Death Game: After the Results(デスゲーム:アフター・ザ・リザルツ)
十二人の生徒が、命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、街に群がるモンスター達を討伐し授業をクリアして自身の評価を上げていけ!
生き残るのは真の才能がある人間のみ
誰が生きて誰が死ぬのか完全オリジナル作品
《Death of the Academia》をお楽しみください
氷の牙がアラリックの肩を貫き背後の壁へと叩きつけられた。
固定された彼の体は、顔から凍っていき内側の筋肉や骨も、凍結される感覚で満たされた。
左半身が完全に凍る前に術を仕掛けなくては……
その一心で壁へ魔力を注ぐアラリックだが、走るのは魔力ではなく激痛。
凍結の侵食と同調するように、体内を突き刺すような寒気が暴れ回った。
「ふ……ふふっ」
「……何がおかしい」
「いいえ、ここまで追い詰められたのはいつ以来だっただろうと、思い返していただけです」
「お前はもう完全に体が凍結するまで、そう時間は掛からない。俺の勝ちだ」
「貴方の瞳が何かを訴えていたのは分かりました。それでもごめんなさい……今回のシークレットチャンスは私が勝たせてもらいます……!」
直後、壁に魔法陣が展開される。
そしてそこから糸のように細く鋭い《土の刃》が、蛇のようにアズレインへと奔った。
「……チッ、あいつ……!」
咄嗟にアズレインは術を解き、アラリックは力を使い果たしながらも重力に従って大海原へと崩れ落ちる。
沈んだ水面に滲んだのは、僅かに広がる赤き海。
やがて姿を現した彼は、深く呼吸を整えて痛みに耐えながらアズレインの行方を見据えていた。
「逃げても無駄です。今私が放った術は対象を、地の果てまで追いかける追尾の攻撃です。貴方はこの攻撃からどう頑張っても……避ける事は出来ません」
回避手段が無いと分かったアズレインは、アラリックの術を破壊しようと、レイピアを構えて一閃を浴びせた——
しかし既に彼は掌の上で踊らされていた。
「掛かりましたね。”これが狙いでした”」
アラリックの表情に痛みの色は見えず、むしろ破壊される瞬間を待ち望んでいたかのように、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
アズレインが術を破壊しようとした時、糸の様な土の刃は防衛反応を起こし、自爆攻撃を発動した。
白煙が爆風と共に弾け、辺り一帯を覆い尽くす。
煙が晴れた時アズレインは、一度目の攻撃の時とは比にならない程の傷を負い、背を向けて膝をついていた。
「そこまで傷を受けていたら、もうまともには戦えないでしょう……貴方の攻撃手段も中々素晴らしいものでした。
——これで終わりです」
命乞いもせずただ背を向けたままのアズレイン。
その静けさに、アラリックは違和感を覚えながらも、彼の足元へ陣を描いて術を発動させようとした。
その時——
アズレインは素早く振り向きアラリックの左肩……あの致命傷を負った一点に寸分の狂いもなく突き立てた。
「——ッ!」
アラリックは即座に反応。
左肩を護るように、今まで抜かなかったレイピアで防御に入った。
しかし、アズレインの一撃の重さに、アラリックは再び外壁へと叩きつけられた。
「……終わったか」
だが次の瞬間——
煙の向こうに揺れる影がひとつ見えて、それは確かにアラリックだった。
左肩を庇いながらもレイピアを構え膝をつくことすらなく、血を垂らした額に微かな笑みを浮かべて。
「私にレイピアを抜かせたのは貴方が初めてです……トライアウトの時も小型ナイフ程度の物で、ここまで行くことは、ありませんでしたから」
吹っ飛んだ衝撃でついた汚れを、手で払いながら最後の攻撃に魔力を込めてアラリックは、対象であるアズレインを真っ直ぐ見定めた——
「貴方はどうしても、この試練で勝たなくちゃ行けない理由があったんだと思います。私も貴方の力になりますから……もうこれで幕を降ろしましょう」
レイピアを掲げて幾千の土の刃がアズレインを貫いた。
負けを悟ったアズレインは、どこが寂しげな瞳でその結末を静かに受け入れた。
そして、攻撃を終えたアラリックは静かに大海原が効力を無くして水位が下がり、アズレインが倒れた姿を見て呟いた——
「貴方の気持ちは痛い程分かる……気がします。昔自分も似たような経験を、した事があると思うから」
曖昧になっている自分の記憶から必死に絞り出した最後の言葉……
振り返ると、グランとフラーナが立っていた。
「ご苦労だった……アラリック。約束通り、学園に帰ったら、水属性の譲渡を行う」
「そうですか……ところで他の生徒は終わったのですか?」
「あぁ、君達が激闘している間に全生徒討伐クリアだ」
アラリックの視線の先が、アズレインから合流した他の生徒達へと映る。
「そうだ、一応確認だが、アズレイン殺しては、ないな?」
「勿論です。それに強力な術を攻撃手段として使いましたが、死に至る程の威力ではないので、回復すればすぐに治るでしょう……」
「そうか……その言葉が聞けて良かった。これはミッションクリアの報酬として、受け取ると良い」
そう言うと、アラリックの左肩にそっと触れてそのまま他の傷もある程度治してくれた。
「回復は感謝致します。でも今回の一件で決めた事があります……私は必ず貴方達二人を捻り潰す。貴様とフラーナ・セリカ貴様もだ……」
宣戦布告を受けた二人、グランは笑みを浮かべ、フラーナはアラリックを目の敵の様な視線を向けていた。
かくして第一授業は幕を閉じアズローラの避難住民を解放してI組生徒は学園へと戻った——
【三日後】
「では一時間後に結果発表を行う。それまで体を休めて時間厳守で動くように」
「集計中は外出は一切禁じますので、指示があるまで自分の寮部屋で待機していて下さい」
軽く会釈をして二人は去っていった。
その背中を見ながら説明を受けた六人も、各自部屋へ戻っていく。
一時間という長いようで、短い時間を過ごした。
生徒の中には成績上位を確信する者や、不安に思う者がいて案内が掛かるまで落ち着かない様子だった——
一時間後
”ランキングの集計が終わったので、教室まで集合をお願いします”
招集がかかり、一斉に皆部屋から出てきたが、教室に辿り着くまで、誰かと目を合わせることは無かった。
「それではこれより第一授業のランキングを発表する。一旦全員後ろに行け——」
言われた通り六人は後ろのに並んで整列した。教室の雰囲気は緊張と静寂が入り浸っていた。
「それではまず1位の発表からです……」
「…言わずとも、予想は出来ていると思うが第一授業1位——アラリック・オーレル。前へ」
周りも納得した表情で彼を見送り、悔しいと思いながら次の授業で逆転を狙う眼差しを向ける者もいた。
「お前はシークレットチャンスで、アズレインとの対決で勝利している。これはあいつから受け取った水属性の力の源の結晶だ」
手渡されたのはサファイヤに輝く四角い石。じっと見つめると結晶は砕け散り、アラリックの中へ能力が入っていった。
「感想は?」
「特に何も……次の授業までにちゃんと扱える様にして来ようと思います——」
グランは鼻でふっと笑うと、すぐに次の順位の発表へ移った。
「では続いて第一授業二位の発表です」
「第2位は——レンリー・ノア」
「えっ僕……?本当に」
「本当だ。前へ」
本当に意識が誰かに乗っ取られていたかと思う程、レンリーは自分が何を成し遂げたのか理解しているようで、分かっていなかった。
トライアウトの時も似た症状を出していたので、気付かぬ間に力を付けていた化け物かもしれない……
「もっと敵を早く倒せる分析力と技術を磨けば1位の座も夢ではないだろう……」
「は、はい頑張ります!」
「では最後、上位成績ラスト1名を発表します——」
「第一授業3位——ゼフィリー・フィオラ。前へ」
「どうして三位に?」
「自分に提示された課題をしっかりと理解し、それと向き合おうとする姿勢。もっと実力と火属性に対しての自分を磨けば、新しい扉が開かれるだろう。次の授業も期待している」
上位三名に選ばれなかったヴェイル、ストリクス、ソニントは、苦虫を噛み潰したような険しい表情をしていた。
そこで救いなのか分からない重苦しい空気の中、グランが下位三名の内、誰か一人の脱落者について、説明を始めた。
「そして選ばれなかった下位3名のお前達のランキングを発表する。4位ヴェイル、5位、ストリクス6位の最下位はソニントとなる……
今からお前達にやってもらう事は最弱王決定戦だ」
「明日からの二日間で貴方達には一発逆転を狙う為の特別試験の同意をお願いします。もし一人でも同意しなかった場合は今のランキングでの最下位が強制脱落となります」
「簡単に言えばソニントが同意すれば良いって事だな。ヴェイルとストリクスも、次の授業の事前指導を受けられるならしたいだろ」
「まぁ、貰える物は貰っておきたいとは思います」
「屈辱だけど自分の実力が無かった事は反省だ。俺も特別試験を受けたい!」
ストリクスとヴェイルが強く同意して、後はソニントだけとなった。しかし意外すぎる返答に一同は騒然とした
「じゃあ俺が脱落で良いよ。どうせ一発逆転なんて出来っこないし、時間の無駄だから」
ソニントの一言で教室が一気に凍りついた。
確かに彼の性格上やる気系じゃ無いのは分かってはいたが、それはもう末期の状態にも近しい物になっていた。
「それは本気か?ソニント」
「だったら何? どうせ俺が落ちるのは目に見えてるし二人だけで高みを目指しなよ」
「まぁ良い……猶予は二日あるんだ。よく考えて気持ちが変われば同意すると良い」
「では一度解散とします。次は夕食の時間で食堂に集合する様にお願いします——」
別に頑張らなくたってこうなる結末が本望なんだから、気にすんなよ。変な奴ら……
二十一時{夕食の時間}
「さっ難しい事は一旦置いといて、まずは腹を満たさないとな」
グランは明らかに裏がある笑みを浮かべて、何も無かったかのように、振る舞う姿に軽蔑する目を向ける者もいた。
その違和感に耐えかねたヴェイルが、ソニントが口に運ぼうとしたスープに向かって用意された小型ナイフに火を纏わせて投げた。
「ソニント!そのスープは毒入りだ……!食べれば死ぬぞ」
弾かれたスプーンを見つめて、恐怖とも取れる驚愕した表情でソニントが言い返した。
「知ってたよ! 誰も指摘しないからこのまま死ねると思ったのに……!」
「お前……自ら」
次の瞬間——
後ろからフォークが飛んできて、気付いた時には回避不可能だったが、アラリックが横から投げた小型ナイフの妨害により、間一髪でヴェイルは傷を負うこと無く、ガチャンと音を立ててテーブルに落ちた
「良い加減にして貰えます? 食事くらい静かに出来ないのですか。今の僕の行動は警告を含めた物だと思ってください」
アラリックの冷徹な声は、一瞬でその場を静めた。
しかし突然テーブルを叩き、グランは今までの明るい雰囲気とは全く感じない怒りの声が響いた。
「頭が高いぞ……アラリック。少しは慎め」
「言っている意味が分かりません。それにソニントの食事に毒を仕掛けたのは貴方で間違い無いでしょう」
アラリックの無意識な煽りがプライドを傷付けたのか、グラスに水を一杯入れて、それをアラリックの頭の上から降りかけた。
「調子に乗るなよ……? 三下。毒を入れたのもソニントにラストチャンスをやる覚悟があるかどうかを試しただけだ」
「じゃあ入れたのは認めるんですね。それに大の大人が、こんな恥晒し、情け無いと思うのは僕だけでしょうか」
「こいつも欠陥品か……まぁ良い。今日は全員連帯責任として夕食は無しにする」
声色が黒く濁った瞬間、グランに言い返せる者などは居なかった。
周りの生徒は完全に”アラリックがやらかした”と思う者とヴェイルとソニントに対する思考で別れていた。
そしてその場で全員各寮部屋へ強制送還された——
「これで取り敢えず、グランの思惑は掴んだ。次の授業も必ず生き残る……」
寮部屋へ帰されたアラリックは静かにそう呟いた。
一方ソニントは怒りのあまり外の空気を吸おうと廊下へ出ると窓から夜空を見上げているヴェイルと鉢合わせた。
ソニントは怒りをぶつけて問いただす。
「どうしてあの時助けた!俺が居なくなればお前は脱落しなくて済むしストリクスだって……!」
「お前の言葉がそう言っても、お前の目はそれを否定しているから」
「は……何言ってんだよ…」
「そのままだよ。お前の中にもまだ火は残ってる……たとえ脱落が運命でも…最後だけは、せめて自分らしく終わりたいって思ってるはずだ……!」
「じゃあ、俺が同意して特別試験を一緒に受けろと?」
「それはお前に任せる。今日は悪かったな」
通り過ぎていくヴェイルの背中を見据えてソニントの心は揺らぎ始めるのだった——
次回はヴェイル、ストリクスの第一授業の回想とソニントの過去と第一授業回想をメインに描いていきます