ヒカリの背に影が落ちる
夜。
いつもなら煌びやかにライトアップされる都心のビル群が、どこか冷えたように感じられた。
大型ビジョンには映像ニュース。
その中で何度も繰り返されるのは――
「ご覧ください。この映像は、市民が撮影したものです。高速道路での“逆走車”事件、怪人が車に突っ込もうとした瞬間、魔法少女が突如として進路を塞ぎ――その結果、事故が起きたように見えます!」
別の映像に切り替わる。
「こちらは飲み屋街での事件です。魔法少女の一人が、怪人に襲われた男性を突き飛ばしています。男性は苦しそうに嘔吐しており、その魔法少女に直接吐いてしまった模様。ですが、助けるどころか――突き飛ばしている!」
そして、海水浴場での映像も――
「これは、怪人が水上バイクを破壊した事件後の様子です。魔法少女たちは何もせず去っていき、残されたのは、壊れた水上バイクと怒る利用者たち。“高額な器具が壊された”と被害を訴える声が多く届いています」
さらに、極めつけの映像――
海辺で、魔法少女が怪人と並んで波打ち際を歩くように見えるフェイク動画。
また別の動画では、暴走族のバイクの後部座席に、魔法少女が乗っているように合成された偽映像。
真偽の定かでない動画たちは、人々の怒りと不安を煽り、SNSで拡散されていく。
> 『ヒーローの顔をした暴力装置』
『税金で飯を食って怪人と共犯か?』
『魔法少女、怪しい!』
そして――
人々の前から、魔法少女たちの姿が、消えた。
どんなに怪人が現れても、どんなに呼びかけても、空に舞う七色の光はもうない。
報道は語る。
「セブンレイディアントの姿が、ここ数日の間まったく確認されていません」
コメンテーターが言う。
「怪人と戦ってくれていた魔法少女たち。だが、果たして彼女たちは本当に“正義”だったのでしょうか?」
人々の心に芽生えた不信は、魔法という奇跡の力さえも呑み込んでいった。
◆ ◆ ◆
どこかの高層ビルの屋上。
風が吹き抜ける場所に、ひとりの少女が立っていた。
淡く光る蒼のマントをはためかせながら、空を見上げる。
「ねえ、あの時の人……助けるべきだったのかな」
誰にともなく呟いた声は、夜風に溶けて消えていった。
その背後に、他の6人の少女たちが集まっていく。
かつて、“希望の象徴”と呼ばれた――魔法少女、セブンレイディアント。
彼女たちは、ただ、黙っていた。
誰も、正義とは何かを言えなかった。
沈黙のまま、光の粒子となって、空に散るように――
その姿は、夜空に消えていった。
◆ ◆ ◆
そして、夜明け前の空の下。
怪人たちは、静かに笑っていた。
アナマドは薄暗い部屋で、モニターを見つめる女幹部に肩をすくめる。
「予定通り、世論は崩れました。あとは、誰がこの空白を埋めるか――ですね」
女幹部は口元をゆがめて笑った。
「魔法少女がいなくなった世界、さて、誰が引きずり出されてくるのかねぇ」
夜が明ける。
魔法少女たちのいない、新たな一日が、始まる――。
一旦ここで完結にいたします。
ありがとうございました。