16、罪悪
「そこまでよ」氷の様に落ち着いた声がして、銃声が響いた。
その弾丸は、木更津のこめかみに突き刺さった。谷と木更津の顔が凍りつく。
「雄介くん!!!」谷が駆け寄る。
「何でだよ・・・やっと分かりあえたと思ったのに・・・今度は何だよぉぉ!!!」
谷の悲痛な叫び。
「あらあら、敵味方同士の麗しき友情とでも?劇的ねぇ・・・」
氷のような声、容赦のない言の葉。声の主を見て、眞希は一瞬、何が起こったのか全く理解できなかった。
草津七穂が、そこに立っていた。
どうして気づかなかったのだろう?屋上に銃創があったのには気づいていたのに。本当はあるはずがないのだ、全ての弾が誰かしらに当たっているはずなのだから。
草津には当たってなかった。彼女は死んだふりをした。その後、CWに合流したのだろう。
「やはり木更津さん一人じゃ無理ですよ、親友を説得するどころか、殺すのも」
物言わぬ木更津の死体に、平然と話しかける。
「挙句の果てに裏切っちゃうわけですから・・・来て正解ですね」
「七穂・・・?どういう・・・ことなの・・・?」柑奈が声をかける。
「そう、私がこのムカデを操った張本人」
―ありえない。
あってはならないことが、今この場で起こっている。
この眞希が恋した草津七穂が、実は黒幕で、隆大の仇?
馬鹿な、そんな馬鹿な。
呆然とする眞希をよそに、七穂が喋りはじめる。「今回ムカデが漏れ出てしまったのは本当にミス。それは本当。だから、私がこれからやることは三つ。
一つ、このムカデたちを一匹残らず可及的速やかに退治、駆除すること。
二つ、私自身の安全の確保
それから三つ、あなた方の処理ね」
―悪魔だ。こいつは悪魔だ。当たり前のように人を殺し、それを手段としか見ていない。
「嘘だったのか」別人の口の様に、眞希の口が勝手に動いた。
「あの楽しかった会話も、全部嘘だったんだな!!!」勝手に、叫んでいた。
草津は表情一つ変えない。
「そう思われたなんて、残念だわ」
フッ、と表情が和らぐ。
「あなたの事が好きなのは本当、だから、お願い、逃げて、そこの幼馴染を置いて逃げて」
「できるわけねぇだろう!!!!」絶叫していた。
「・・・そう」草津の声に、恐ろしさが籠る。
「あなただけは、殺したくなかった・・・」
そう独り言のように呟くと、彼女は大きく口を開けた。
「キシキシキシキシキシッ!!!」開けた口から、別のものとしか思えない声が漏れ出た、否、あふれ出た。
その大きな音に、ムカデと言うムカデが、こちらに向けて準備を始めたのを悟った。
「そんなにびっくりしないでよ・・・私が女王ムカデってだけで・・・」草津が当たり前の様に何か言っている。
「谷さん!柑奈!戦わなきゃ!!」
「あら、そうはいかないわ」草津が再び大きい銃を今度は柑奈に向ける。
それだけは!それだけは止めないと!!
素早く走り、柑奈を突き飛ばす。ふくらはぎを弾丸が貫いたのが分かった。
他のことが、分からなくなった。