうか」

 先頭に谷、中央に莉音と柑奈。しんがりを眞希がゆく。

 階段を駆け降りるのは慣れている。いつも手すりを使って二段飛ばしに降りていき、残り六段くらいになって飛び降りるのだ。

 その癖が抜けきらず、後ろから二段飛ばしで谷を追走する。そして、跳んだ。

それから二階の床に着地しようとした空中だった。

 廊下から巨大な蟲の顎が見えた。

 「!!」谷が立ち止まる。だが跳躍してしまった眞希は、太さ一メートルくらいのムカデに向かってまっしぐらに飛んでいく。

 「わああああああああ!!!!!」

 だがそれをよそに、ムカデは廊下を真っすぐ走っていた。

 せめてもの抵抗と思いっきり叩きつけた足は・・・床に当たっていた。

 ムカデは、廊下を疾走していた。何かを追いかけるかのように。

 「え・・・?」

 とムカデが行ってしまった方向を見ると、逃げていく、丹波の姿が。

 「おい・・・丹・・・」と呼びかけようとしたが、

 「ダメだ」という谷の静かな声で遮られた。

 「今呼んだら、僕らが死ぬ」

 「でも・・・」

 説得しようとして、でも諦めた。時間がない。

 そして眞希は、ポケットに入っていた小さいつぶてを一つ取り出した。

 それを、ムカデに投げつけた。

 長い背中の真ん中ほどにヒットしたそれは、まるで鋼に当たったかのように砕けた。

 「え?」

 「あそこまで成長したら、背中は異常な強度になるんだ」谷が説明している。

しかし、石が当たったのには気づいたらしい。天井を伝って、こっちを向いた。

丹波はどこかへ走っていく。

「おい丹波!近くの病院にヘリが飛んでくるぞ!そこに行け!」

「分かった!」

「馬鹿、そんな場合か!逃げろ!」

谷が叫んだ。反射的に走り出す。

その瞬間まで眞希がいたところにムカデが襲いかかった!!

無論、走り出した眞希にはその攻撃は届かない・・・のだが。

「キシャァァァァァァアアアッッ!!!」

気色の悪い雄叫びをあげてムカデが顔を眞希に向けた。

眞希たちは下へ駆け下りていった。

ムカデは激昂し、突進した。階段の壁に穴があいた。

「うわああああああああああ!!!!!」

必死で走る四人。追走するムカデ。

崩れ落ちるかのように階段を駆け下りていく。

だがそこには階段を這い上がってくるもう一匹の大きいムカデが。

「っ!!」

そしてそれは、莉音めがけて動きはじめた。

(マズイ!)

眞希は一閃、柑奈と莉音を追い越すと、跳んだ。

まっすぐにムカデの口へ。

「眞希くん!!!」

叫んだのは、柑奈だった。

ムカデは気を取られ、目の前の肉を食おうと口を開けた。

授業でやったハンドボールの要領で、石を手に取り、腕を振るう。

そのつぶては、バケモノの口に喰いこんだ。

「キシャァァァァアアアッッ!!」

どうやら痛みは感じるらしい。「それ」は

口を素早く閉じ、少し後退した。

 問題は、それが我を忘れて襲いかかってきたこと。

だが、谷は冷静だった。

「左に跳べ!!」

的確な指示。それに従って動く。

我を忘れたムカデが、右の袖スレスレを駆け抜けていった。

「今のうちだ、行くぞ」

そう谷が呼びかけ、四人は再び走り出した。


廊下には、何の気配もなかった。

ゆっくりと、息を整えながら歩く。いつ襲われても対応できるように。

そして教室からも、音がしない。

みんな喰われたか、逃げだしたようだ。

「隆大・・・」

「早く行くぞ」

谷がせかす。


玄関に着いた。


「よし、出よう」そう口にしてみても、実行するのは困難で。

正門の閉じられたゲートの周辺にはオスのムカデが詰めていた。

ムカデは、どこかで見たことのあるような陣形を組んでいる。何かを囲むような・・・群がるような・・・まさか?

そう、ムカデたちは、脱出しようとした生徒を喰っていた。

「・・・」柑奈は驚いて声も出ない。

「・・・生半可な気分で脱出はできなさそうだな」谷が独り言のように呟く。

そして、「ついてこい」と一言言うと、先ほど通った。

「何を?」と眞希が問う。

「素手であれに挑むのは少々無理があるだろ」

・・・確かに。でも、どうするつもりなのだろう?

「お前ら、技術の道具は個人用もってるよな?」

「あ・・・はい、持ってますけど・・・」

柑奈が訝しげに答える。

「取ってこよう」

「え・・・」

少し突然だったので、呆気に取られた。

気を取り直して向かうことにする。

2年4組は廊下のちょうど真ん中にある。

そこまで走るのは容易である。だが、恐怖はロッカーの中にあった。

眞希はドキドキしながらロッカーの扉を開けた。何も起こらない。

莉音も何も起こらない。二人は素早く技術の巾着を取ると、ドアを勢いよく閉めた。

その頃になって、鍵を開けるのに手間取っていた柑奈がやっとドアを開けた。


その瞬間に、柑奈が凍りついた

振り向いた莉音も息を呑む。

「おい、どうしたんだよ、早くとれ・・・」

最後に、背を向けていた眞希が振り向き、異変に気づいた。

ロッカーの中には無数の足。中くらいのそのバケモノの、見慣れたフォルム。

「危ねぇ!!!」

「っ!!」

間一髪、莉音が柑奈を突き飛ばした。

だが、今度は莉音が危ない!

眞希が動いた。


今度こそ、失わなかった。


反射的に巾着から出した武器が、小さいバケモノを捕えた。


ぐしゃり、と音がして、それは叩きつけられた。

眞希が、曲尺を手にして、息を荒げていた。

「危な・・・かったな」

「ありがと・・・」莉音も、覚悟はしていたらしい。もっとも、現実になってほしくないが。

「戻ろう、走るぞ」


玄関でムカデを睨みながら、谷が仁王立ちしていた。

「取ってきましたよ」眞希が呼びかける。

「うん、算段がついた。

カンナ・・・ごめん、君じゃない・・・ある?うん、それちょうだい」

と、鉋を莉音からもらうと、刃の部分を取り出す。


そしてそれを、ムカデの近くの石畳に投げつけた。

ワッとムカデがそこに群がるその一瞬。その隙をついて走るという。


「行くぞ!!」谷の合図で駆け出す。

同時に駆け出す。否、わざと眞希は出遅れた。

ムカデは食らいついていた肉を離れ、鉋刃が叩きつけられた場所に群がる。

さっきまで食べられていた中途半端な死体が転がる。

「丹波・・・!!」さっきまで怒鳴りあっていた相手が、体の所々をかみちぎられ、腸がはみ出てちぎれている。意識がなくなっているのは、かえって幸せかもしれない。

硬直した一瞬を、必死で抑えつけ通り過ぎた。


三人が校門を越え、今まさに眞希が門を出たその瞬間、ムカデがこちらに気づいた。

それに眞希も気づくと、石畳を滑りながら振り向いた。間合いは十分。

そして、工具から金槌を取り出し、石壁に叩きつけた。

キィィイイイイイン!!!

と、鋭い音がして、ムカデの動きが止まった。

「よくやった!」谷が叫んでいる。

その隙に、彼は三人に追いついた。


学校を脱出できたのは、この四人だけだったらしい。





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