Curse Walker: Sign of Truth(カース・ウォーカー:サイン・オブ・トゥルース)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
I組第二授業から、ずっと離れて戦っていた外部の冒険者達と、記憶持ちの生徒達。
そしてようやく語られる——彼等と別れた後、どんな激戦を繰り広げていたのか……
そして、ネリカが助かり記憶持ちに参加した真相も明らかに——
《Death of the Academia》をお楽しみください
アーサーを助け出すのに、時間はそうかからない。
問題はその後、どうやってティオル達を凌ぐか、だ……
その刹那。
アーサーの背に輝く光輪の結晶から、冷気を取り込むように魔力が帯び始めた。
次の瞬間、それぞれの尖端から奔る閃光が、矢雨のようにティオルへと殺到する。
光線は腕や脚、首や腹を次々に貫いた。
だが、出血はせず穿たれた傷口は、瞬く間に凍結していった。
ティオルの剣先は、黒い霧で自分自身を——渦巻き全身を覆った。
その隙を僕は逃さない……! 一度きりのチャンスに手を伸ばした。
「アーサー、受け取って!」
僕の心からの叫びは、彼にしっかりと届いていた。
濁りに覆われた瞳の奥で、抗う意志を宿した青い光が顔を覗かせる。
今なら呪いを断ち切れる——!
僕は武器をレイピアへと変じ、剣先から小さな光刃を放つ。
刃は宙を舞い、アーサーの胸の中へと吸い込まれるように、優しく彼を包んだ。
「――――っ!」
ティオルにかけられた呪いの残り香と、アーサー自身の自我が激しくぶつかり合う。
彼は頭を抱えて、声にならない悲鳴をあげる。
僕にはただ、その戦いを信じて見守ることしかできなかった。
その時だった——
「リゼルド、避けて!」
鋭い声に振り向くと、黒霧を裂いてティオルが姿を現す。
殺気を孕んだ影が迫り――
「終わる」と直感した、その瞬間。
突如——氷刃が空間を切り裂き、僕の横をすり抜けていった。
ティオルの額に深々と走る傷は、再び凍りつき膝をついた。
奥に目を凝らすと、血に染まった足元で剣を支え立つアーサーの姿があった。
「ありがとう……リゼルド。俺は——まだ戦えるよっ!」
その言葉と共に、彼は冷や汗を浮かべながらもゆっくりと顔を上げる。
唇に浮かぶのは、頼もしさを携えた微笑み。
そして瞳は――かつての濁りを失い、サファイアのように澄んだ輝きを放っていた。
ほんの少し、目頭が熱を帯びた。それは涙ではなく、胸の奥から安堵が込み上げる。
同時に、クレヴァスとエラリア様の戦いも止まり、戦場は静寂へと沈んだ。
僕は膝を屈め、ティオルと同じ視線に立って問いかける。
「もう一度聞くよ……? 何がそこまで、君を突き動かしているの?」
彼は、頑なに口を開こうとしない。
覗き込んだ顔から、額の傷と共に左目は氷に覆われ、そこには僕自身の瞳が冷たく映っていた。
「本当は……間違ってるって、気付いてるんじゃないの?」
「違う……っ! 神であるあのお方が、間違うなど——絶対に有り得ぬ!」
愚直に自身の信仰心を貫くか……普段冷静な君が、感情的になるなんて――心の奥に迷いがある以外、何が考えられるって言うんだい……?
「じゃあ聞くけど、他の神もノクトヴァールと同じ考えを持ってるの? 少なくとも、エラリア様は違う考えみたいだけど……」
「神の意向は統一でなくてはならない。誰か一人でも異なる考えを抱くなど……あってはならぬのだ!」
まるで、後付けかのような言い訳に聞こえた。
「ならば、私が行って——直接真意を確かめてさしあげましょう」
エラリア様は、ルルナの体を借りてなお、その魂の強さを真っ直ぐにティオルへと放つ。
「それに、光の神を信仰するクレヴァスが――何故、貴方を慕い私を糾弾しようとするのかも……気になります」
確かに、彼女の言っていることは筋が通っている。
何千年も前、ノクトヴァール神は突如として暴走した。
やがてその狂気は他の神々へも伝染し、代行者たちの総力をもって封じられた――そう伝えられている。
「ティオル達もまた、真実を隠す為に口を封じられているのかもしれない。危険が生じたとしても、一番の近道と思われます」
エラリア様と視線が交わり、互いの意見が同じであることを証明するように――僕等は頷いた。
「俺は神や代行者のことは詳しくない。だけど……君達の行いが正しいのかどうか、エラリア神が証言すれば、それで決着はつくはずだ。それくらい、出来るだろ?」
今まで沈黙していたアーサーが、重い口を開いた。
彼の身体を包んでいた光輪は音もなく解け、その残滓が六つの結晶となって掌に宿る。
まるで夜空に散った星を凝縮したように、澄んだ煌めきを持っていた。
「何故そこまで、干渉するのだ……? 神の意向で行われている儀が、何故悪だと言い切れる……!」
「――その思考が間違っているんだ。僕から言わせれば、選別で人を殺すのは重罪だ。もちろん、人が死んで当たり前なのは分かる……」
自分の中で、何かが切れる音が聞こえた。
今まで、押し殺していた感情が言葉に乗って、全部吐き出される――
「だけど——殺し合って当たり前? 戦争でもない穏やかな地で、必要のない血を流すのが、当然だと本気で思ってるその価値観が可笑しいって言ってるんだ!」
熱を帯びた頬に、ひやりと冷たい雫が伝った。
自分の顔を覆って、掌を見ると微かに湿っているのを感じる。
あぁ…………これ、泣いてるんだ。
もういいや、全部言っちゃえ……………
「君達の身勝手な思想で、何人死んだと思ってる……! この何千年という時までずっと、無差別に人は死に続けた。――君達のせいで!」
僕が強く言い始めてから、ずっと黙ってる………
ほら。やっぱり、「自分が間違いだった」って認めてる証拠じゃん。
「やましいことがないなら、言えるよね? 僕等やエラリア様を納得させる意向を示せるんだろ」
もう限界だ………でも堪えないと。僕もこの人と同じになってしまう……
柄を、出来るだけ強く握り、自分に起こる負の感情を抑え込む。
その時、視界の端で動き出そうとしていたクレヴァスが、初めて口を開いた――
「……分かりました。光の神を信仰する者として、エラリア様に従う。ノクトヴァール神との対話——その道を選びます」
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