3、不穏
同時に、眞希の意識も此岸へ戻ってきた。
「おい、本当に今日お前変じゃね?」と隆大が心配してくれる。うん、大丈夫なんだ、ただ、草津さんに何を言われるかワクワクビクビクしているだけなんだ。
なんて言えるわけもなく、「う、うん・・・」と曖昧に誤魔化し、ニコリと無理に笑うしかないのである。
「でも本当、ちょっと変じゃない?今日」
柑奈の援護射撃。やめてくれ。
「うん、本当、なんでもないから」というと、さっさとクラスを飛び出して行った眞希だった。
この舞が淵中の「恋愛沙汰」に利用されるスポットは、体育館の裏。そこの桑の木がポイントなのだとか。
昔そこで事故で死んだ男の子と待ち合わせを約束していた女の子がいてここで自殺したが、桑の木特有の魔よけの効果で、恋愛運だけが残った・・・という話を友達から聞いたことがある。
初めてそれを聞いた時は、怪談じゃないか・・・薄気味悪い・・・
と思ったけれど、それでもこのポイントがいまだに廃れていないあたり、上手くいく、というジンクスは本当のようだ。
そこで眞希は待った。
待った。
待ち続けた。
が、いつまでたっても草津七穂を見つけることは出来なかった。現れなかったのだ。
眞希が桑の木の下で待っている間、様々なことが起こっていた。
まず、英語教師、渡大成は、異様な気配を察知し、振り向いた。
いくつもの、触覚のような「アシ」
丸く開いた「クチ」の至る所から生えている「キバ」
透けている内臓。
「バケモノ」と表現すべきそれは、ムカデに酷似していた。違う点は牙がたくさんあること。
それから、人を喰うこと。
硬直してしまった渡に触角を伸ばし、口をこじ開ける。そして、スルスルと「体の中へ」入って行った。かき消される悲鳴。
数分後、まるで怒ったかのようにおでこに一つ、筋を浮かべた渡が出てきた。時々痙攣しながら、ゆっくりと歩いて行った。
その頃、草津七穂は、「不良」と呼んでもあまり違和感のない男たちに囲まれていた。
だが、草津は顔色一つ変えない。ポニーテールを垂らし、いつもの様に冷徹、ともいえる冷静な目で不良の目を見ていた。そして、小さく、小さく口を動かしていた。
その時、何があったのかは分かっていない。だが、「倫ちゃん」こと崎ヶ谷倫が見聞きしたのは不承不承、という感じでヨロヨロ立ち去った不良たちと、七穂の「それでいい。それでいいの」という、自分に言い聞かせるかのような呟きだけだった。