12、突入
CWの拠点は、案外病院から近かった。冷静な怒りをたたえ、かつ弱点を理解している三人が、途中で倒れるはずもなく。
「ここか・・・よしっ!」
当初の予定通りにやってきた、谷がつぶやく。
「じゃぁ、入りましょう」
予定外の二人も、目を燃やして呟く。
中に足を踏み入れる。外の惨状とはうって変わって、ここだけは外界に反応しない。
いつも通り、という雰囲気、冷たさ、よそよそしさを帯びた空気が、そこに広がっていた。
違うところは、人がいないこと。
また襲われたのか、それとも
その時、再び着信音が鳴った。
が、それをとる暇はなかった。
受付の方から普段着を着た若い女性が現れたからだ。
どうせムカデ女だろう。
そう踏んだ三人が後ろに飛び退く。
確かに、その女性はメス型ピードではあった。だが、学校に出てきた型とは違った。
「ネェ・・・ドオシテ・・・ニゲルノ?」
喋った。抑揚はおかしいが、人かもしれない、近寄りそうになった眞希を、谷が抑える。
「ニゲンナアアアアア!!!!!」突然、女が襲いかかった!!その動きは、明らかに
人間のもの。
その女が、腰から鋼鉄のパイプを引き抜いた。
「人間みたいに動けるのか・・・!」谷が呟いている。
人間の動きを再現しつつ、ムカデの様に非人道的に人に襲いかかる。
ゾンビの動きでもない、ムカデの動きでもない。効率的な二足歩行。
「シネエエエエエエエエエエエ!!」
鉄パイプを振りかぶる。これはかえって、学校にいたメス型よりもやりにくい。
初めに手に当たったのこぎりを引っ張り出し、受けとめようとする。しかしのこぎりは、楽器として演奏する人があるほど、曲がりやすい。
間抜けた音がして、のこぎりがひん曲がる。
―パキン!
のこぎりが、いとも簡単に割れた。
「うわあああっ!!」眞希が残った柄を投げつける。
一瞬の隙を突いて、谷が拳銃を放つ。しかしその一撃が頭を貫いても、全く表情が変わらず、その女が走ってくる。
「チッ!!」谷が舌打ちをしたのが聞こえる。
「弱点は・・・脊椎!!」柑奈は反射的に叫んでいた。ゾンビと戦うゲームで身に付けた役に立たない筈だった知識。脳と脊椎が弱点。
「は!?」疑問を口にしつつも、谷は首の近くを撃つ。女は止まらない・・・が、少し体が崩れた、そして内側から崩れ落ちるかのように走りながら倒れた。
「よっし!」柑奈が喜んでいる。
「・・・」静かに、眞希が近づく。鉄パイプをもらおうとした・・・のだが。
キチ・・・キチ・・・メリメリ・・・
聞きたくない響き。体内で死んだ母ムカデが、子供を産み、それが体を食しているのだろう。
寒気がした。
「鉄パイプなら、いくらでももらえる、そいつはあきらめろ」いつの間にか後ろに来ていた谷が、そう声をかける。
一匹倒されてしまったことで、小さいムカデたちが列をなして地下へ逃げていく。
「これだな、女王ムカデがいるみたいだ」
谷が分析している。
眞希は自分に問うた。命を捨てる覚悟は本当にできているのか?柑奈を巻き込んだことを自覚しているのか?もし生きて帰ってこられたら・・・
雑念を、一瞬で吹き飛ばしたのは、隆大と、七穂の顔を想起することができたから。
「・・・」
谷も深呼吸をしている。
「・・・」
蒼白な顔で、柑奈がそばにいた。
「・・・よし!」
無理に大きい声を捻りだした。
その頃。
ヘリコプターは町を出ようとしていた。このビルを越えれば、本当にサヨナラできる。そう思って莉音は自分の膝を握りしめていた。
その時、後ろで悲鳴がした。
ハッとして振り向くと、先ほどのSPがサングラスを落とし、白目をむいている。そしてその男の口から、見慣れた触角が飛び出した。
近くにいた乗客が慌てて前へ走ろうとする。無論、簡単にそれは叶わない。先ほどの政治家が、捕まった。
「何のつもりだ!これは!やめろ!やめろと言ってるのが分からんのか!!」パニックになって彼が叫んでいる。
触角はその人を手繰り寄せると、咀嚼しはじめた。
「やめろ!!その腕は儂が両親から授かった・・・やめろ!!なんでもする!!やめろ!!」
無論、何をしてもやめるはずもなく。
莉音も凍りついていたが、やがて運転手にこう叫んだ。
「早く、着陸させて!!!」
ヘリの中、狭い空間。運転席は遮断されていたのがせめてもの救いか。だが、この空間で、どこまで耐えられるだろう・・・?
アレはメスだ・・・ということは・・・!
そこまで考えが廻ったとき、弱弱しくあげていた政治家の悲鳴が途絶えた。
SPだった男は、政治家を投げ捨て、ゆらり、とこちらを見る。
まさか・・・
そのまさかだった。
―メリメリメリッ!!
そして、腹から・・・。
悲鳴が、ヘリコプターの中を響き渡った。