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警笛と怒号と、無言の怪人


 午前十時三十二分。

 都心からほど近い郊外の、とあるローカル駅近くの踏切付近。


 そこには、同じ制服を着た中学生の集団、プロ用カメラを持った初老の男性、三脚を並べて口論している男性陣など、ざっと二十名以上の「撮り鉄」と呼ばれる者たちが集結していた。

 彼らの目的は、本日限りの臨時列車「朱華特急」の撮影。


 駅員が「白線の内側でお願いします!」と拡声器で声を上げても、誰も耳を貸さない。

それどころか、線路内に脚立を立て、三脚を構え、最前列を確保する者もいた。


「どけどけぇ!映り込むだろうが!」 「おい!勝手に俺の三脚動かすなよ!」


 怒声が飛び交う中、その時だった。


 踏切の遮断機が降りる音と同時に、「それ」は現れた。


 誰かが叫ぶ。「怪人だぁぁ!!」

 確かに、その存在は異質だった。

 硬質な甲殻で覆われた、まるでカメラのレンズを模した単眼の怪人。全身は黒鉄色。

 その異様な姿に、ざわめきが一瞬で静まり返った。


 怪人は無言だった。

 叫びも、咆哮もなく、ただただゆっくりと歩みを進める。


 やがて一人の中年男性が、構えた三脚とカメラを前に立ちはだかる。

「お、おい……それ、高いやつなんだぞ!?触るなよッ!!」


 だが、怪人は聞かない。

 無言のまま、ゆっくりと、だが確実に三脚を踏み潰した。

 バキバキという音とともに、高価なカメラが地面に転がる。


「この野郎っ!カメラ壊しやがってぇぇぇ!!」


 中年男性が振り上げたカメラバッグで怪人を殴りかかろうとするが――その腕を、怪人が無造作につかんだ。

「ぐ、ぐあっ……!」


 地面に叩きつけられた男は、呻き声とともに動けなくなった。


 人々たちは散り散りに逃げ出し始める。

だが、怪人は追いかけない。

 あくまで「線路沿い」に並べられた機材だけを、順番に踏みつけ、破壊し続けていた。


 そこへ、空から七色の閃光が降り立つ。

魔法少女たち――セブンレイディアントの登場だ。


「怪人発見!」 「線路上は危険!周囲の人を退避させて!」


 クリムゾンレッドが警告を発し、フォレストグリーンとスカイブルーが一般人の避難誘導を始める。

 一方、グラウンドブラウンはうっすらと眉をひそめた。


「これ……なんか、狙いが機材だけ?」


「被害者の男性が倒れてます!」

 レイホワイトが傷ついた撮り鉄のもとへ駆け寄り、状況を確認する。

 だが、男性は憤怒の表情で叫んだ。


「お前ら!早くこいつをぶっ飛ばせ!!俺のカメラが、カメラがぁぁ!!」


「今は安全確保が優先です、落ち着いてください!」

 オーシャンブルーが諭そうとするが、男性の視線はカメラしか見ていなかった。


 その瞬間、怪人が魔法少女たちの方へと振り向いた。

 構えを取り魔法を放つ動作をする魔法少女たち――しかし、怪人は抵抗する素振りを見せず、そのまま線路の中央へと歩いて行った。


 列車は来ていない。線路には誰もいない。

 怪人は一瞬だけ、直立不動となり、そして――線路の先に向かって、敬礼をした。


 次の瞬間、魔法少女たちの光線が発射された。

 命中。怪人は爆煙の中へと沈み、跡形もなく消えた。


 だが、現場には妙な空気が漂っていた。

 戦闘の余韻に似て非なる、妙な――「釈然としなさ」だった。


「……なんだったんだろう」

ポツリと、シャドウブラックが呟く。


◇ ◇ ◇


場所:悪の組織本部


「……なんだい、あの最後は?」

女幹部が片眉を上げて呟く。


アナマドは肩をすくめた。

「さぁ?さっぱり分かりません。ただの演出でしょう。人間社会は“意味ありげな無言”に弱いでしょう?」


「ふん、まあいいさ。どうせまた使えるんだろう?」


「ええ、問題なくリサイクル可能です」


「だったら、次の出番までに修理しときな」


「お任せを」

 アナマドの影が、怪人のシルエットを映すガラスの前で、笑ったように見えた。



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