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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
水属性と記憶持ちの賭けバトル編【プロローグ】
76/115

Aqua Hand in Joker: Backup Move(アクア・ハンド・イン・ジョーカー:バックアップ・ムーヴ)〈後編〉

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


【追憶の海底】にて過去の自分の記憶を見て、再び託された使命に向き合ったアラリックとリオライズ。


一方、彼等が不在の学園では、選別阻止の為——

二人の青年が、大きな賭けに出る。


《Death of the Academia》をお楽しみください

「やっぱり、他の奴等は何も気付いてなかったな……」


ヴェイルが低く呟く。

その言葉に、ストリクスが静かに頷いた。


「……ああ。まるで、記憶を失っていた頃の自分を見ているようだった」


カルテットデスゲームの説明が終わり、解散が言い渡された後――ヴェイルは自分の寮室でストリクスとともに、作戦会議を行っていた。


「今分かってんのは、デスゲーム……つまり、選別を本気で実行しようと思っていることと」


ヴェイルの言葉を続けるように、ストリクスが現状を語る。


「チーム分け次第では、望み通りに進まない可能性もある。そして、生徒達を本当に殺し合わせるつもりなのか、それとも……」


ストリクスは、一瞬言葉を詰まらせるがすぐに続ける。


「ソニントやアイレンのように、極秘で消すつもりなのか……だね」


「まぁでも……戦争に“公平”なんてねぇし、助けられるんだったら俺等の得になることは変わらない」


希望はある。

だが、ヴェイルの顔には、ふと険しい影が差していた。


「ただ、違和感を持つ奴が見当たらないとなると……」


アラリックは、自らグラン達の思惑に気付き――

ストリクスは、アーサーの助言により真実に気付いた。


アラリックも、ストリクスの姿を見て違和感を覚え――

リオライズもまた、マリーナ達の言葉を何度も呼び起し、自ら異変に気付き始めていた。


ヴェイルの見たオリエンテーションは、誰も何も気付く気配を感じられなかった。

しかし、ストリクスは一つだけ思い当たる出来事を思い出す。


違和感――あのとき、確かに感じた。

爆炎玉が炸裂した直後、ネリカの視線だけが……まるで、“自分を確かめるように”向けられていた。


最初に我を取り戻したのも、あの子だった。


「いや……有り得るかもしれない」


無意識に呟いた言葉は、ヴェイルにも届いていた。


「いるのか……? 誰か違和感を持ってそうな奴……!」


「憶測でしかない以上、確証はない。けど……君には話しておくよ。 あのオリエンテーションで、僕が“何を見たのか”を」


ネリカから感じた気配……そして視線。

ストリクスはヴェイルの瞳を真っ直ぐ見据えて、言葉を紡ぐ。

あの時、感じた全ての真実を——




ストリクスが、オリエンテーションでの出来事を話していた、同時刻――

もう一人の青年――リノ・ネリカもまた体の異変を感じ始めていた。


気分を落ち着けるため、ネリカは校庭へと足を運び、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「なんでだろ……今までこんなこと一度もなかったのに……やけに胸がざわつくんだ」


そっと胸に手を当て、自分の内側に問いかけるように魔力の流れを探った。


「不思議だな……自分の体の中に“水属性魔力がもう一つある”。僕のと違う……」


同じ属性を二つ持つことは、絶対出来ない。

でもこの魔力は……とても温かい。だけどもう一つは……信じられないほど禍々しい気配を感じる。


でも……こんな魔力、いつの間に手に入れたっけ?


かくして、時計の針は進み――カルテットデスゲームの実戦が始まる。



昼時が近くなり始めた頃、再びⅠ組の教室に招集された八人の生徒達。

しかしグランの姿はなく、薄暗い教室の中に黒板にチョークで大きく書かれたチーム分けが静かに存在感を放っていた。


チーム1

ヴェイル・イグニス ゼフィリー・フィオラ ゼオン・ルーゼ リノ・ネリカ


チーム2

ストリクス・アルヴィオン レンリー・ノア エニアル・シゼロ サイラス・エズル


八人の生徒全員が、文字をなぞるように目を走らせていく。

静寂の中、チョークの白だけがやけに浮き上がって見えた。


その静けさを破ったのは、サイラスだった。

相変わらず、その端正な顔立ちには似つかわしくない荒い口調で、ヴェイルに突っかかる。


「大した振り分けじゃねぇか……あの対人戦の恨みを晴らす時が、こんなに早くくるなんてな……!」


あの日、対人戦でヴェイルと剣を交え、ゼフィリーの魔力の前に膝をついたサイラス。

それ以来、術者としても剣士としても、己の無力さを噛み締めながら、寮の部屋で黙々と鍛錬を重ねていた。


「良かったな……せいぜい頑張れよ」


ヴェイルの気のない返答に、無性に苛立ちを覚えるサイラス。

だがその裏で、ヴェイルは――記憶持ちとしての“使命”に突き動かされていた。


不正にも見えて、律儀な宣言通りのシャッフルで決めたようにも、見えなくはねぇけど……

俺のチームにネリカがいるってことは……ストリクスと比べて危険じゃないと判断して、記憶持ちに戻りかけているこいつを、俺と同じチームに……


心臓が、嫌な音を立てて速くなる。

ヴェイルにとって、そうであってほしくない想像が脳裏を駆け巡る。


考えてみりゃ、そうだ……俺とストリクスを分けたってことは、危険因子を分散して、個別に狩るつもりか? 

それに、あの時のグランの呪い……本当に無効化できてたのか? もし、あれが“俺たちを狙わせる洗脳”だったら……

……死ぬかもしれない。


掌が汗で湿り、微かに体が震えた。

その震えをなぞるように、火花がパチッと弾ける。


その時――背中を強く叩かれ我に返った。


「ストリクス……」


鋭い目つきを向かせて、じっと睨みを利かせるストリクス。

すぐに状況を理解したヴェイルは、いつもの陽気な雰囲気を表に出した。


「まさか、ストリクスもレンリーもチーム2に行くなんて、不安しかねぇ……」


皮肉じみた笑いで、何とか平常心を取り戻していく。

再びストリクスの視線を見据えると、ほっと一息を吐いて会話を続けた。


「そんなこと言って、“ゼフィリーだけでも一緒で助かった”とか思ってるでしょ?」


「まぁ確かに、否定は出来ねぇな……」


もしかしたら、これがこの教室で交わす“最後の会話”になるかもしれない。

そんな予感を胸の奥に抱えたまま、マリーナが現れた。


「はい、はーい。皆さん、チーム分けはちゃんと確認できたかしら?」


八人が顔を見合わせて、静かに頷いた。

すると、マリーナは満足げな表情で、カルテットデスゲームのフィールドに、案内する。


「じゃ、行きましょうか。……って言っても、五階の“進化した”コロシアムに向かうだけだけどねっ!」


迫り来る試練、新たな兆し。

全てを乗り越える為に――どれだけ傷を負っても、何度だって立ち上がる。


それが彼等が、今できる最大限の戦い方——

最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回から本編に突入です。

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