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海水浴場の侵入者


 それは、真夏の太陽が照りつける休日の午後だった。家族連れや若者たちが集う◯△海水浴場は、まさに夏の賑わいを見せていた。白い砂浜、青い海、笑い声と波音が混ざり合う中、その静寂を破る異変が、密かに忍び寄っていた。


 最初に異変を感じたのは、監視台の近くで一人見張りをしていた中年の男性だった。海水浴場の境界ネットを越えて、2台の水上バイクが海水浴エリア内に侵入してきたのだ。


「おい、あそこ! バイク、こっちに来てないか!?」


 砂浜にいた者たちも、徐々に気付き始めた。水上バイクに乗った若い男たちは、浮かれた様子でバイクを旋回させながら、何度も水しぶきを上げていた。明らかに、泳いでいる人々の近くを狙っていた。


「ちょっと、危ないってば! 子供がいるんだから!」


 叫ぶ母親の声も意に介さず、男たちは笑いながらバイクを急旋回させ、海水を勢いよく浜辺に撒き散らした。


「うひゃっ、ずぶ濡れじゃねえか!」


 男たちの行動に不満を感じた一部の人々は、砂浜から離れ始めた。しかし、監視員が通報をするよりも早く、それは現れた。


 突如、海中から飛び出すように現れたのは、人間とは明らかに異なる不気味なフォルム。両腕は異様に長く、全身は藻とサンゴに覆われたような装飾が施されていた。怪人──正体不明の存在が、海を割るように進み、水上バイクへと接近する。


 異変に気づいた男たちが慌ててバイクを加速させようとしたその瞬間、怪人の一撃が炸裂した。


 鋭利な腕がバイクの側面を貫き、エンジンから火花が散る。そしてそのまま、2台の水上バイクは勢いよく海面を滑り、無様に浜辺へと打ち上げられた。


 バイクから投げ出された男たちは、砂浜をのたうち回る。


「な、なんだよ、あれぇっ!」 「高っけぇバイクがぁっ! 何百万したと思ってんだよッ!!」


 怪人は無言のまま、壊れたバイクを踏み砕く。浜辺にいた誰もが動けず、その光景を見つめていた。


 やがて、空から七色の光が降り注ぐ。魔法少女たち──『セブンレイディアント』が飛来し、浜辺に舞い降りた。


「怪人、発見……!」


 だがその時には、怪人は既に海へと戻り、その姿を波間に消していた。


「……いなくなった。逃げた?」 「でも、人命被害はなさそうね……」


 警戒態勢を解きながらも、少女たちは警戒を怠らず、しばらくその場に留まった。しかし、異常が無いと判断した彼女たちは、救護の確認と状況整理の後、静かにその場を去っていった。


 そして。


 魔法少女たちが去った直後、バイクの持ち主である男たちは、怒りと悔しさを剥き出しにして騒ぎ始めた。


「なんで魔法少女が来たのに、怪人を倒さなかったんだよ!」 「俺のバイク! 弁償しろ! 誰のせいだと思ってんだ!」 「なんで俺たちがこんな目に! マジで意味わかんねぇんだけど!」


 壊れたバイクを前に、携帯で動画を撮影しながら騒ぎ立てる男たち。


「ほら見ろよ、魔法少女来たのに、なんもしねーで帰ったぜ?」 「おい、これ拡散しようぜ。これじゃ、魔法少女が怪人の仲間みてーじゃん」


 周囲にいた数人の観光客が、眉をひそめながらも男たちを避けるようにその場を離れ始めた。


 騒ぎは、その後ネット上に動画として拡散され、事実の歪んだ「怪人に襲われた被害者を見捨てる魔法少女」のイメージを作り出していくのだった。


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