転生者、官能小説の世界で普通の高校生活を望んでしまう。
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この話は、一話のスレよりも少し前の話となるのでご理解ください。
今回の話も楽しんでいってください!
鐘の音が響き、三月には珍しい雪が舞い落ちる。
「合格発表」という人生の分岐点。
多くの生徒が親と抱き合い、喜びや悔しさに涙を流している。 そんな中で、松浦凛空は場違いなことを考えていた。
「あぁ……雪が降ってきたら、家の前がまた大変になるな」
15歳の俺にとって、これまでの人生は退屈で面白みのないものだった。 塾に行って、勉強して、帰って飯を食って寝る。
ただそれだけの、無色透明な日々。 そう、俺はまた、この世でも退屈な人生を送るはずだった。あの日までは――。
季節は巡り、数カ月後。
桜が舞い散り、ウグイスが鳴く。
多くの新入生が写真に収まる、そんな春の情景を背に、俺はまだ人の少ない校舎へ足を踏み入れた。 まずはクラス発表の掲示板を見る。
「……俺のクラスはA組か。番号は……」
この時、もし俺がクラスだけ見てすぐに教室へ向かっていたら、何かが変わっていたのかもしれない。
それとも、周りの奴らみたいに時間を潰していたら、未来は違っていたのだろうか。 だが、この時の俺には知る由もなかった。
『うーん、どこだこれ……松浦だから、マ行で……あ、あった』
そして、クラスメイトの名前を上から順に追っていく。 九条 澪、春風陽菜、日向 彩葉、夢乃春樹……。
『……待て待て待て、これ前世で死ぬほど読んでた官能小説のキャラと一緒じゃん。流石に偶然にしては笑えねぇな……』
俺はまだ、この世界がどんな世界かよく知らない。
だからこそ、何か言いようのない不安を感じていた。
数時間後。
「入学式さぁ!やっぱり高校でも校長の話って長いよね!」
視線の先では、陽気な女の子たちが騒いでいる。ギャルだろうか。
いや、それよりも何よりも、話が長すぎる!
『さすがに、いつになっても校長の話だけは慣れないな……』
心の中で毒づく。
これから俺は、その校長室に向かわなければならない。
俺が校長室に呼ばれる、最もな原因。
それは、この学校が去年まで女子校だったことだ。
親がこの学校の理事長と顔見知りだったため、受験先として勧められた。
そして、今年から共学になったとはいえ、俺のようにコネでもない限り入るのは難しく、結果的に男子生徒は俺一人になってしまった。
重い足取りで校長室のドアを開ける。
中に校長しかいないと思って開けたことを、俺はすぐに後悔することになった。
「おおおお!凛空!久しぶりじゃのう!」
「……お久しぶりです、理事長」
いきなり鼓膜が破れそうなほどの熱烈な歓迎はやめてくれ……。
「何故、お忙しい中、僕に会いに来たのですか?」
「ハハハッ!親友の子供に会いに来てはいけないのか?それに、いつも通りの喋り方で良いぞ?」
敬語なんて使いたくて使ってるわけじゃない!
貴方の後ろで、校長が殺意むき出しでこっちを見てるんだから、仕方ないだろうが!
「……あの、校長先生もお座りになったらどうですか?」
「むむっ!そうじゃな。場所は……まぁ、わしの隣で良いぞ?」
「ありがたいお言葉ですが、理事長……本来の目的を忘れてるのでは?」
やっぱりおかしい。この学校。
校長が聖剣を振り回して人みたいに喋るってどういうことだよ。騎士か?
「……そうじゃったな。では、凛空。よく聞くんだぞ。おぬしには重い任務かもしれんが……」
え?待って、どんなこと言われるの?何かやらかしたっけ、俺。
「おぬしは、クラスメイトがどんな人か知っているか?」
「……いや、名前を見ただけで、何も」
「そうですか。なら理事長、この人に任せず、専門家を雇った方がやはり良いのでは?」
だから何なんだよ。専門家がいるかもしれないことに、いち生徒を巻き込むなよ!
「凛空……おぬしには、クラスメイトである有名人たちに、一般的な学園生活を送らせてほしいのじゃ!」
「……はぁっ!?有名人!?」
今思えば、この時点でクラスメイトが全員何かしらの「有名人」だということが、すでに狂っていたのかもしれない。
「はーい、皆さん。授業が始まりますから、おしゃべりはやめましょうね。
もう知っている人もいるかもしれませんが、この学園は去年から共学になりました。
それに伴い、このクラスにも男子生徒が来ることになりますから、仲良くしてあげてくださいね」
教室の中では、俺のクラスの担任が説明をしている。
「……入りづれぇ」
理事長と話した後、俺は自身のクラスメイトに会うことになった。
それは百歩譲って許そう。
だが、なぜ転校生が皆の前で自己紹介するみたいにやるんだよ!?別に、普通でいいだろ!
重い足取りで教室のドアを開ける。
「……あー、よろしくお願いします」
情けないほどに覇気のない挨拶になってしまったが、仕方ないだろう。
だって、こっちを向く人全員が、とんでもなく美人なんだから。
「凛空くん、自己紹介をお願い」
担任の先生に促され、俺は前に出る。
「俺の名前は、松浦凛空と言います。名前は『凛』に『空』と書いて、リクと読みます。えー……優しくしてくれたら、嬉しいです……」
やばい、前世の陰キャな記憶が蘇って、まともに喋れない。
「ねぇねぇ、凛空くん!何か好きなものある?」
真っ先に声をかけてきたのは、ショートカットの、人懐っこそうな女の子だった。
「……好きなものは、蜂蜜を死ぬほど入れた、最近なぜか流行ってるキッチンカーの蜂蜜ドリンク、かな」
ちなみにこのドリンク、絶対に俺と同じ転生者が作ったに違いない。
だって、前世でプレイしていたソシャゲで、ラーメンみたいに蜂蜜のオプションがあったからだ。いや、本当にいたら喋りたいがまさか、まさかな……。
「そうなんだ!?僕もあのドリンク好きなんだ!君はどんな配合が好き?僕はね、蜂蜜固め、濃いめ、甘めが好きだよ!」
おーまいがー!それ、血糖値破壊爆弾じゃないか。
しかも「僕っ子」って、まるであのソシャゲみたいだな。
「君の名前は?」
俺の問いかけに、その子は屈託のない笑顔で答えた。
「あ、そうだよね!自己紹介がまだだったね!僕の名前は夢乃春樹だよ!是非覚えてね!」
「あぁ……覚えておくよ……」
夢乃春樹……?どこかで聞いたような名前だな。
その時、もう一人の女の子が割って入ってきた。
「ユメノちゃん!初対面の人にそんなにグイグイいったらダメだよ!」
「えっ!?そうなんだ...ごめんね...凛空くん...私、異性と話したことないからごめんね...」
「いや、別に良いよそれよりも話しかけてくれてありがとうな...」
「良かったね!夢乃ちゃん!」
「...うん、ありがとうね凛空くん...そして陽奈ちゃんもありがとうね...」
二人のやり取りを見ながら、俺は心の中で毒づいた。
この子たちに、一般的な学園生活を送らせろって?
別に普通に優しくていい子達じゃねぇか...
ってか、「陽菜」って言ったか?
「……君、もしかして春風陽菜?」
「ん?よくわかったね!私の名前は春風陽菜だよ!」
嫌な予感がして、俺の口元が引きつる。まさか……。
「もしかして、夢乃春樹さんって、アイドルやってる?」
「えっ...凛空くん知ってるんだね。そうだよ、私ね先月デビューしたばっかなんだ!」
いや、まだ決まったわけじゃない...そうだ、こんなに可愛かったらアイドルを目指す子もいるだろう。
まだ、あの世界だと決まったわけじゃない。
俺は一縷の望みをかけ、陽菜に懇願するように尋ねる。
「……じゃあ陽菜さんは、もしかして、この前ゲームの大会で優勝した?」
「そうだよ!あれ?私、ゲームについて話したっけ?」
クラスメイトの顔を見て確信した。
あぁ...これいかんやつだ。
全員前世の小説で見たことある顔つきしてる。
『終わった……なんで、なんでなんだよ!俺、平和に生きたかったのにさぁ!?なんで前世で「外道」って言われた官能小説の世界なんだぁぁぁああ!!!』
俺の叫びは、誰にも届かなかった。
絶望と、ほんの少しの笑いが込み上げてくる。
まさか、こんな形で転生先の世界を知るなんて。
「はぁ……マジでどうしようなぁ……。俺が介入して良い話なのか?」
ベッドの上でトランプを弄ぶ。
シャッフル、カット、そしてファン(扇形に広げる技)。
手元のカードが、まるでこの世界の未来のように不確かな弧を描く。
俺にチートはないと思う...
だが、この手の中にあるカードのように、偶然の組み合わせから生まれる『マジック』なら、あるいはこの世界で何かを変えられるのかもしれない。
「……っと!」
考え事をしながら、バランスを崩してベッドから落ちそうになった。
情けない。
その時、目の前のスマホが不意に光り、見慣れないアプリの通知が飛び込んできた。
ようこそ、ゼーレへ!!
そこの貴方!転生者としてお困りではありませんか?
「……はぁ?何だこれ?」
その通知に導かれるように、アプリを起動する。
スレ主として、新しいスレを立ち上げますか?
迷わず「はい」をタップした。
『悲報、俺、官能小説の世界に転生したぽい』
その掲示板が、この奇妙な世界の最初の仲間となる。
この夜は、俺がこの世界をマジックのように変えていく静かな夜だった。
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