闇より招かれし者たち
――場所:暗黒機関
そこは地下深く、黒鉄の構造物がうねるように組まれた秘密基地。
魔法少女が地上に虹を描くならば、ここは地の底に広がる奈落。怒号と機械音、そして呻き声が常にこだましていた。
「また失敗かい。何体目になると思ってるんだい?」
女幹部・エレオノーラが、長い煙管を口にくわえたまま、部下たちを冷たい目で見渡す。
全身を艶やかな黒革に包んだその女は、この《ディスコード》の現場統括者。優雅で気まぐれ、けれど非情。
「せっかくエネルギーを使って作った怪人達が、あのガキどもに次々とやられちまってるじゃないか。どうしてくれるんだい?」
「けっ、チマチマした計画なんてやってられるかってんだよ!」
そう口を挟んだのは、筋骨隆々の巨体を持つ男幹部――バルザック。
禍々しい鉄仮面と巨大なバトルアックスを背負ったその姿はまさに暴力の権化。
「怪人なんざデカけりゃいい! 強けりゃいい! 街ごとぶっ潰しゃ、あの魔法ガキどもも出てくるだろ!」
「ふふ……愚直なやり方ですね」
その時、薄暗い扉の向こうからひとりの人物が静かに現れた。
黒を基調とした奇抜な軍服に、仮面のような白い仮面(※顔)を付けた怪人幹部――アナマド。
その顔は感情を読ませず、声色もまた不気味なほどに静かだった。
「……アナマド、お前が?」
エレオノーラは細めた目で問いかけた。
「魔法少女達と戦うというのなら、今までの奴らと同じく、また負けたら許さないよ?」
アナマドは一礼のように頭を下げると、仮面の奥で微笑したようだった。
「ふふ、私は“穴を広げる”のです。人間社会の境界に……亀裂を。
今までのような、ただの破壊では足りない。無差別では、恐怖は続かない。
壊してもいいものだけを狙い、社会の境界をぼやかし、道理と混沌をすり替える。
いずれ人々が、何が正しく、何が狂っているのか、わからなくなるように」
「なんだそりゃ。ちまちました陰キャの策じゃねぇかよ! 街なんて、ぶっ壊しゃ済む話だろ!」
バルザックが肩を震わせ、笑いながら拳を壁に叩き込んだ。
だが、アナマドはひとつも動じず、仮面の奥で静かに囁く。
「では、あなたの破壊を“整理”しましょう。あなたが壊すもの、私が選びましょう。
社会が壊れていく様を、ゆっくり楽しめるように……」
「ふん、まあいいさ。見せてもらおうじゃないかい」
エレオノーラは煙をふかしながら、気まぐれに笑った。
「次に現れる怪人は、あんたの計画による“特別製”ってことだね? ……期待してるよ。アナマド」
「お任せあれ。――“最初の一手”は、既に放たれました。
道路の常識を逆さにしてみせましょう。高速道路で最も恐れられる“禁忌”の事故。
そこから、彼女たちの正義は崩れ始めるのです」
アナマドは踵を返し、部屋を後にする。
その背後で、バルザックが低く唸るように呟いた。
「チマチマやるのは嫌いだが……潰す機会が来るなら、まぁ待ってやるか」
――こうして、“怪人の真なる意図”を秘めた闇の幕が、ゆっくりと持ち上がる。
次に動き出すのは、社会の隙間に潜んでいた“壊してもいい”ものたち。
人々が見て見ぬふりをしてきたものを、怪人たちが壊すことで、世界に亀裂が走る――
やがて、それを止めようとする魔法少女たち自身が、“異常”と呼ばれるその日まで。