1、日常
飛び交う悲鳴。
恐怖におののく呻き。
何かが突き刺さる音。
ゴキブリの大群のような足音。
肉を引きちぎるようなノイズ。
聞こえてはならないはずの響きたち。
そこにあった平穏が一瞬で爆散した。まるで、元からなかったかのように・・・。
一時ののち、完全な静寂と、あまりに深い闇がすべてを覆い尽くす。隠蔽するかのように。
「おい、どういうことだよ、これ」
漏れたつぶやきは、あまりに場違いで、滑稽で。
遠くでスズメが鳴いている。鳥類は無事なのかな、そんなことをぼんやりと考える。
すべての机には、花瓶と花が置かれていた。
何かが根こそぎ、全てを、生命の営みのすべてを持っていったらしい。
どさり、と音がして、始めて自分が腰を下ろしたのに気づいた。
ぼさぼさした髪の毛、激しそうな眼差し。彼は北沿 眞希。陸上部に入っている、ただの中学二年生。
「タカ・・・草津さん・・・柑奈・・・うわああああああああああ!!!!!!」
「おい起きろ、朝だぞ馬鹿野郎」
「おぼっふ」と、間抜けな声が出た。
「っんだよ、夢かよ、縁起悪ぃな」
毒づきながら、携帯電話に手を伸ばす。
「―だぞ馬鹿野」ピッ、と音がして、悪趣味なアラームが止まった。
ユニークなアラームだが仕方がない、この声を聞くと不思議と起きられるのだ。一つ文句をつけるとすれば・・・
「百合はこの世の真理!」・・・この裏のある名言をいちいち言うのをやめてほしい。一度間違えて鳴らしたら通行人が飲んでいたコーヒーを吹き出した。
寝癖を抑えつけながら、下へ降りようとしたその時。
「Na Na Na Na Na(ナトリウム!)」
・・・メールだ。草津さん、こと、草津七穂からのメール。
(昨日のあれは・・・告白?とも違うか)
ニヤニヤを顔から引きはがしながらメールを見る。
件名 :昨日は
本文:昨日は急に変な話してごめんなさい。
昨日言いそびれたことがあるから、例の場所に来てくれる?
―――――END―――――
一昨日のこと。
前々から憧れていた草津さんとメールコンタクトをとることに成功したのがちょうど一か月前。それとなく話をする。冷静だと思っていた草津さんは、意外と気さくだった。
話はいろいろな方向へ飛んでいく。突然、本当に唐突に、「好きだ」と言われたのだった。
「は?・・・え、ちょ、は?」
願ってもないことだったのに、慌ててこんな返事をしてしまった。それから、今日のこのメール。
何なのだろう、この胸の異常な心拍数の上昇は。思いだしたらまたすごいことになった。
ニヘラニヘラしながら今度こそ下に降りて行く眞希だった。