表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【アラリック編】
64/115

Memory and Time: Fragments of Emotion(メモリー・アンド・タイム:フラグメンツ・オブ・エモーション)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。


リオライズが母親との幸せな日常、復讐に人生を捧げた六年間。

そして目指すべき新たな目標を見つけた——


そして明かされるアラリックの過去。

感情を表に出すことが少ない、青年の人生とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

僕は一度も、リオライズ達を仲間だと思ったことなんてない。

家族ってそんなに大切なものかどうかも、正直分からない。


物心ついた時から、ずっと独りだった。

そんな僕に、“仲間”とか”家族”なんて感情――分かるはずがない。


目を閉じると、ふわりと足裏が何かに触れた感触があった。

リオライズと同様、視界を開いた瞬間、苔むした神殿と、その奥にぽっかりと白く開いた扉が浮かび上がる。



不気味な静寂が神殿を包む。

それでも彼は、迷わずもう一つの扉に足を踏み入れた。


誰もいない。ここで記憶が本当に……


ドックン……


突如、心臓が強く脈を打った。

続けて頭痛がアラリックを襲い、白い霧に覆われるように気を失った。



【追憶の海底:約束の丘にて】


不思議と情景が映り変わると、第一授業後に赴いた、自分の故郷の景色が広がっていた。


街の背景は前回見た時より、建っている家も、店も少なかった。

何よりの証拠として、時計塔が存在していない。

やはり、女将の言っていた事件は数年前というところか……


故郷を眺めていると、白いレンガで作られた青色の屋根の家から一人の少年が、大きな木の籠に一日分の食材を持って、出てきたのだ。


小さな体で、町を出て右に曲がった少年は――アラリックだった。

流すような立ち上げられた前髪に、右目は少しだけ隠れているのが印象的で、胸元を緩く編み上げた長袖のシャツの袖を捲って、駆けて行くのを“今の”アラリックは目で追っていた。


そして再び風景が映り変わり、目にしたのは海の広がる砂浜に、大きな丘の上に“今の“アラリックは立っていた。


丘の端でぽつんと生えている緑の大木。

その反対側には、木で作られた秘密基地のような家が建っていた。


ここは……前に見た丘だ。


アラリックが見に行った時は、大木は枯れ木で黒くなり、それと向かいうように血痕が残る地面だった。


秘密基地の家を覗くと、右側の部屋から何かを切る音が聞こえる。

そこには一人、踏み台に立って籠から取り出した野菜を無心で切っていた。


人参キャロットを小さなナイフで、素早く薄切りにしていく。


野菜が切られる「ザクッ」という音を鳴らしながら、ひたすらナイフを動かしていると、半分切り終えた所で抑える手が滑り、誤って左手の中指を傷つけてしまった。


第二関節から血が流れると、四歳とは思えないほどの冷静さで対処していく。

声なんて一つも上げず、井戸水で傷口に当てると持っていた手巾で優しく握り、絆創膏を巻き付けた。


その瞬間、アラリックは初めて“あの頃の自分”の顔を目にした。

目に映った少年の瞳に、光はない。ただ静かに、孤独と共に生きているだけの姿だった。


そうだ……この時からずっと一人が当たり前で、孤独が当然な日常で、弟が産まれたのも、きっとこの時期だ。


そして、自然と弟の名前が蘇る――


僕の弟{エルリック・オーレル}は、産まれてすぐに心臓に重い病を抱えていると、医者に告げられた。

その事実に、母は泣き崩れ、父も……それきり僕の前から姿を消した。


弱さを抱えた者は、時に、強き者が積み上げたすべてを平然と奪っていく。

感情も。注がれるはずだった愛情も。必死に紡いだ日常も――


それでも、弟を憎んだことはなかった。嫉妬さえ……どこか遠い感情に思えた。

何故なら……この世界に“平等”という言葉があっても形になるのは、早々実現できないからだ。


アラリックが、昔の記憶を断片的に思い出している時、気付けば情景が映り変わっていた。


――その瞬間、故郷から学園への帰路についた時に感じた、殺気の気配に“今の”アラリックは、即座に気配の方へ顔を向ける。


そこに立っていたのは――黒いハットを目深にかぶり、漆黒のコートに白い杖を静かに突いた、背の高い影だった。


“過去の”アラリックも木剣を握って素振りの練習をしていた時、多少気付くのに遅れながらも気配を察知したようだった。


『そう……貴方が、僕の人生を変えてくれたんですね』


そして今——

僕は再び、あの日の続きを知ろうとしている。


明かされる謎の人物と、幼少時代にアラリックの物語が始まる――

次回から{アラリック・オーレル過去編}が本編を突入します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ