七つの光、空を裂く
空に浮かぶ七つの光は、まるで虹のように弧を描き、一直線に怪人の逃げた緑地帯へと降下していく。
その先頭にいるのは、紅蓮のマントをたなびかせる少女――クリムゾンレッド。炎のような長髪が風を裂き、瞳に映るのはただ一つ、路上に横たわる潰れた車体。
「私たちが、街の平和を――守る!」
その叫びとともに、七人は一斉に着地した。
クリムゾンレッドの両脇を固めるのは、穏やかに揺れる深海の瞳を持つオーシャンブルーと、高く澄んだ瞳のスカイブルー。三人は即座に負傷者の救護へと走り出す。
「この車……逆走してた?」
車体の向きに違和感を覚えたのは、フォレストグリーンだった。車は完全に逆方向を向いており、明らかに逆走してきた形跡がある。
「魔法陣展開! 外周部を警戒する!」
地を這う茶色の魔力が一帯を包み込む。グラウンドブラウンが展開した術式が、安全圏を確保するための防壁を張っていく。
倒壊しかけたセダンの運転席から、老人が担ぎ出された。呻き声を漏らし、血の気が引いた顔で、視線を宙に泳がせる。
「大丈夫です、すぐに病院に搬送します!」
レイホワイトの癒しの光が、老人の呼吸を安定させていく。魔力の範囲内であれば、応急処置程度の回復は可能だった。
「シャドウブラック、上空の監視を頼む」
「まかせて……誰にも見つからないように、こっそりやるわ」
シャドウブラックの影がスッと消える。瞬間、木陰に差し込む光が歪み、彼女の姿もまた空へと溶けていった。
着地してからわずか十数秒。
魔法少女たちは、まるで軍隊のように役割分担を行い、怪人に破壊された車両の状況把握と負傷者の救護を進めていた。
しかし、怪人の姿はどこにもなかった。
「高速道路上で無差別に暴れていたわけじゃない……? 逆走車だけを、狙って……?」
呟くオーシャンブルーの声に、クリムゾンレッドが小さく眉をひそめた。
「何を考えているのか分からないけど……やっぱり、ただの破壊じゃない」
「うん、でも――やってることは破壊そのものだよ。人間を傷つけてるのは変わらない」
スカイブルーの声は、空のように澄んでいて、しかし芯に鋼を含んでいた。
通信機越しに、魔法少女たちのやり取りが関係機関にも伝えられる中――その空のさらに上では、ニュースヘリが旋回を続けていた。
「こちらニュース中継ヘリ、魔法少女たちはすでに現場に到着し、怪人の追跡および負傷者救護にあたっています。しかし、怪人の姿は確認できません。緑地帯の樹林に逃げ込んだと見られますが……あ、動きがありました! そちらに向かってカメラを!」
ヘリのレンズがズームされる先、わずかに揺れる木々の影。
しかし、そこに姿はなかった。
その場に残されたのは、変形した車両と、怪人に蹴り飛ばされた証跡のみ。
静かな昼間の高速道路に、再びゆっくりと車の流れが戻り始めていた。