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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
水属性と記憶持ちの賭けバトル編【第一幕】
77/115

Aqua Hand in Joker: Quartet Death Game(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:カルテット・デス・ゲーム

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。


一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——

二人の青年が、大きな賭けに出る。


《Death of the Academia》をお楽しみください

“進化したコロシアム”に集まった、八人の生徒達。

新しくなったコロシアムに目を奪われていると、一人の声が響く。


「ご苦労だった、マリーナ。下がっていいぞ」


コロシアムのアリーナ中央でグランが一人佇んでいた。

不気味な笑みを浮かべて振り返ると、マリーナは生徒達に言葉をかけて、コロシアムを後にした。


「皆、授業はしっかり受けるのよ。頑張ってね」


マリーナは小さく手を振ると、背を向けて扉の向こうへと消え、次の瞬間——重々しい音とともに、コロシアムの扉が閉ざされた。


ヴェイルの瞳は、獲物を狩るような目でマリーナを見据えていた。

冷たく緊張感漂う空気の中で、一人の生徒が声を上げる。


「前に来た時より広くなってます!」


空気にはそぐわない雰囲気で、レンリーが興奮するように、目を輝かせてコロシアム全体を見渡す。


「そうなの? 最初のコロシアムも見たことないから、全然分かんないな」


「ゼフィリーは初めてだっけ? ここに来るの」


ストリクスは、隣のヴェイルをちらりと見ながら、ゼフィリーに静かに問いかけた。


Ⅱ組の生徒達は、第一授業でこのコロシアムを使用していた。

一方、Ⅰ組のうちゼフィリーを除いた生徒達は、選別の手合わせや、対人戦に向けた特訓の場として使ったことがあった。


「そうだね……初めて見るかもしれない。密閉された場所だと、自由に魔法は使えないと思ってたから」


確かに、ゼフィリーは外で鍛練することが多かった。

ヴェイルの話では、“結界について疑問を持っているみたいだった”とは、聞かされていたけど、呪いの気配が残っている。


「でもコロシアムだって、自由に魔法を扱えるよ」


声を掛けたのは、魔法使い同士として対人戦で、ゼフィリーと一戦交えたエニアル。

彼もまた、対人戦で敗北を喫した。


無属性でありながらも、周りの人間の戦い方を自分の姿に投影させて、風属性を身に着けた生徒の一人。


「そうなんだ。じゃあ、一回だけならやってみても良いかもね」


ゼフィリーが、エニアルの言葉に頷き、緊張の雰囲気が解けかけた瞬間――

グランが、その空気を即座に呼び戻した。


「雑談は、程々にしておけ。ルールを説明するぞ……」


彼の言葉一つで、全員の視線がグランに向いた。

一拍置いて、簡潔に短く言葉を繋げる。


「教室で見たチーム分け通りに戦ってもらい、どちらかのチームのうち、一人でも戦闘不能になった瞬間に……」


グランの瞳が、ぎらりと妖しく光った。

その目に射抜かれるような感覚が、生徒達の背筋を凍らせる。


空気が、まるで毒を孕んだかのように澱んでいく。



「――その者を脱落とする」


あれほど震え上がっていた六人の生徒達。

やはり——脱落に関連するざわめきの声も、困惑の視線も、何ひとつストリクスとヴェイルには感じなかった。


たった一人の生徒を除いて——

その生徒は、授業が始まる直前に、二人が耳打ちで何かを話しているのを、訝しげに見ていた。


互いにスパイ役として、仲間の情報を交換したのか――

それとも、この世界の違和感に立ち向かう為の、作戦会議だったのか――



武器を構え、張り詰めた空気で、グランの掛け声が聞こえた。


「カルテットデスゲーム――始め!」


開始の合図と同時に、ストリクスが地を蹴る。

無属性の時に磨いたスピードで、一気にネリカへと迫った。


反応が間に合わず、剣先がネリカの頬を掠めたその瞬間——


金属音がアリーナに甲高く鳴り響いた。


「残念だったな、ストリクス。俺に、その攻撃は通用しないぜ!」


刃を受け止め、ネリカの前に立ち塞がったのはヴェイル。

彼もまた、記憶持ちとして肩を並べ、ストリクスとともに戦う存在。


「君なら、そう来ると思ったよ。ルルナと鍛錬して、成長したみたいだね」


ストリクスの脳裏に、かつての第一授業がよぎる。

無属性の自分が、属性持ちのヴェイルに膝をつかせた、あの日の出来事——


火花が散る。

睨み合ったまま剣を交える二人の間に、突然、風の魔力が斜めから吹き込む。


それに気付いたネリカが、氷の壁を展開した刹那――

その術を包み込むように、火属性の魔法が飛び交った。


「エニアル……さっき、”僕とリベンジする”って言ってなかったっけ?」


エニアルの風魔法を打ち消したのは、かつて火の魔法で彼を圧倒したゼフィリーだった。


「言ってないよ。ただ“コロシアムでも、好きに魔法を放てる”って言っただけ」


エニアルため息を吐いて呆れるように答えた。

勝手な解釈をしたゼフィリーは構わず、爆炎の魔法を放つ。


宙へ跳躍して回避するエニアル。

地に着弾した魔力は、真っ赤に燃え上がるように、地響きを鳴らしながら大きく爆ぜた。


「ヴェイル! こっちは任せて大丈夫。早くストリクスを遠ざけて!」


ゼフィリーの声は、対人戦で聞いた時と同じ、どこか頼れる響きだった。

だがその声と同時に、上空から鎖鞭を回して、レンリーが飛び込んでくる。


「………っな!」


咄嗟にストリクスを蹴り飛ばし、ヴェイルは鎖鞭を薙ぎ払う。

しかし、剣先を鞭で巻かれ身動きが取れなくなる。


「ネリカ! お前はストリクスを頼む!」


大きく頷いてヴェイルの蹴りで距離を取ったストリクスの元へ、ネリカが駆け出す。


拘束された剣先に魔力を込める。

すると、熱を帯びた刃が、徐々に鉄の鞭を溶かし始めた。

そのまま切り刻むように、レンリーの攻撃を断ち切る。


「ヴェイルさんとは、一度戦ってみたかったんです。お手合わせお願いします」


鎖鞭は、普通の剣に姿を変え、溶けた鉄などは一切影響がないようだった。

そしてレンリーの純粋な声は、何処が奇妙で不気味な雰囲気を漂わせる。

ヴェイルは一連の流れを整理しながら、剣を構える。


想像以上だ……今まで、エリアで分けられて戦ってた。でも今は、制限のないフィールド。まさに混沌(カオス)——


下唇を噛んで、険しい表情へ変わっていく。


相手の攻撃が飛んでくる可能性と、味方の状況確認、目の前の敵との戦闘……まともに考えてこなかったツケが、ここで回ってくるなんて。


とにかく、レンリーを潰さないと……いや、隙さえ作れればゼオンの救援として、サイラスも助けられるかもしれない。

抑制術、アラリックの指導も受けているとなりゃ、俺が先に倒されんのも時間の問題だ……


急げ……でも、殺すな。

記憶持ちじゃなくても、ここにいる全員……俺等の仲間だ。


周りの激闘を流すように目で追っていく。

そして、レンリーと真っすぐ視線を交えて、一呼吸置いた。


「良いぜ。俺もレンリーとは一度戦ってみたいって思ってたしよ」


ほんと、何考えてるか分かんねぇ……

クラスが別とか、元々仲が悪いならまだしも、仲間内で……温厚な性格の奴がこんなこと。

やっぱり……呪いの効果は――”消せてない”。


熱を帯びているヴェイルの剣。

そのまま炎をまとわせ、大きく刃を包んでいく。

ストリクスと同じように、一歩目で素早く敵の間合いに入り背後を取った。


そして、迷わず剣を振り抜いて――



こうして、カルテットデスゲームは幕を開けた。

仲間を信じ、自分の勝利を信じて突き進む。

強敵レンリーを前に、ヴェイルは初めて、頭を使った攻撃を開始する――

最後まで読んで頂きありがとうございました

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