Curse Walker: Evolving Souls(カース・ウォーカー:エヴォルヴィング・ソウルズ)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
I組第二授業から、ずっと離れて戦っていた外部の冒険者達と、記憶持ちの生徒達。
そしてようやく語られる——彼等と別れた後、どんな激戦を繰り広げていたのか……
そして、ネリカが助かり記憶持ちに参加した真相も明らかに——
《Death of the Academia》をお楽しみください
「遅い。何日、待たせたと思ってる……」
えぇ……めちゃくちゃ感動的な再会かと思ったら、もうアラリックさん説教ベースっすよ……
でも、叱ってる割には安心した表情が、滲んでるみたいっすけど。
おそるおそる、リゼルドさんの顔をチラリと覗く。
「ごめんね。ずっと連絡したいと思ってたんだけど、手が離せなくて……」
リゼルドさんが、必死にアラリックさんの機嫌を直そうと弁明するも、獲物を見据えたような鋭い目つきは、止まなかった。
「貴方の言いつけ通り、約束は守りました。自分の過去と、真っすぐに――」
そうか。アラリックさんは……言われたことも、決めたことも絶対にやり遂げる。
過去について知りたいと言ったのは、これもあったんすね。
「ありがとう。君もアラリックに寄り添ってくれて……」
恥じらいもなく言い放つリゼルドさんに、少しだけ頬が熱くなった。
俺は、ずっと助けられてる側なのに……
「さっ。あんまり長話も悪いし、話そうか……」
和む雰囲気は、一瞬で重くなる。
アラリックさんの瞳は、本当に何もかも見透かしているようで――
俺には到底、彼の気持ちは理解できなかった。
「アラリック達と別れた後、どんな戦いがあったのか――」
第二授業が終わって、教室から帰還の扉を通った瞬間、僕達はティオルとすぐに対峙した。
最初は、なんとか逃れることが出来たんだけど、すぐに追いつかれてしまって――
一度目の逃亡の時、僕が自ら作り出した異空間の中で戦闘が始まった。
ティオル達が侵入した入り口から、眩しい外の光が差し込んでくる。
ルルナの存在が引き金となり、水属性へと復活を遂げたアーサー。
右頬に、螺旋を描く氷の結晶の紋章が浮かび上がると、感情の大きさを示すように、更に紋章が濃くなっていく。
「僕は君に問いたい……何がそこまで、君を突き動かすのか」
アーサーの声色は、間違いなく怒っていた。
僕でさえも、聞いたことのない——氷のように冷たく黒く低い声が……
ティオルは剣を掲げると異空間の見えない天井から、闇の禍々しい魔法陣を展開し始める。
そこから覗くのは、大理石のように細く真っ白な角に、正反対の鉄黒さを併せ持つ龍の頭——
それはまるで、闇の神《ノクトヴァ―ル》と自身の代行者という信仰心を、具現化しているような大きさだった。
「―――小細工を」
「カランッ」と澄んださざ波のような音。
そして割れるような「パキッ」という儚くも美しい音色のような音を響かせて、アーサーの剣をまとっていく。
やがて、短剣のように牙の幅が大きく鋭く変わり、天に向かって投げるように氷を穿った。
瞬く間に、異空間の天は海のように澄んだ美しさで、龍の頭とともに凍っていく。
――だが、余韻に浸ることなくティオルの剣が、アーサーに迫る。
黒炎を纏わせ、断末魔のようにうねる刃が、振り抜かれた瞬間——
アーサーの身体は滝のような奔流に包まれ、そのまま跡形もなく姿を消した。
刹那。
凍りついた天井が、悲鳴を上げるように軋み始める。
辺りを見渡すと、氷晶の絨毯を足場に立っているアーサーだった。
その姿は、神性を思わせる。
背筋が凍るような鋭い目つき、どこまでも続く海のような、底知れない魔力。
やがて天に広がる氷が砕け散り、無数の結晶に集約されると、背に光輪のような形を作った。
「ルルナ聞いて……アーサーは、怒りの感情に呑まれて危ない状況だ」
「そうね――それで、どうしたらいいの……?」
微かに感じる焦りは、いつものルルナとは少し違ったように思えた。
アーサーの妻として、そして世界を統べる神の一人として――真っすぐ僕の瞳を、射抜いていた。
「僕がアーサーを助けようとする前に、クレヴァスの攻撃がやってくる——だから」
僅かにルルナと距離を詰め、ほんの一瞬クレヴァスの表情を横目に見た。
ティルオル達の狙いは、ルルナ(光の神:エラリア)の奪還。
自ら危険を晒すことに、迷いを感じた時——
彼女は全てを理解し、決意を示してくれた。
「クレヴァスのことは、私に任せてちょうだい。彼を引き付けている間に……アーサーをお願い!」
僕が、アーサー達の戦況を読みながら駆け出した瞬間――異空間の結界を突き抜けて、稲妻がクレヴァスの刀に流れ込んでいく。
刃に纏う雷が、轟々と響き渡り、剣撃が僕に向かって放たれようとした時—— 紅蓮の炎と、太陽のごとく眩い光が交差し、戦場を白く切り裂いた。
「私の仲間に手を出し、信仰する神に呪いをかけた罪――万死に値します! 報いを受け、償いなさい……クレヴァス・リュエン」
再び走り出した時、視界の端で、彼女の狐色に長い髪が微かに揺れる。
そして、今まで隠れていた呪いを象徴する紫色の左目が、白く眩しい瞳に変わっていく。
足首まで流れる純白の衣に、澄み切った長袖が翼のように舞い、神々しき光を映した。
その手に握られた槍は、敵を裁く闇の牙。
根本には、愛を燃やす紅の心臓が輝きを放つ。
柄には、神エラリアの証として光の魔力が満ちあふれていた。
「信じています……エラリア様」
もう後ろは振り向かない。
神である仲間を信じて——今はただ、アーサーを救うために。
四章ぶりのアーサー達の登場となります。
是非新章も、存分に楽しんで頂けると嬉しいです!




