深夜の街に響く咆哮
――午前二時すぎ。
人通りの絶えた市街地に、突如としてけたたましい咆哮が響いた。
バリバリバリバリバリ!!
ドッドッドッドッ!!ウウゥゥゥアアアアアァァンン!!
改造バイクの大集団。
暴走族だ。二十数台のバイクが信号も無視し、商店街や住宅街の路地を爆音と共に走り抜けていく。
「走れえええ!」
「オラァァ!!」
「深夜暴走、テンション最高潮ォ!!」
爆音、クラクション、スピーカーから流れる重低音。
そのすべてが、眠りについていた人々の神経を逆撫でしていく。
アパートのベランダが次々に灯り、カーテンの隙間から住人たちが不機嫌そうに覗き見る。
「また来たわよあの連中……」 「警察に通報しても意味ないんだから……」 「毎回、毎回……どうにかしてくれっての……!」
通報の電話がいくつも鳴る中、暴走族の一団は交差点の真ん中に停車し、周囲にタイヤ痕を刻みながらドーナツターンを始める。まるで誰にも止められないかのように。
――だが、その時だった。
「……!? な、なんだあれ……」
暴走族の一人が、交差点の向こうに佇む“黒い影”を見つけた。
異形。人のようで人でなく、光る双眼と鋭利な外装。
全身を覆う甲殻のようなボディが、ネオンに照らされ、不気味な存在感を放つ。
怪人だった。
何も言わず、ただ黙ってバイク集団の方へ歩いてくる。
「なんだコイツ!?」 「コスプレか!?」「深夜徘徊!?」
一台のバイクが前へ出る。そして、そのまま加速。
だが――
ドガァッ!!!
怪人の蹴りが一閃し、バイクごとライダーが宙を舞った。
「うおっ!?」 「やりやがった!テメェぇっ!!」
一斉に数人がバイクを向ける。だが、怪人は止まらない。無言で一人、また一人と殴り飛ばす。
ライダーが投げ出され、バイクが転倒するたびに、街の騒音は一段と静かになっていった。
建物の影で見ていた住民たちが、口々に呟く。
「……静かに……なった?」 「まさか、怪人が……暴走族を……?」
しかし、怪人の動きは止まらない。残るバイクを押し潰すように踏みつけ、火花を散らすマフラーを蹴り飛ばす。
――その瞬間、頭上に眩い七つの光が差し込んだ。
「怪人を確認!迎撃体勢に入ります!」
魔法少女・セブンレイディアントの到着だった。
ビルの屋上から一斉に飛び降り、中央に着地する。
「周辺に非戦闘員が複数、巻き添え注意!」 「けが人確認、先行して対応班を配置!」
だが、怪人はすでに攻撃を止め、ただただ無言で佇んでいた。
破壊されたバイク。蹲る暴走族。
そして、静まり返った街。
「……なんか、変だよね」
スカイブルーが呟いた。
「これ、もう終わってない……?」
だが、命令は明白だった。怪人を撃退すること。
「怪人は敵です。撤退の意志なしと判断。攻撃します」
セブンレイディアント、全員が戦闘モードへ移行。
数秒ののち、怪人は複数の光線を浴び、その場にて爆散した。
◇ ◇ ◇
爆音は完全に止んでいた。
だが、交差点の片隅にいた暴走族の一人が、傷だらけの体を起こして叫んだ。
「来るのが遅いんだよ!バイクがダメになってるじゃないか!」
通報を受けて遅れてきたパトカーが赤色灯を回しながら現れた。
だが、そこには既に魔法少女の姿はない。
住民の一人が、ベランダからぽつりと呟いた。
「……あの怪人、あいつらを追い払ってくれたのにね」
「魔法少女って……誰を守ってるのかしらね」
――その言葉に、誰も返事をしなかった。