表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

山に棄てられたモノ


 時刻は午前0時を少し回った頃。

 山奥の細道を、二台の大型トラックがライトを切ってゆっくりと登っていく。荷台には黒いビニールで覆われた大量の廃棄物が詰まれていた。


「おい、こっちでいいのか?」 「問題ねぇよ。カーナビのログも残らないし、監視カメラもねぇ。完璧な場所だ」


 運転手たちは笑いながらトラックを停めた。木々に囲まれた小さな広場。そこは、すでに“ゴミ山”と化していた。


 冷蔵庫、ソファ、オフィス机、バッテリー、プラスチックごみ、薬品タンク――

 ありとあらゆる産業廃棄物が、自然を覆い隠すように積み上げられていた。


「じゃ、さっさと降ろしてトンズラだ。長居は無用ってな!」


 荷台が傾き、黒い塊が転がり落ちる。

 金属がぶつかる音、ビニールの裂ける音、化学薬品のきしむような臭い。


 だが――その時だった。


「……ん? おい、見たか?」


 木々の間に、“何か”が立っていた。

 トラックのライトに照らされたのは、全身に鋭い棘と硬質な装甲をまとった、異形のシルエット。


「な、なんだよあれ……動物か?」


 動かない。音も出さない。ただ、じっとこちらを見ている。


 男の一人が車に手をかけた瞬間――


ズシンッ!


 怪人が一歩踏み出した。

 その足音は、まるで地面を踏み抜くような重さだった。


「ひっ……お、おい、ヤバいぞアレ!」


「や、やめろ! くるな!!」


 逃げ出そうとする男たちに目もくれず、怪人は無言で“ゴミ山”へと向かった。


一歩。二歩。三歩。

そして、次の瞬間。


ズガァアアン!!


 怪人の腕がうなりを上げ、巨大な産廃の山に叩きつけられた。

 鉄の棚が砕け、廃冷蔵庫が粉砕され、薬品タンクが真っ二つに割れる。


 轟音と破裂音。

 静まり返った山中に、ただそれだけが響いた。


 男たちは逃げた。誰も怪人の前に立ちはだかることなどしなかった。


 それから怪人は黙々と動いた。

鉄くずを潰し、家具を砕き、プラスチックをひしゃげさせ、タンクを踏み抜いた。


 何時間も、何度も、何も言わず。


 ただ――破壊だけが続いた。


◇ ◇ ◇


 夜が白み始めたころ、すべてが粉々になっていた。


 大地には、散乱する金属屑と無惨な廃棄物の破片。だが、確かに「山」は崩されていた。


 怪人はしばらくその場に立ち尽くすと、静かに森の奥へと姿を消した。


 そこに、誰も魔法少女は現れなかった。

 何者も、彼を止めようとはしなかった。


◇ ◇ ◇


――翌朝。


 報道ヘリが上空を旋回していた。


「こちら現場上空です。山中にて大量の産業廃棄物が破壊された状態で発見されました。投棄者の逃走経路にはタイヤ痕が残されており、警察は違法投棄の可能性があるとして、調査を開始しています。なお、破壊された痕跡は人為的なものではなく、何らかの“異常事態”があったと見られ――」


 その下で、地元住民たちはぽつりと呟いた。


「……また、怪人か?」


「けど、アイツ……俺らを襲ったわけじゃないんだよな……」


「……ただ、ゴミを……壊してただけで……」


 やがて、ニュースは別の事件へと切り替わっていった。

 だが、そこに魔法少女の姿は無かった。


 破壊だけが、静かに山を片付けていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ