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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【リオライズ編】
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Memory and Time: Birthday Gift(メモリー・アンド・タイム:バースデー・ギフト)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。

三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。

彼等が向き合うべき、真実とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

情景が映り変わり、彼らが目にしたのは、ゼリアトーレ城下町の上層だった。

いわゆる“勝ち組”の権力者達が住まう、下層とは比べ物にならないほど、眩いほどの美しさを誇る場所。


白亜の柱や石畳みが太陽の光を受けて眩しく輝く。

両脇には色鮮やかな花壇の甘い匂いが鼻をくすぐる。


上層のお店は、宝石細工のように煌びやかで、生き生きとした商人が営んでいた。

通りを歩く人々は、キラキラしたアクセサリーを沢山つけて豪華なドレスやスーツを身に纏い、幸せそうな空間で包まれていた。


『この過去の日付が何日か、君は覚えてる?』


リオライズが、上層に足を踏み入れる機会は指で数えられるくらいの回数しか覚えていなかった。

そして”別世界線の”リオライズが、聞くほどの一大イベントから、予想される物は——


『誕生日……ですかね』


『当たり。六月二十五日は僕の誕生日。この日は、お母様が働いているケーキ屋で好きなケーキを選ばせてくれた日なんだよ』



ケーキ屋の名前は【ガトー・デ・リーヴ】

チョコレート色の屋根の下、ショートケーキを模した看板にチョコペンのような筆致で描かれた店名がぶら下がっている。

扉はホイップクリームのように真っ白で、枠はふんわりしたスポンジを思わせる黄色。一目で“お菓子の国”と分かるような、夢のような外観だった。


リオライズとラフィーリスが、さっそく店内へ入ると、ショーケースに並べられたケーキが沢山。


ショートケーキの上に乗っている苺はルビーみたいに輝いて見えて、柔らかそうで触れば、倒れちゃうくらい弾力がありそうなクリームが魅力的だった。

チョコレートケーキに降られている、ベーキングパウダーは雪みたいに美しくて美味しそう。


ケーキだけじゃなくて、桃を中央に丸ごと乗せて、周りはカットしたオレンジや、マンゴーなどで色鮮やかなタルトもあった。


『いらっしゃい!』


店内に入って、興奮しているリオライズに、一人のふくよかな女性が声を掛けた。


『ベルティリナおばさま。今日は息子の誕生日の為に、仕事を変わって下さってありがとうございます』


頭を下げて、感謝を伝えると、再びリオライズの髪を撫でるように触れてくれた。


『ベルティリナおばさまって何?』


リオライズの発言で、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になるラフィーリス。

高笑いをして愛想よくベルティリナは、ショーケースの上から覗き込むように肘をついて挨拶をした。


『初めまして、リオライズ君。あたしは、ここでお母さんと一緒に働いてる店長だよ』


苺のように赤いお団子ヘアに、白い三角巾。マスカットのような水玉模様のエプロンを着けていた。


『店長が、ベルティリナおばさま?』


『そう。ところで、今日は誕生日なんだってね。何歳になるんだい?』


『六歳! 僕は今日で六年目の人生をスタートします!』


『おぉ……! 随分とかっこいい言い方じゃないか! おばさんは、そういうの好きだなぁ……』


下層の幸せや楽しさとは違う、上層ならではの幸せと楽しさが舞い込んでくる。そんな普通では味わえない感情を握りしめるように噛みしめた。


そして、ベルティリナが、薄い水色の箱にメレンゲのような白いリボンで結ばれた包みを取り出した。


『大した物じゃないかもしれないけど、おばさんからの誕生日プレゼントだ。お誕生日おめでとう……これからも、お母さんを頑張らせすぎちゃ駄目だぞ』


母親以外の人から、プレゼントを貰えたことに驚いているのか、目を見開いて瞳を輝かせたまま、静かに受け取る。


そして、数分後。時差が生じたかのようにリオライズが、遅れて喜びを露わにした。


『すっげー! お母さま、お母さま、初めてお母さま以外の人から誕生日プレゼントを貰ったよ! 早速開けていい?』


ラフィーリスが、ベルティリナの顔を確かめるように目を合わせると、ふっと口角を上げて「開けていいよ」と言ってくれた。


白いリボンを解き、水色の包みを慎重に丁寧に剥がして箱を開けると、中からはかっこいいグローブのような籠手が入っていた。

両手の先端は、手の甲サイズの小さな牙が覗いていた。


『かっこいい……』


『着けてごらん』


ベルティリナが、促すように籠手を身に着けて、リオライズがラフィーリスに見せつけるように、ドヤ顔で回答を待った。


『どう? 似合ってる?』


『えぇ。とっても似合っているわ。でも、本当にこんな豪華な物よろしいのですか?』


ベルティリナに、確認するようにもう一度聞くと、再び柔らかい笑みを浮かべて答えた。


『良いんだよ。あんたには毎日頑張って貰ってるし、たまにはお礼をさせておくれ』


これ以上遠慮するのも、申し訳ないと思ったラフィーリスは、そのままプレゼントを受け取ることにした。


『それじゃあ、リオライズ。食べたいケーキは決まりましたか?』


「待ってました」と言わんばかりに、真っ先に一つのホールケーキを指差した。


『これ! 毎年、この形はお母さまの手作りケーキ!』


周りのスポンジが白いホイップクリームと、青緑のホイップクリームで、波線のように縞模様を描き、上には双方のクリームがハートの形を成して立っているのが特徴だった。


『やっぱり子供は、いろんな世界を無意識に観察してるもんだねぇ……』


ベルティリナが、感極まって呟いた。


『ふふっ……今年はメロンとマスカットのケーキにしたんだけど、これにしてくれるの?』


『うん。ベルティリナおばさん、このホールケーキ一つください』


『あいよ!』



一大イベント。それはリオライズの誕生日だった。

上層のケーキ屋で親子揃って、幸せそうに選ぶ姿。

しかし、“今の”リオライズと“別世界線の”リオライズは、笑顔になるどころか、「戻りたい」と願うように遠い目をしていた。


その結末に辿り着く過程が思い出せなくとも、幸せな日常は自然と心を抉るような痛みを与える。

それでも過去とひたすら向き合う“今の”リオライズは何も迷うことはない――



そして、過去のリオライズとラフィーリスが、豪華な料理を食べた後、選んだケーキが、食卓へ出された。


ホールの中央へ六本の蠟燭が立ち、ライターで小さな火を灯した。

ラフィーリスは、顔を赤らめて幸せそうな息子の可愛い顔を見つめて歌い始めた。


ハッピー バースデー トゥー ユー

ハッピー バースデー トゥー ユ―

ハッピー バースデー ディア リ~オ~

ハッピー バースデー トゥー ユー


『リオ、六歳の誕生日おめでとう』


電気を消した暗い部屋の中で、ラフィーリスの輝く瞳を静かに見つめて、ケーキに立った蝋燭の火を大きな息を吹きかけて一回で消して見せた。


『ふぅーー』


まるで何かを示すみたいに、ふわっと消える火。

暫く小さな煙が立った後、部屋の電気で明るさを取り戻した。


『ケーキ、ケーキ! 早く一緒に食べよ』


『はいはい。少し待ってね』


白いタオルで包まれたナイフを、キッチンの棚から一本取り出す。

お皿とフォークを二枚ずつ用意して、フルーツの乗った所を切り取るようにカットしていく。


お皿に移されたカットケーキ。苺の代わりに、マスカットとメロンが仲良く乗せられていた。


『いただきま~す』


ケーキの端をフォークで掬うように一口運ぶと、甘いメロン味のクリームが口内に広がり、挟まれていたマスカットの、しゃきしゃき感と一緒に喉を通った。


『美味しいですか? リオ』


『うん! やっぱりお母さまのケーキは世界一美味しいよ!』


頬張るように、ケーキを食べ進めて、ラフィーリスも最高の幸せを感じていた。


そして――


『リオ。そろそろ、お母さまから誕生日プレゼントのお時間ですよ』


口に含んだケーキで、声にならない歓喜をあげた。「待ってました!」と言わんばかりに拍手で興奮を表わすリオライズ。


口周りについたクリームを拭いてあげると、ラフィーリスは小さな小箱を取り出した。



遂に、属性を目覚めさせる所まで来た。安堵と不安に駆られる二人のリオライズ。

この後の結末ばかり、想像してしまう彼等は言葉を少なく交わした。


『俺は幸せでした。この時間、自然と涙が溢れてきて』


“今の“リオライズが、静かに涙が頬を伝う。

“別世界線の”リオライズも瞳を揺らしながら、涙がでるのをぐっと堪えているようだった。


『思い出して来たんだよ……でも、僕等の家族を巡る過去は、この先もう少し続くから。そこまでは、どれだけ泣き叫んでも向き合ってもらうから……』


『勿論っす……』



青緑、今日食べたケーキのフルーツと、同じ色をした小箱。

ベルティリナから、貰った箱よりずっと小さいけど、微かな魔力を感じていた。


中からは、小さく脈動している緑色の一つの宝石が、黒い型に嵌るように輝きを放っていた。


『綺麗……魔力も感じるし、お守りですか?』


リオライズが、興味深そうに様々な角度から、宝石を覗き込む。


『そうね。お守りみたいな物。昔、貴方を産む前に使っていたんだけど、節目の六歳の誕生日に、渡そうと思って……』


『ふしめ……? 何のことを言ってるの?』


少し難しい言葉に、腕を組みながらラフィーリスの顔を見上げる。

彼女は、何かを隠すように話を進めた。


『何でもありません。リオライズ、この宝石をじっと見ていて。私が今から呪文を唱えると、貴方は変身します!』


ワクワクの状態が収まらないリオライズは、催促するように地団駄を踏む。


『風を司りし魔力よ……私の声に答え、リオライズ・ニイタに、新たな力を……お与えください』


すると、本当に宝石が答えたかのように、眩い光を放ち、リオライズは咄嗟に目を瞑った。


カーテンが、大きな風によって膨れるように舞った。

窓は、ガタガタと音を鳴らしていた。


暫くして目を開けると、小箱の中の宝石は姿を消し、リオライズは大慌てだった。


『どうしよう……! お母さまのくれた宝石、早速無くしちゃった……』


しかし、目の前に手鏡を当てられて、自分の髪と瞳の色に状況を理解した。


『もしかして、これって……』


『そう。問題文や昔の絵本で読み聞かせた内容と、同じ状況です』


澄んだ緑色の髪と瞳の色。リオライズは、“六属性いずれかの属性を手に入れると、見た目も変わることがある”ということを習っていた。


『僕が風属性……お母さまの後継者』


改めて、自分の立場を再認識する。そしてラフィーリスが言っていた“節目”という言葉の意味も、自分なりに理解できたつもりだった。


隅々まで、手鏡で自分の素顔や髪色を確認していると、背中に手が回り優しい腕の中に閉じ込められた。


『ど、どうしたの……? お母さま、心配しなくても僕は、ちゃんといるよ』


頭を撫でられ、背中をトントンと当てられながら、困惑しつつも母親に無事を知らせた。


『ううん、なんでもない……でも、今はこうしていたいから』


この時のリオライズは、抱きしめてくれた理由は分からなかった。

だけど、小さな手でラフィーリスの背中を撫で返してあげたのだった――



『ねぇ。今の君なら、なんでお母さまが抱きしめてくれたのか分かる?』


“別世界線の”リオライズは、“今の“リオライズへ問いかける。

彼は迷いなく即答だった。


『分かるっすよ……母親としての愛情。そして近い未来に訪れる、厄災の暗示』


徐々に、昔の記憶が元に戻っていく“今の”リオライズ。

目つきも最初とは見違えるほど、釣り目になって殺意と絶望の瞳だった。


『次の記憶へ行かせてください……僕の大好きな母様を殺した奴の顔を見る為に――』


幸せの裏に潜む、絶望の鐘。

リオライズは「何故、あの時気付けなかったのだろう」と自責の念に駆られながら、次なる記憶は新たな出会い。

それは仲間なのか、敵なのか――

最後までご覧頂きありがとうございました

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