11、逃避
病院に到着した。
静かな空間ではあったが、ガラスが何枚か割れている。少し前にムカデか暴徒が襲いかかったのだろう。だが、あの虫の大きな殺気は感じなかった。引き返したあとらしい。
人でごった返してはいなかったものの、多い人数が。
とにかく、好都合だったので、素早く階段を上ることにする。
エレベーターは何となく信頼できなかった。
この判断が、功を奏することになる。
ぜぇぜぇ言いながら屋上に姿を現した四人。
遠くに、飛んでくる軍用ヘリコプターが見えた。
屋上には、既に何十人もの人がいる。軍用ヘリでどれほど乗せられるだろうか?
そんな疑問を抱えていると、ヘリが着陸しようと降下しはじめた。ものすごい風だ。
着陸を待たずに、若い男が走り出した。一番乗りで乗り込もうとしているらしい。
「何してんだよ!!」誰かが叫び、その男を引き倒す。
ヘリから誰かが叫んでいる。
「落ち着いてください!!走らないでください!!落ち着いて!!」
混沌、戦場、欲のぶつかり合い。
眞希は見ていて頭痛がした。なんなのだ、これは。
ヘリに群がる愚者。これでは、助かるものも助からないかもしれない。
ヘリコプターに人が乗り始めた。思ったよりも人が入るらしい。
その人ごみの中で、跳ね飛ばされる者も出てきた。
だが、列が縮まり、乗る三人の最後尾の眞希もヘリコプターに乗り込むことができた。
ドアが閉まろうとする。谷に最後のあいさつを交わそうとした。
その瞬間だった。
「待て!!儂も乗せろ!!」ピストルを持った太った老人が、横にイヤホンとサングラスを付けた黒スーツのお兄さんを従え、高飛車な態度を汗と一緒に垂れ流しながらどてどてと駆けてきた。
運転席から舌打ちが聞こえた。
政治家か何かだろう。随分偉そうな態度だ。
二人はヘリに近づくと、渋い顔でヘリの運転手がドアを開けた。
「どけ!邪魔だ!」
抵抗できない力で、柑奈と眞希が政治家によって外に放り投げられた。
「ちょっと!!」と怒りの声を上げたのは、莉音だった。
「うるさい!黙らんか!!」政治家の怒鳴り声がする。
「大丈夫!!莉音だけでも家に帰って!」
柑奈が呼びかける。
「でも・・・」莉音が降りようとする。
「大丈夫だから!大丈夫!!」眞希が呼びかけた。ここで邪魔されるなんて。
莉音が飛び降りようとしたが、他の市民に抑えられた。
もう、無理だ。
ヘリコプターが上昇しはじめる。
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!次に会うときは・・・もっと、まともに会おうね!!忘れないよ!!ごめんなさい!!」
莉音の叫び声が響いた。
「莉音は・・・大丈夫・・・っと」眞希が開き直るように呟いた。
「あとは私たち・・・だね」柑奈も無理におどけているが、目に必要以上の水がたまっている。
ヘリは、ゆっくりと去って行った。
「・・・」そして、沈黙。
沈黙を破ったのは、谷。
「よし、お前ら、もう仕方ねぇ・・・」
無理に声をかけた。
「CWについてくるか?」
「そうします」二人の思いは同じ。退路を断たれたなら・・・
あとは、戦うだけ。
コツッ・・・コツッ・・・
階段を下りていく三人。これからどんなことがあるのか、正直読めていなかった。あったのは、決意。
隆大、七穂をはじめとした、全ての犠牲者たちの仇を。
親を失った少年からさらに親友を奪っていった怒りを。
最後まで、否、最期まで共について行く覚悟を。
交錯する思いは絡み合い、一本の糸となり、敵に向けられた。