Memory and Time:Darkness of the Trigger(メモリー・アンド・タイム:ダークネス・オブ・ザ・トリガー)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。
三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。
彼等が向き合うべき、真実とは——
《Death of the Academia》をお楽しみください
こうして、リオライズとシルヴェレンは町の外れで、コスモスが沢山咲いている丘へ行き、ピンクやオレンジ、白や青色といった色とりどりの、花冠を作った。
出掛ける前に持ってきた小瓶に、透明に澄んだ川の水をそっと注ぎ、そこに砂粒と一枚の花びらを加えると、色鮮やかな“小さな海”が完成した。
『リオライズは、白ばっかりじゃねぇですか……好きな色なんですか?』
シルヴェレンの小瓶は、赤や黄色、そして白色の三色を入れて、リオライズのよりも綺麗だった。
『緑色が好き。でも花だと、なんか菊のイメージが強くて。だから今は、お母さまと同じ白が一番良い気がするんだ』
小瓶を見せつけるように、自分の意思を貫き通す、透き通った笑顔は八歳とは思えないほど、美しかった。
『……じゃあ。緑色の物はアクセサリーとか洋服でサプライズってのは、どうっすか?』
武術の特訓中には、一切見せなかった積極性にリオライズは、口をきょとんと開けた。
でも、心を開いたかのように、一緒に楽しんでくれているシルヴェレンの計らいが嬉しく、自然と口角が上がった。
『賛成。隣町でもゼリアトーレは、目視できると思うし、早速ストリートにあるショップを見に行こう』
かくして、二人は丘を降りて、出かける前に貰った母からのお小遣いを片手に、隣町へサプライズプレゼントを選ぶのだった。
ゼリアトーレの町を通り過ぎた辺りで、突然シルヴェレンが声を上げる。
『すみません。少し家に忘れ物をしてきちゃったみたいなんで、取ってきても良いっすか?』
『良いけど、一緒に行こうか?』
『ありがとうございます。すぐ戻るので、先行っててください。その内追いつくので』
一人……少し不安はあった。でもシルヴェレンの家は本当に町の上層に入ってすぐだったのは、知っていたし気に留めることなく、リオライズは承諾した。
『分かった。まぁゆっくり歩いてるよ』
そうして、手を振って町に入るのを見届けると、隣町へ先に一歩を踏み出した。
草原が広がり、気持ちの良い風が吹き抜ける。それと同時に揺れる草木も美しかった。
草原の中に伸びる一本の道。
その中央に、かすかに茶色い一本線が描かれていた。
まるで誰かが長い筆でなぞったかのように、どこまでも真っ直ぐに続いていた。
少年心をくすぐられたリオライズは、周りに誰もいないことと、シルヴェレンが町から出てきてないのを確認すると、プレゼントの入ったラタンの籠をしっかり握って、茶色いラインをロープのように伝っていく。
【追憶の海底にて】
『ここだね。僕の人生最大の分岐点は』
『ここで、黒装束の男が来るんすね。それに茶色の線は、インクじゃなくて“血痕”だったことも分かりました』
【過去の情景、一人での一本道】
大分、感覚を掴んできたのか、線を辿るスピードと安定感が増していった。
しかし、無心で周りを見ていなかったリオライズは、誰かとぶつかってしまった。
そう、“今と別世界線の”リオライズが言っていた《黒装束の男》だった。
ぶつかった衝撃で、尻もちをついてしまったリオライズ。
すぐさま起き上がって、詫びを入れる。
『す、すみません……! 大丈……』
相手の様子を伺うために見上げたその瞬間、まるで突風が心臓を貫いたような、冷たく禍々しい空気がリオライズの体をすり抜けていった。
その一瞬の気配に、押しつぶされそうになる。
ラフィーリスからも、黒装束をまとった人は危ないと、ずっと言い聞かされていた。
鼓動はずっと早く動き、呼吸もまともに出来なくなっていった。
母親のプレゼントに用意した籠を奪われ、反対の手がリオライズに伸びる。
死を覚悟した瞬間、予想外な対応に目を見開いた――
『君も大丈夫? ごめんね、立てそうかい?』
意外にも柔らかく、澄んだ声だった。
差し伸べられた手に触れた瞬間、ふっと体が引き上げられ、リオライズは立ち上がった。
完全に善良な良い人の行動。それでも恐怖は消えていなかった。
『あの……ありがとう、ございます。周りをちゃんと見てなくて……すみませんでした』
目を合わせられない恐怖に包まれて、無感情のまま頭を下げると、再び柔らかい声で黒装束の男は、話始める。
『良いよ。こっちも何とも無かったし。ところで、この荷物は君に返すね』
下げた頭が上がらないまま、左手を動かされるとラタンの籠の持ち手へ誘導してくれた。
転びそうになった瞬間、手放してしまったラタンの籠を落とさず、受けてくれたのだ。
ようやく頭を上げても、顔が見れない。声にならない心の叫びで、必死にシルヴェレンに助けを求めると、呼応するかのように追いついてきた。
『リオライズ~ お待たせしました』
町から出てきて、数十メートルの距離を走ったシルヴェレンは、リオライズの元へ到着すると、顔を覗き込んだ瞬間、状況を理解した。
『この子のお友達?』
『は、はい。ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません』
シルヴェレンも、リオライズと似た反応を黒装束の男に見せていた。
それでも、表情や態度は変えず、平静を装った。
『気にしてないよ。君達はこれから隣町へ行くのかな?』
『そ、そうですけど……』
黒装束の男は、二人の身長と同じくらいまで屈んで、彼等の顔を観察した後、満足したように、彼等を見送る言葉を並べた。
『気をつけてね。くれぐれも事故がないように』
目線だけ上を向かせると、笑っている口角だけが視界に映った。
シルヴェレンは、それ以上言葉を交わさず、そそくさと彼の横を通り過ぎて、隣町へ足早に向かった。
【追憶の海底にて】
『この後すぐだった。隣町と彼等の正体に絶望したのは……』
“今の”リオライズは、過去に太陽が元気に姿を出して、青空が満開で最高の旅日和だった。
しかし――
隣町の入り口を通った瞬間、雨雲で空が灰色に変わり、一気に強い雨が二人を――“無残に転がる隣町の人々の死体”を打ちつけた。
ゆっくりと、映る過去の映像に目を向ける。
【隣町の到着にて】
雨音が静寂の闇に、響き渡る。
血の海となり、家や店も窓ガラスが割れて、荒れ果てていた。
子供を守るように、庇って死んだ親の死体。
半壊状態の家を調べれば、逃げ遅れたように階段に寄りかかって死んでいる、子供もいた。
リオライズとシルヴェレンは、激しい動揺に体が動かなかった。
それでも、手汗を滲ませながら、離れないように強く握っている。
『か、帰ろう……お母さまの所へ……』
リオライズは、状況を一切理解することは出来なかったが、本能のままに“帰る”という選択肢を見出した。
シルヴェレンの言葉を聞く前に、繋がれた左手を引っ張ってゼリアトーレに向かおうとした。
その瞬間――
黒い火柱が、大地を裂くように爆ぜた。
轟音が耳を焼き、爆風が空気を引き裂き、彼らの世界を一気に変えた。
彼等は確信する……
奴に。黒装束の男に自分達の家を、家族を、思い出を“燃やされた”のだと……
もう、二人の瞳に光は宿らない。
膝から崩れ落ちるシルヴェレン。
そしてリオライズは、今まで出したことのない大きな声で叫んだ。
『おっ、お母さん――――!』
何度も、何度も叫びながら、愛する母親を呼びながら、泣きながらも、必死に走るシルヴェレンを引っ張って町まで、全力で駆け上がる。
『お母さん! お母さん! お母さん!』
そして、辿り着く。
自分の家の扉を開けた瞬間、映る物とは――
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