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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【リオライズ編】
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Memory and Time: Epilogue(メモリー・アンド・タイム:エピローグ)リオライズ・ニイタ編〈前編〉

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。

三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。

彼等が向き合うべき、真実とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

『この爆発が起きた後、目覚めたのは二年後の十六歳の時だ。奇跡的に生き延びたのか、本当に死んで生き返ったのかは……分からないけど、今存在するリオライズは、この人生を辿って生まれたんだ』


白い霧の中で、十四歳最後の光景を映像として見送った。

ティオルが起こした爆発後のことも、“別世界線の”リオライズは曖昧ながらも教えてくれたのだ。


しかし“今の”リオライズは、あまりの自分の醜さで、その場に泣き崩れた。


息が詰まっているように、肩が震える。

よく耳を澄ますと、“今の“リオライズは惨めさに笑さえこぼれた。


『ハ……ハハ……ハハハハハハッ……!』


悲しみ、怒り、醜さ、惨めさ。それら全ての感情を出すように、泣きながら笑う彼は、自分を罵倒するようにぶつける。


『ほんっとに……どうしようもないクズだ……俺は……』


そうだ……俺は夢を見ていた。

全てを忘れていた俺に記憶を与えたのは、ベルティリナおばさん。プレゼントで貰った籠手の裏に“リオライズ”と名前が彫られていた。


俺は、嬉しかった。でも、実際には使命を忘れて無駄な人生に時間を使ってしまっていたんだ……


『考えてみりゃ、そうっすよ……親の仇を取るなんて言って、母親の友人も、自分の友人も容易く捨てられる無情な人間だ……!』


思い出すのは、母親ラフィーリスと別れた後のことだった。

負傷したベルティリナを置き去りにし、シルヴェレンの意思を無視して、一人で旅立ったあの瞬間。


『宣戦布告なんかで、イキがって蓋を開ければあっさり、敗北するような弱者で……』


最後に、ティオルの爆発に飲まれる瞬間が、再び脳裏に過る。


『自分が困ったら、相手に縋るように泣きついて……! 天敵が現れたら獣みたいに、我を忘れて噛みつく化け物だ!』


第二授業で、対人戦が行われる前。

空白の入学前の記憶を取り戻したリオライズは、Ⅰ組で同じ境遇の人間に縋ったのを覚えている。


ティオルが六年越しに、自分の前に姿を現した時。

怒りと復讐の感情以外、何も生まれなかったリオライズは、知性のない動物のように、凶暴と化していた。


『結局最後は、自分を忘れて目的を見失い、十年間も無駄な日常を過ごした。……だれか、俺を……解放してください……』


最後は“別世界線の”リオライズに向かって、土下座するように頼み込む。

彼の言葉に、感情に嘘は無い。心の底から人生を終わらせてほしいと願う者の声だった。


『もう……お母様が可哀そうだ……命懸けで産んだ息子が、命懸けで生かした息子が……こんなクズに成り下がって………俺なんて、俺なんて、生まれてこなきゃ、ちゃんとした幸せがあったろうに………』


ひたすら地面に平伏して、涙を流し続ける。

自分が善意でやってきたことが、人生において何の役にも立っていなかったことを呪い、「誰か俺を殺してくれ」と願い続けた。


絶望の暗闇に閉ざされたリオライズ。

その瞬間――昔ずっと聞いていた優しい光のような声が舞い降りた。



『リオライズ、下を向いてはなりません』


まるで、希望が差し込むようにリオライズを包み込み、彼は目の前の光景に目を見開く。


『お………母様なの……?』


銀髪の長い髪に、淡い緑色のマーメイドドレス。

優しい笑顔と、魅了されるほど輝く瞳。

間違えるはずも無い。彼が見たのは、あの時一番かっこよかったラフィーリス。


――実の母親が目の前に立っていたのだ。


『あれ……でも、もう一人の俺は何処へ?』


自分が懇願した時、まだ“別世界線の”リオライズがいたはずなのに、今は見渡しても何処にもいなかった。


『ここは、死者との記憶の繋がりが必要不可欠な場所。私は死んだ後に、追憶の海底へ導かれたのです』


そして彼女は、ようやく再会できた息子をしっかりと目に焼き付ける。


『じゃあ、お母様は本物? 別世界線の俺は、お母様だったの……?』


『えぇ、騙すような形になってごめんなさい。それにしても本当に大きくなりましたね』


ラフィーリスの腕が伸びる。

頭を撫でられる感触は、当時と何一つ変わらない温もりが広がった。


『あの時は、まだあんなに小さかったのに。立派になりましたね』


立派……? 俺が立派だと……? 違う、俺は貴方に叱ってほしいんです……


母親と再会できたことは、彼も心の底から喜んでいた。

それでも、褒められることなんて一つも成し遂げていない自分に、もっと怒ってほしかった。と感じていた。


『違うんです、お母様。俺は過ちしか起こしていません……』


撫でられる手を退けるようにして、リオライズは自分の気持ちを真っすぐに伝える。


『その証拠に、俺はティオルを殺せなかった。自分が強いと過信して、無様な姿を晒しました。大事な物を捨てても、何も得られなかった……そんな俺に“立派”なんて言葉はお門違いにも程がある』


愛する我が子の言葉を、真摯に受け止める。

苦しみ、悲しみ、辛い日々を送ってきたのは、声だけで分かることだった。


その上で、ラフィーリスはリオライズに一つの問いを投げかけた。


『このまま生きるとしたら、貴方は私の仇であるティオル・マキリスの復讐を始めるつもり……ですか?』


『お母様と、ここで一緒に逝けるなら喜んで。でも、お母様が俺に生きて欲しいと願うなら、復讐の後押しとして受け取ります』


リオライズは立ち上がって、白く包まれた部屋の出口へ向かった。

遠のく後ろ姿に、ラフィーリスは咄嗟に叫ぶ。


『待ちなさい、リオライズ! 私の最後の忠告を聞いてから決めなさい』


『何ですか? 俺と一緒に逝ってくれるの?』


《今ここで死ぬか、復讐の為に生きるか》しか考えていない、リオライズが振り返った。


『違います。だけど再び復讐の道に戻れば、今仲間として戦っているⅠ組の三銃士の皆さんと、利害が絶え争いの道に進むことになるのです……!』


確かにそうかもしれない……

あの三人は、世界の謎を解いて、選別が間違いだと証明する為に戦っている。


“あの大人達も、呪いにかかっているという一部の望みに賭けて、救済の道を探しているのか……?”


段々と、アラリック達の目的が見えてきたリオライズ。

それでも、母親を殺された痛みや、のうのうと生きながら、偽善を振りまく教師達をどうしても許すことが出来なかった。


『リオライズ。貴方の気持ちはよく分かります。だけどどうか、彼等と協力して、ティオル達を助けてあげてほしいのです』


タスケル? 冗談じゃない……


『貴方は、ティオルに殺されました。その罪を許すおつもりですか?』


母親に初めて向けた、鋭く睨むような目つき。

ラフィーリスは、リオライズを納得させるように言葉を紡ぐ。


『許しません。あの人が犯した罪は、二度と許されることは無いでしょう。それでも、被害者の一人だとすれば、貴方と同じ立場の人間になるのです』


一瞬だけ、リオライズの瞳が揺らいだ。

ドアノブにかけていた手を解いて、真っすぐにラフィーリスの顔を見据える。


『必ず、必ず懺悔させます。“僕がリオライズ・ニイタの母親を殺しました”と……それ以外の罪も全部吐き出させて』


少し安堵した表情になるラフィーリス。

そのまま、決意の言葉を聞き届ける。


『それに、アラリックさん達とは敵になりたくない。それだけじゃなくて、お母様に寂しい顔をさせるのが申し訳なくて、そっちの方がずっと胸が痛いと思ったから……』


小さな涙粒が出てきたラフィーリスは、最後に息子の背中を押すエールを送る。


『リオは言いましたよね? “こんな駄目な息子じゃなかったら幸せだったんじゃないか”と……』


自暴自棄になったリオライズが、放った言葉。

あの時の声に答えるように、ラフィーリスは一つ一つ紐を解いていく。


『私は貴方を産んで良かったと思っています。後悔なんてものはありません。あの時、逃がした選択も胸を張って自慢できます』


『――っ』


『何より十八年間生きてくれて、またこうして会えたことだけでも、私は嬉しい。成長した息子の姿を再び見れるのは、母親にとっては一番幸せなことなんです』


『……本当に?』


優しく微笑んで、頷くと愛情のこもった最高の言葉を残してくれる。


『私は、貴方の母親で良かった。貴方も、そうじゃないのですか?』


“母親で良かった“ その言葉は、きっと十年前の別れで言えなかった言葉だ。

リオライズは、その瞬間大粒の涙が頬を伝った。


『俺も、俺も……お母様の息子で良かったと思ってます。こんなに優しいお母様なら……生まれ変わってもお母様の子供に生まれます!』


飛び出しそうになった扉から離れて、小さい時みたいにラフィーリスに思い切り抱きついた。


『ごめんなさい……復讐なんて目的にして勝手に傷ついて、お母様を悲しませた。だけど今度は、ちゃんと約束を最後まで守ります……!』


頭を撫でて、背中を優しく叩いて十年間の苦悩と、これからの人生を応援するように抱きしめる。

リオライズは、八年間の呪縛から解放されるように、抱きしめる腕の力が徐々に強くなっていった。


『いつか、全部終わったらまた話を聞かせに来てください。ずっとここで見守っていますから――』


そして白い霧が強くなり、気づけば海の中にいて、追憶の海底の黒き扉は、姿を消した。


そしてリオライズが、アラリックに向ける新たな決意——

最後まで読んで頂きありがとうございました

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