Aqua Hand in Joker: Rise of the Heroes(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:ライズ・オブ・ザ・ヒーローズ)〈前編〉
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
カルテットデスゲームを利用し、脱落者を助ける作戦に乗り出したヴェイルとストリクス。
その中で選ばれたネリカは——
仲間を信じて、自分の信じた道を歩む為に、剣を向ける。
《Death of the Academia》をお楽しみください
フラーナの思わぬ登場により、コロシアムは混沌へと姿を変えていく。
「リノ・ネリカさん。貴方にひとつ忠告があります……」
冷ややかな声と、紅蓮のように染まる瞳。
その目で、こちらを鋭く見据えるフラーナ。
——ほんの一瞬、ネリカの背筋は冷たく震えた
「既に、マリーナ先生がアラリックさん達の元へ……そして、ヴィンティス先生の魔力により、ヴェイルさん達が戦っている魔獣を完全なる支配下にしました」
しかし、ネリカの表情は青ざめるどころか、微かな笑みを浮かべて冷静に言い返す。
「だったら何です? こちらも言っておきますが、降参も組織に入るつもりもありません」
フラーナは小さく息を吐くと、両手を器の形に組む。
やがて、掌から燃える魂のように無数の火の玉が舞い踊る。
「どうして貴方はそこまで、自身の意思を貫き通すのですか?」
何度も「ゴウッ」という火が灯るような音を立てながら、フラーナが波打つように歪んでいる。
結晶化のアーサーが、ネリカの前に立とうとした時、彼は制止するように、問いに答えた。
「先生達と同じです。何かを絶対に成し遂げなくてはならない……だから、選別をして犠牲者を出すのと同じように」
きっと全部間違ってる……
だから僕は、僕の信じる道を歩きたい!
「僕は、別のやり方で世界の調和を望むから、貴方達が間違っていると証明する為に、仲間と協力して戦い続ける! ただそれだけです」
どれだけ、刺客を送り込まれようと……僕の仲間は絶対に負けない!
そう信じているから……僕は。
「諦めろフラーナ。記憶に目覚めた者は……飴でも鞭でも裏切らない……」
グランは彼女を諭すように、告げる。
実際、I組の生徒達は誰も寝返ることなく戦っている。
しかし、誤った選択によって一人の生徒は、終わりを迎えている。
「それは残念です……では、早々の幕引きと行きましょう」
火の玉が一つに溶け合い、渦を巻きながら巨大な円を描いていく。
それは、太陽のように全てを焼き尽くすような、光と熱を帯びていた。
氷を全身にまとい、ネリカは死ぬ覚悟を決める。
轟音と空間の軋む音が、鳴り響く。
結晶化アーサーと背を合わせて、挟み討ちの形に追い込まれる。
その瞬間——
結界を通して、誰かが助けにくる気配を感じ取った。
一方その頃、ストリクスとヴェイルは、地下監獄の闇を裂くように、ケルベロスと死闘を繰り広げていた。
一匹のケルベロスは、三つの首のうち二つは既に落ち、残った中央の首が、血走った目でヴェイルを睨みつけている。
「アル・ヴァードフレイム!」
ヴェイルの叫びとともに、炎が鳥の形へ姿を変えてゆく。
突風を起こしながら、ケルベロスの体内へ潜り込む。
次の瞬間、「ボコッボコッ」と至る場所で膨れ始める。
やがて、皮膚から内側を突き破ると——
「そのままくたばりやがれ!」
体制を崩すケルベロス。
剣先から炎をまとい、刀身が赤く燃え上がると心臓めがけて、突き立てる。
肉の破裂する音と、金属の音が混ざり合う。
直後、爆炎が魔獣の体の内側から粉砕し、肉片と黒き煙が舞い上がった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
炎の火炎が、滴るように消えていく。
外傷こそ少ないが、カルテットデスゲームで放った必殺技の反動が襲う。
膝から崩れるように力を失い、右手の握力も消え、剣が「するり」と抜けるように、地に転がりヴェイルは倒れ込んだ。
「悪い……ストリクス。あとは……頼ん……だ」
息はしてる……! だけど、今回の戦闘で使える体力は全部使い切った。
あとは僕が頼まれた……なんとかやってやる!
「ワォォォォォォォン!」
第二のケルベロスが、夜空を裂く遠吠えを放つ。
緑色に濁っていた三つの首は、ぐにゃりと動き、各々の片目にだけ異様に澄んだ人間のような瞳が現れる。
その瞳は生気ではなく、底なしの闇を写していた。
彼の中で、確実に誰かが裏で操っていると勘づいていた。
「不気味だ……実に気持ちが悪い」
ストリクスは低く身構え、地を蹴って瞬く間に背後へ回り込む。
一閃、中央の首へ鋭く剣を振るう。
――だがケルベロスの巨体が煙のようにかき消えた。
「…………は?」
振り抜いた剣は、何もない空間を切り裂く。
次の瞬間——
背後で気配が閃いた。
振り向く間もなく、牙が肉を貫く。
肩の骨が粉砕され、肉を抉られる。
腹部を裂く生々しい感触が全身を走る。
地面に叩きつけられ、衝撃と共に血が噴水のように舞い上がった。
視界が赤に染まり、耳に届くのは自分の断末魔だけ。
「ぐっ……あぁぁぁぁぁぁ!」
「ストリクス……!」
ヴェイルの声が遠くで響く。
必死に立ち上がろうとするが、動かぬ体が地面に縛りつけられる。
それでも手を伸ばし、仲間に縋る。
「俺と……戦え……!」
朦朧とする意識の中で、ストリクスも腕を伸ばす。
唇を震わせ、息を詰まらせながら名前を呼ぶ。
「ヴェ……イル…………」
こいつは、誰かに使役されて…………いる。
そして…………僕の培った戦術を……真似た。
あぁ………”もう死ぬのか”
――誰か………助けて。
その瞬間、暗い夜空を裂くように、風魔法の光が流れ星となってケルベロスの首めがけて降り注いだ。
「ギャァァァァァ!」
夜を切り裂くような悲鳴に、監獄ごと揺れる。
耳に届く声は、聞き慣れた声。
「少し遅れちゃいましたね。でももう大丈夫っす! あとは俺に任せて二人は休んでいてください」
その陽気で明るい声は、戦場での、絶望的な雰囲気を一瞬で吹き飛ばす。
崩れた岩壁の上に、籠手を装着した男が一人立っていた。
——リオライズ。
間一髪で、追憶の海底の試練を突破し、この学園に帰ってきた。
月明かりを背に、徐々に顔がしっかりと見え始める。
「”ヒーローは遅れてやってくる”でしたっけ? この夜は俺の物っす!」
リオライズとケルベロスの決戦。
そして、アラリックとネリカ達の戦いの行方は——
最後まで読んで頂きありがとうございました!




