Aqua Hand in Joker: Quartet Death Game(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:カルテット・デス・ゲーム
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。
一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——
二人の青年が、大きな賭けに出る。
《Death of the Academia》をお楽しみください
“進化したコロシアム”に集まった、八人の生徒達。
新しくなったコロシアムに目を奪われていると、一人の声が響く。
「ご苦労だった、マリーナ。下がっていいぞ」
コロシアムのアリーナ中央でグランが一人佇んでいた。
不気味な笑みを浮かべて振り返ると、マリーナは生徒達に言葉をかけて、コロシアムを後にした。
「皆、授業はしっかり受けるのよ。頑張ってね」
マリーナは小さく手を振ると、背を向けて扉の向こうへと消え、次の瞬間——重々しい音とともに、コロシアムの扉が閉ざされた。
ヴェイルの瞳は、獲物を狩るような目でマリーナを見据えていた。
冷たく緊張感漂う空気の中で、一人の生徒が声を上げる。
「前に来た時より広くなってます!」
空気にはそぐわない雰囲気で、レンリーが興奮するように、目を輝かせてコロシアム全体を見渡す。
「そうなの? 最初のコロシアムも見たことないから、全然分かんないな」
「ゼフィリーは初めてだっけ? ここに来るの」
ストリクスは、隣のヴェイルをちらりと見ながら、ゼフィリーに静かに問いかけた。
Ⅱ組の生徒達は、第一授業でこのコロシアムを使用していた。
一方、Ⅰ組のうちゼフィリーを除いた生徒達は、選別の手合わせや、対人戦に向けた特訓の場として使ったことがあった。
「そうだね……初めて見るかもしれない。密閉された場所だと、自由に魔法は使えないと思ってたから」
確かに、ゼフィリーは外で鍛練することが多かった。
ヴェイルの話では、“結界について疑問を持っているみたいだった”とは、聞かされていたけど、呪いの気配が残っている。
「でもコロシアムだって、自由に魔法を扱えるよ」
声を掛けたのは、魔法使い同士として対人戦で、ゼフィリーと一戦交えたエニアル。
彼もまた、対人戦で敗北を喫した。
無属性でありながらも、周りの人間の戦い方を自分の姿に投影させて、風属性を身に着けた生徒の一人。
「そうなんだ。じゃあ、一回だけならやってみても良いかもね」
ゼフィリーが、エニアルの言葉に頷き、緊張の雰囲気が解けかけた瞬間――
グランが、その空気を即座に呼び戻した。
「雑談は、程々にしておけ。ルールを説明するぞ……」
彼の言葉一つで、全員の視線がグランに向いた。
一拍置いて、簡潔に短く言葉を繋げる。
「教室で見たチーム分け通りに戦ってもらい、どちらかのチームのうち、一人でも戦闘不能になった瞬間に……」
グランの瞳が、ぎらりと妖しく光った。
その目に射抜かれるような感覚が、生徒達の背筋を凍らせる。
空気が、まるで毒を孕んだかのように澱んでいく。
「――その者を脱落とする」
あれほど震え上がっていた六人の生徒達。
やはり——脱落に関連するざわめきの声も、困惑の視線も、何ひとつストリクスとヴェイルには感じなかった。
たった一人の生徒を除いて——
その生徒は、授業が始まる直前に、二人が耳打ちで何かを話しているのを、訝しげに見ていた。
互いにスパイ役として、仲間の情報を交換したのか――
それとも、この世界の違和感に立ち向かう為の、作戦会議だったのか――
武器を構え、張り詰めた空気で、グランの掛け声が聞こえた。
「カルテットデスゲーム――始め!」
開始の合図と同時に、ストリクスが地を蹴る。
無属性の時に磨いたスピードで、一気にネリカへと迫った。
反応が間に合わず、剣先がネリカの頬を掠めたその瞬間——
金属音がアリーナに甲高く鳴り響いた。
「残念だったな、ストリクス。俺に、その攻撃は通用しないぜ!」
刃を受け止め、ネリカの前に立ち塞がったのはヴェイル。
彼もまた、記憶持ちとして肩を並べ、ストリクスとともに戦う存在。
「君なら、そう来ると思ったよ。ルルナと鍛錬して、成長したみたいだね」
ストリクスの脳裏に、かつての第一授業がよぎる。
無属性の自分が、属性持ちのヴェイルに膝をつかせた、あの日の出来事——
火花が散る。
睨み合ったまま剣を交える二人の間に、突然、風の魔力が斜めから吹き込む。
それに気付いたネリカが、氷の壁を展開した刹那――
その術を包み込むように、火属性の魔法が飛び交った。
「エニアル……さっき、”僕とリベンジする”って言ってなかったっけ?」
エニアルの風魔法を打ち消したのは、かつて火の魔法で彼を圧倒したゼフィリーだった。
「言ってないよ。ただ“コロシアムでも、好きに魔法を放てる”って言っただけ」
エニアルため息を吐いて呆れるように答えた。
勝手な解釈をしたゼフィリーは構わず、爆炎の魔法を放つ。
宙へ跳躍して回避するエニアル。
地に着弾した魔力は、真っ赤に燃え上がるように、地響きを鳴らしながら大きく爆ぜた。
「ヴェイル! こっちは任せて大丈夫。早くストリクスを遠ざけて!」
ゼフィリーの声は、対人戦で聞いた時と同じ、どこか頼れる響きだった。
だがその声と同時に、上空から鎖鞭を回して、レンリーが飛び込んでくる。
「………っな!」
咄嗟にストリクスを蹴り飛ばし、ヴェイルは鎖鞭を薙ぎ払う。
しかし、剣先を鞭で巻かれ身動きが取れなくなる。
「ネリカ! お前はストリクスを頼む!」
大きく頷いてヴェイルの蹴りで距離を取ったストリクスの元へ、ネリカが駆け出す。
拘束された剣先に魔力を込める。
すると、熱を帯びた刃が、徐々に鉄の鞭を溶かし始めた。
そのまま切り刻むように、レンリーの攻撃を断ち切る。
「ヴェイルさんとは、一度戦ってみたかったんです。お手合わせお願いします」
鎖鞭は、普通の剣に姿を変え、溶けた鉄などは一切影響がないようだった。
そしてレンリーの純粋な声は、何処が奇妙で不気味な雰囲気を漂わせる。
ヴェイルは一連の流れを整理しながら、剣を構える。
想像以上だ……今まで、エリアで分けられて戦ってた。でも今は、制限のないフィールド。まさに混沌——
下唇を噛んで、険しい表情へ変わっていく。
相手の攻撃が飛んでくる可能性と、味方の状況確認、目の前の敵との戦闘……まともに考えてこなかったツケが、ここで回ってくるなんて。
とにかく、レンリーを潰さないと……いや、隙さえ作れればゼオンの救援として、サイラスも助けられるかもしれない。
抑制術、アラリックの指導も受けているとなりゃ、俺が先に倒されんのも時間の問題だ……
急げ……でも、殺すな。
記憶持ちじゃなくても、ここにいる全員……俺等の仲間だ。
周りの激闘を流すように目で追っていく。
そして、レンリーと真っすぐ視線を交えて、一呼吸置いた。
「良いぜ。俺もレンリーとは一度戦ってみたいって思ってたしよ」
ほんと、何考えてるか分かんねぇ……
クラスが別とか、元々仲が悪いならまだしも、仲間内で……温厚な性格の奴がこんなこと。
やっぱり……呪いの効果は――”消せてない”。
熱を帯びているヴェイルの剣。
そのまま炎をまとわせ、大きく刃を包んでいく。
ストリクスと同じように、一歩目で素早く敵の間合いに入り背後を取った。
そして、迷わず剣を振り抜いて――
こうして、カルテットデスゲームは幕を開けた。
仲間を信じ、自分の勝利を信じて突き進む。
強敵レンリーを前に、ヴェイルは初めて、頭を使った攻撃を開始する――
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