真昼の海に潜む影
太陽が海面にまぶしく反射し、波間を白く煌めかせていた。
潮風が港の街を優しく撫でる昼下がり。
「……確認されたのは、先ほどの座標です! 怪人、依然として海上を移動中!」
魔法少女たちは空を駆けていた。
その中心にいるのは、長い杖を携えたリーダー格の少女――セブンレイディアントの一人、「オーシャンブルー」。
「海を……走ってる……?」
彼女の言葉通り、下方の海面を、ひとつの黒い影が移動していた。
まるで波をものともせず、まっすぐ進むその姿は、見る者に不安と恐怖を呼び起こす。
「魔法少女たちが出撃したって!? それはどこだ!」
「この時間に!? 怪人が出たのか?」
報道関係者のカメラが、次々にヘリコプターへと積み込まれ、上空へ舞い上がっていった。
“セブンレイディアント出動”という言葉が瞬く間にネットニュースを駆け巡る。
そして――
「見つけたッ!」
記者が叫んだ。カメラが海上の一点を映し出す。
そこには、海面を走る怪人と、後方を飛行する魔法少女たち。
記者「現在、魔法少女が怪人を追跡中!……あれは……あそこにいるのは、漁船!?」
カメラの映す海の先、何隻かの小型船を照らす。
だが、それは普通の漁船ではなかった。
「くっ、ヘリの光が当たってる……! やばい、こっち来るぞ!」
「逃げろッ!」
光に照らされた先、そこにいたのは密漁船。
保護区内での違法な水揚げがばれた瞬間だった。
――そして、その光の延長線上に、怪人が進路を変える。
「……そっちに行った? まさか――!」
船上にいた男たちは悲鳴を上げた。
「うわっ!? な、なんだコイツ……来るなッ!!」
ドンッ!
怪人の重い脚が船の甲板を踏みしめ、板が軋んだ。
次の瞬間、怪人は無言のまま、積み上げられたクーラーボックスや漁具を一蹴する。
ボカァァン!
発電機が爆発し、煙とともに飛び散る破片。男たちは怯え、散り散りに逃げ惑うが、怪人はお構いなしに破壊を続けた。
「止まれッ!」
ついに追いついた魔法少女たちが、空から怪人に声をかける。
海風に揺れるマントと髪。まばゆい光のエフェクトを纏いながら、魔力の弾丸を撃ち込む。
だが、怪人は無言。振り返ることなく、船上の機器を次々に破壊する。
GPS、水揚げ箱、トロ箱――どれも容赦なく砕かれ、破片が海へと落ちていった。
「これ以上は危険……攻撃開始!」
合図とともに、魔法少女たちが各方向から魔力攻撃を放つ。
その光の奔流が怪人の背を打ち、ようやく動きが止まった。
ぐらりと揺れる影――そして、怪人は海へと倒れこみ、そのまま沈んでいく。
「……倒した?」
魔法少女のひとりが呟く。
海面は、数秒後にようやく静寂を取り戻した。
◆ ◆ ◆
上空の報道ヘリ――
記者「怪人、沈黙。魔法少女たちの攻撃によって、海中へと姿を消しました。被害を受けた船は……」
その言葉を遮るように、複数の海上保安庁の巡視艇が現場に到着する。
「おい! なにしてる! 勝手に入るな!」
「ここは保護海域だぞ!」
釣り人――いや、密漁者たちが叫ぶ。
魔法少女たちが去って間もなく、彼らの怒号が海に響き渡った。
「余計なことをしやがって……!」
「お前らが怪人なんか連れてきたせいで、台無しなんだよ!」
密漁の証拠は、怪人によって壊された機器と、船に残された水揚げ物たち。
そのすべてが、報道カメラの前で晒されていた。
記者「……現場は混乱を極めておりますが、魔法少女たちは人命救助と怪人撃退を果たし、すでに現場を後にした模様です」
◆ ◆ ◆
怪人の拠点――
女幹部「なるほど、わざと見つかるようなルートを通ったってわけかい」
アナマド「ええ、破壊は見せなければ意味がありませんから」
女幹部「ふふ、相変わらず性格が悪いねぇ。でも、好きだよ。そういうの」
アナマドは何も言わず、ただ仮面の下で口元を吊り上げた。
「正義の味方は今日もご苦労様。けど、その手が汚れてるって気づいてるかな?」