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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
水属性と記憶持ちの賭けバトル編【エピローグ】
89/115

Aqua Hand in Joker: Memory Epilogue(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:メモリー・エピローグ)〈後編〉

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


仲間達の力を借りて、どうにか生還することが出来たネリカ。

記憶持ちとなったばかりの彼は、謎めいた世界と学園に苦言を零した。


一方、崩壊したコロシアムで見たものは、想像を凌駕する光景で——


《Death of the Academia》をお楽しみください

アラリックが、借りていた肩をそっと離し、グランの傍らに屈む。

左手をかざすと、零れた陽光が、冷たい肌を淡く照らし出した。


緊張が張り詰める静寂の中、一人一人の呼吸音だけが残る。

彼は、何かを探すように時間をかけて遺体に触れていった。



やがて、アラリックは低く静かに告げた。


「特に、隠し持っていた物はない。そして――既に死んでいる……回復魔法でもこいつは治らない……」


小さく首を振り、諦め色を灯した目で身を引いた。


「火の魔法を使える人……誰か埋葬してあげて。瓦礫の処理は、僕がやる……」


その背中は、冷静で、けれどどこか痛みを含んでいた。

土の魔力で瓦礫が砕ける音が響く中、ヴェイルは視線を逸らさずに呟いた。


「アラリックは……優しすぎる。追憶の試練を受けてから……なのか……?」


でも俺もおかしい——憎くて、憎くて。ようやく死んだ、戦わなくても、死んでくれた相手なのに――胸が苦しい。


グランを殺した奴が裏にいる……?



グランの遺体に一歩踏み出したのは――ゼフィリー・フィオラ。

記憶持ちではないが——かつて自身の強みを見い出し、風だけではなく、火の二属性に目覚めることが出来た恩を感じていた。


「僕が埋葬するよ。こういうの……慣れてるし。グラン先生には、お世話になったから」


静かにそう告げると、ゼフィリーはグランの亡骸を抱え上げ、コロシアムの扉へ向けて風を流す。

その姿を見送りながら、ストリクスが前向きなその決意に小さく頷き、言葉を贈った。


「ありがとう……これでグランも、安心して逝けると思う」


ゼフィリーが深く頷くと、足元がおぼつかない状態で、こちらへ歩く音が近づいた。

——瓦礫を飛び越えて声を上げたのは、レンリーだった。


「あの、僕も一緒に埋葬しても良いですか?」


宙に浮かぶゼフィリーを見上げるように、懇願の視線を向ける。


「もちろん。きっと喜ぶ……」


ゼフィリーの瞳が僅かに揺れ、風がレンリーの足元を支える。

虹を駆けるような浮遊感の中、レンリーはゼフィリーの裾をしっかりと握り、視線を合わせた。


「ちゃんと掴まっててね」


こうして、二人はグランを連れ、埋葬の為にコロシアムを後にした。

平然と見送るストリクスに、ヴェイルは懸念をこぼした。


「良いのか……記憶持ちじゃない奴だけにして」


その瞬間、ストリクスは頭を抱えた。

重圧に押し潰されそうな声を、必死に振り絞った。


「分かんない……情報量が多すぎて、どこから解決していけば良いのか……」


グランは自ら死を選んだのか、それとも——誰かの手で、殺される運命だったのか。


なぜ脱落扱いだったネリカが助かったのか。


そしてまだ呪いに囚われた生徒達に、どう説明すればいいのか――考えることは、山のように積み上がっていた。


「ごめん……今はやめよう」


「……悪かったな。ストリクス」



一方、僕等は火葬のため、静まり返った校庭の中央へ向かっていた。


グラン先生をそっと降ろして、反対に向いた首を可能な限り、元の位置に戻して横たえる。


どうして——先生が死ぬことになったのか。

難しいことは脳が考えるのを拒んでいた。


「うっ……くぅ……」


隣でレンリーが、泣き崩れる。

僕はその背中をさすり、火葬の手を合わせるように促した。


「ちゃんと、見送ってあげよう……」


鼻を啜って、瞼が真っ赤になるくらいの腕の力で、涙を拭った。

僕は両手を掲げ、虹を描くように火炎を形づくる。


炎は静かに広がり、グラン先生を包み込む。

舞い上がる火花の中、面影は少しずつ炎に溶けていった。


その時――

脳裏に見たことのない情景が、浮かび上がる。


『僕の故郷は、皆……火の一族だった。でも僕は、風属性でした』


これは、面接?入学前の記憶……? 

——でも、僕の知らない記憶だ。


情景が映り変わり、机に伏して眠る僕。

傍では、何かの術を施すグラン先生と、静かに見守っているフラーナ先生の姿だった。


はっと我に返ると、炎は既に骨だけを残していた。

僕は静かに心の中で別れと感謝を告げる。


ありがとう……貴方がもし、大悪党だったとしても、僕に火属性の可能性を導いてくれた恩は……絶対に忘れません。


横に振った手の動きで炎が消え、最後の火花が夜空に昇っていった。

まるで僕の言葉を連れて行くかのように——



あれから何時間経っただろう……コロシアムに残った皆は、大丈夫だろうか。


ネリカさんの寮室。

治療を一通り終え、落ち着いた呼吸を確かめながら、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。


俺は、彼から聞いた話をずっと考えていた。


ネリカさんの覚醒に導いたのは——アーサーヴァレンティス。

かつて……いや今も、アラリックさん達と志を同じく戦い続ける外部の人間。


だが、現れたのは実体ではない。

結晶化のような姿で、幻影のように人影だけが見えたという。


「まさか……実体を失った? それとも、意識だけを届ける固有の術……?」


その時だった——

空気が僅かに重くなり、背後で、何者かの気配が揺らめく。


「誰です……!」


白いブラウスの袖を捲り、黒いオーバーオールをまとった灰色の髪の男が、静かに立っていた。


籠手に手を伸ばしかけた俺に、その男は諭すように言った。


「僕は、君と戦う意思はありません。――こうして顔を合わせるのは、初めてかな?」


まるで、俺のことを知っているような声色。

警戒心を解かないまま、耳を傾ける。


「アラリックから、話は聞いてる? ――アーサーって人の仲間。リゼルド・グレイアス……こちらも一段落がついたから、報告も兼ねて参った次第です」


コロシアムに残ったアラリックは、その気配をすぐに察していた。


そしてリゼルドは静かに語り始める――

世界を覆う陰謀と、彼らが戦い抜いてきた日々を。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

次回から新章プロローグと致しまして、『あの日の真実と、青年を助けた英雄編』をお届けです!

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