Aqua Hand in Joker: Backup Move(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:バックアップ・ムーヴ)〈後編〉
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。
一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——
二人の青年が、大きな賭けに出る。
《Death of the Academia》をお楽しみください
「やっぱり、他の奴等は何も気付いてなかったな……」
ヴェイルが低く呟く。
その言葉に、ストリクスが静かに頷いた。
「……ああ。まるで、記憶を失っていた頃の自分を見ているようだった」
カルテットデスゲームの説明が終わり、解散が言い渡された後――ヴェイルは自分の寮室でストリクスとともに、作戦会議を行っていた。
「今分かってんのは、デスゲーム……つまり、選別を本気で実行しようと思っていることと」
ヴェイルの言葉を続けるように、ストリクスが現状を語る。
「チーム分け次第では、望み通りに進まない可能性もある。そして、生徒達を本当に殺し合わせるつもりなのか、それとも……」
ストリクスは、一瞬言葉を詰まらせるがすぐに続ける。
「ソニントやアイレンのように、極秘で消すつもりなのか……だね」
「まぁでも……戦争に“公平”なんてねぇし、助けられるんだったら俺等の得になることは変わらない」
希望はある。
だが、ヴェイルの顔には、ふと険しい影が差していた。
「ただ、違和感を持つ奴が見当たらないとなると……」
アラリックは、自らグラン達の思惑に気付き――
ストリクスは、アーサーの助言により真実に気付いた。
アラリックも、ストリクスの姿を見て違和感を覚え――
リオライズもまた、マリーナ達の言葉を何度も呼び起し、自ら異変に気付き始めていた。
ヴェイルの見たオリエンテーションは、誰も何も気付く気配を感じられなかった。
しかし、ストリクスは一つだけ思い当たる出来事を思い出す。
違和感――あのとき、確かに感じた。
爆炎玉が炸裂した直後、ネリカの視線だけが……まるで、“自分を確かめるように”向けられていた。
最初に我を取り戻したのも、あの子だった。
「いや……有り得るかもしれない」
無意識に呟いた言葉は、ヴェイルにも届いていた。
「いるのか……? 誰か違和感を持ってそうな奴……!」
「憶測でしかない以上、確証はない。けど……君には話しておくよ。 あのオリエンテーションで、僕が“何を見たのか”を」
ネリカから感じた気配……そして視線。
ストリクスはヴェイルの瞳を真っ直ぐ見据えて、言葉を紡ぐ。
あの時、感じた全ての真実を——
ストリクスが、オリエンテーションでの出来事を話していた、同時刻――
もう一人の青年――リノ・ネリカもまた体の異変を感じ始めていた。
気分を落ち着けるため、ネリカは校庭へと足を運び、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「なんでだろ……今までこんなこと一度もなかったのに……やけに胸がざわつくんだ」
そっと胸に手を当て、自分の内側に問いかけるように魔力の流れを探った。
「不思議だな……自分の体の中に“水属性魔力がもう一つある”。僕のと違う……」
同じ属性を二つ持つことは、絶対出来ない。
でもこの魔力は……とても温かい。だけどもう一つは……信じられないほど禍々しい気配を感じる。
でも……こんな魔力、いつの間に手に入れたっけ?
かくして、時計の針は進み――カルテットデスゲームの実戦が始まる。
昼時が近くなり始めた頃、再びⅠ組の教室に招集された八人の生徒達。
しかしグランの姿はなく、薄暗い教室の中に黒板にチョークで大きく書かれたチーム分けが静かに存在感を放っていた。
チーム1
ヴェイル・イグニス ゼフィリー・フィオラ ゼオン・ルーゼ リノ・ネリカ
チーム2
ストリクス・アルヴィオン レンリー・ノア エニアル・シゼロ サイラス・エズル
八人の生徒全員が、文字をなぞるように目を走らせていく。
静寂の中、チョークの白だけがやけに浮き上がって見えた。
その静けさを破ったのは、サイラスだった。
相変わらず、その端正な顔立ちには似つかわしくない荒い口調で、ヴェイルに突っかかる。
「大した振り分けじゃねぇか……あの対人戦の恨みを晴らす時が、こんなに早くくるなんてな……!」
あの日、対人戦でヴェイルと剣を交え、ゼフィリーの魔力の前に膝をついたサイラス。
それ以来、術者としても剣士としても、己の無力さを噛み締めながら、寮の部屋で黙々と鍛錬を重ねていた。
「良かったな……せいぜい頑張れよ」
ヴェイルの気のない返答に、無性に苛立ちを覚えるサイラス。
だがその裏で、ヴェイルは――記憶持ちとしての“使命”に突き動かされていた。
不正にも見えて、律儀な宣言通りのシャッフルで決めたようにも、見えなくはねぇけど……
俺のチームにネリカがいるってことは……ストリクスと比べて危険じゃないと判断して、記憶持ちに戻りかけているこいつを、俺と同じチームに……
心臓が、嫌な音を立てて速くなる。
ヴェイルにとって、そうであってほしくない想像が脳裏を駆け巡る。
考えてみりゃ、そうだ……俺とストリクスを分けたってことは、危険因子を分散して、個別に狩るつもりか?
それに、あの時のグランの呪い……本当に無効化できてたのか? もし、あれが“俺たちを狙わせる洗脳”だったら……
……死ぬかもしれない。
掌が汗で湿り、微かに体が震えた。
その震えをなぞるように、火花がパチッと弾ける。
その時――背中を強く叩かれ我に返った。
「ストリクス……」
鋭い目つきを向かせて、じっと睨みを利かせるストリクス。
すぐに状況を理解したヴェイルは、いつもの陽気な雰囲気を表に出した。
「まさか、ストリクスもレンリーもチーム2に行くなんて、不安しかねぇ……」
皮肉じみた笑いで、何とか平常心を取り戻していく。
再びストリクスの視線を見据えると、ほっと一息を吐いて会話を続けた。
「そんなこと言って、“ゼフィリーだけでも一緒で助かった”とか思ってるでしょ?」
「まぁ確かに、否定は出来ねぇな……」
もしかしたら、これがこの教室で交わす“最後の会話”になるかもしれない。
そんな予感を胸の奥に抱えたまま、マリーナが現れた。
「はい、はーい。皆さん、チーム分けはちゃんと確認できたかしら?」
八人が顔を見合わせて、静かに頷いた。
すると、マリーナは満足げな表情で、カルテットデスゲームのフィールドに、案内する。
「じゃ、行きましょうか。……って言っても、五階の“進化した”コロシアムに向かうだけだけどねっ!」
迫り来る試練、新たな兆し。
全てを乗り越える為に――どれだけ傷を負っても、何度だって立ち上がる。
それが彼等が、今できる最大限の戦い方——
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回から本編に突入です。




