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Death of the Academia 〜十二人の生徒達が紡ぎ世界を巡る英雄譚〜  作者: 鈴夜たね
追憶の海底に眠る、向き合うべき過去の姿編【プロローグ】
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Memory and Time: Phantom of the Version(メモリー・アンド・タイム:ファントム・オブ・ザ・ヴァージョン)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


土、火、水、風の四属性をメインに、学園の闇に気付いた四人の生徒達。

三百年前の歴史と、記憶の眠る地について聞き出したアラリック達は、グランとの交渉を経て”追憶の海底”にリオライズとともに挑む。

彼等が向き合うべき、真実とは——


《Death of the Academia》をお楽しみください

自分の過去と向き合える地、『追憶の海底』の存在を知った記憶持ちの四人。


入学前の空白の記憶と幼少時代の記憶を持つ、ヴェイルとストリクスは学園に残り、マリーナ達がII組の次なる脱落者を出さない為の見張りとして、戦うことになる。


一方、幼少時代の記憶を持たないアラリックと、リオライズは北の海に眠りし、『追憶の海底』へ向かう交渉に臨む。


「最低でも一週間は、帰れない。仮にグランのポータルを借りることが出来てもの話だ……断られれば、もう少し時間がかかる可能性がある」


アラリックが、最後の確認を施すように一つ一つ、言葉を繋ぐ。


「僕達の切るカードは、“ポータルと引き換えに、残った生徒には新たな授業ゲームを行って構わない”と……」


「それで、脱落者を出しそうになったら、俺達が全力で止めるっていう作戦だな……!」


「なるべく、時間稼ぎをお願いするっすよ~ ヴェイルさん」


軽口に紛れた重い言葉たちが、空気に沈む。

寮の部屋は、静かな緊張と温かな覚悟に包まれていた——



数時間後、四人が解散してから、アラリック達はグランの元を訪れた。


「失礼します」


Ⅰ組の職員室の扉をノックして、中に入る。

アラリックは、前にもアーサー達が助けてくれた後で、契約書を渡しに職員室へ赴いた記憶が呼び起された。


「またお前か……アラリック」


「安心して下さい。今回は契約の上書きではなく、ただの交渉に来ただけですから……」


グランは「顔も見たくなかった」と言わんばかりに、深くため息をついた。

面倒そうな顔を隠そうともしない。


そんな態度に、アラリックは皮肉めいた笑みを浮かべて返した。


「追憶の海底についてか……」


「話が早くて助かります。しかし、本当にストリクスと外に出たタイミングで、分かっていたのですね……」


二人の意味深な会話に、リオライズは激しく動揺を見せる。


どういう意味だ……グラン先生は、アラリックさんが記憶の海底について調べることを、見抜いていただと……! でも会話から察するに、寮の部屋で話していたから、他のことは本当に知らないみたいだ。


自分なりの解釈で落ち着いて、大きく深呼吸を施した。

そして、交渉条件が話される。


「僕達を追憶の海底へ送って頂くことを条件に、学園に残った生徒達には、次の授業——つまり“選別”を再開して構いません。それが今回、僕達が出せる条件です」


「なるほど……今回も大分、仕組まれていそうな条件だ……」


頬杖をついて、少し楽しんでいる笑みを浮かべて、アラリックの言葉を受け止める。


「元々、対人戦前に交わした契約は既に、クリアしていますから、新しくお願いをしようと思って……如何でしょうか?」


アラリックの顔を横目に、グランが沈黙の中で目を瞑って、思考を巡らせる。

張り詰める静寂の中で、静かにグランは答えを紡ぐ。


「良かろう……しかし一つ、俺からも条件がある……」


「何でしょうか?」


「“選別を行っている間、記憶持ちの人間からの妨害を一切、許さないこと”」


その言葉を聞いたリオライズは、目を見開いて思わず、声を張った。


「そ、それは……!」


「……分かりました」


しかし、アラリックが静止するように、言葉を重ねると衝撃なことを口にした。


「その言い方だと、Ⅱ組の脱落者が決まった瞬間、手出しして構わない。という受け取りをしました。……なので、ヴェイルとストリクスが、Ⅱ組の生徒の誰かを記憶持ちに戻したら、再び選別は諦めてください」


都合の良い受け取り方ではあった。しかし、グランも“選別の間”と言ったのは確かだった。

潔く負けを認めたように、その内容で承諾した。


「構わん……逆に言えば、記憶持ちに戻らせるチャンスを潰せば良いだけのことだ……」


「では、交渉成立です。ヴェイル達には僕から言っておきます――」


あまりにも、あっさりと成立してしまった交渉。リオライズは、胸がざわつき始めていた。


普通なら、訂正してもおかしくない場面だった。

それなのにグラン先生は、アラリックさんの条件を全て飲んだ。

……策略か、見落としか。もしくは——わざと踊らされている可能性すらある気がする。



夜は更け、皆眠りに就いた頃……リオライズは一つの夢を見た――


暗闇の中で、瞼も明けていないのに光が差し込む、やがて街並みの風景に移り変わった。


目の前には、腰まで届く銀髪を風に靡かせながら、白いマーメイドドレスを優雅に揺らして歩く女性の姿があった。

手にしたラタンバスケットには、林檎、チーズ、ハーブなどの小さな生活の彩りが詰まっている。


彼女の背中は、どこか懐かしく感じて見えていた。


『お母さま~』


後ろから自分と同じ声で、母の名前を叫ぶ誰か。

反射的に振り返ると、今の自分とは似つかない茶色の寝癖がついた髪に、淡い緑色の宝石をネックレスのように首にかけた泥だらけの少年が走ってきていた。


“あれ……? なんで今、自分と比べた……?”


自分と似た声、しかし姿は似つかない。瞬間的に夢の中で不安に駆られる。


“いや……夢の中で、今の俺達の現状を見たら、自分と重ねるのも無理もないっすよね……”


しかし、次の母親の発言に、リオライズは目を疑った。


『こらリオ! また泥だらけになって、帰ってきたのですか……?」



“…………は?……”


『えへへ……ごめんなさい』


『仕方ありませんね……家に帰ったら、しっかり洗うんですよ』


“リオ…… それは、俺のあだ名。小さい頃、母親にしかそう呼ばれてなかった名前……”


そして母親が、少年と一連のやりとりを見ていたリオライズに向かって、目が合って、微笑んだように見えた。


——その瞬間、風景が消え去った。

目を開けると、視界の端で差し込む日差しと、シミのついた寮の茶色い天井だった。


「知ってる天井だ……」


「その台詞を現実で言う奴がいるとは……」


再び聞き覚えのある声、学園内で一番に違和感に気付いた者の声。

天井からゆっくりと下に視線を逸らすと、制服を着て扉に寄りかかりながら、腕を組んでいるアラリックだった。


時が止まったように、リオライズは固まり……状況を理解した瞬間――噴水のように飛び起きて、激しい動揺が襲った。


「な、な、なななんでアラリックさんがいるんすか~!?」


「はぁ?」と呆れ顔を見せて、大きくため息を吐く。


「何故……? 貴様が寝坊して、いくら起こしても起きないから、死んだかと思って見張ってただけだ」


「じゃあ……あの時俺を呼んだ声は、アラリックさんで、自分の一番聞きたい人の声に勝手に変換していただけ……?」


夢の中で呼ばれた声は、女性だった。それに夢を見てから起きるまでの間で、何時間経ったのかも定かではなかった為、無意識に自分の中での分析を呟く。


「とにかく、早く支度を整えろ。準備が出来次第、出発する」


「わ、分かりました!」


あの夢で聞いた声は、遠い昔にも聞いた記憶が微かに残っている……

追憶の海底に行けば何か分かるかもしれない――



数十分後――支度を終えたリオライズは、アラリックとともに、グランのポータルで追憶の海底に辿り着いた。


そして、目の前には、普通の海とは一目で違いが分かるほど、美しく青い海が広がっていた。

後ろは木々で包まれており、森を抜けた先に作ったのだろう……

海全体から、微かな魔力も感じ取っていた。


「さっむ……!」


北の大地という名の通り雪国で、凍える風と海の冷たさが肌を刺す。

鼻先がツンっと痛くなり赤く染まって、呼吸をする度に白い息が舞い上がった。


リオライズはかじかんだ手に息を吹きかけ、肩をすくめて身を縮めながら、凍える腕を摩る。吐き出した白い息が、すぐに風にさらわれて消えていった。


「……で。どうして寒がってるの俺しかいないんすか……!」


「大人だから……」


「水属性持ちだから……」


グランとアラリック、双方理由にならない言葉を並べて、彼は寒さに耐えることしか出来なかった。



「では、貴様との交渉により、これから学園に戻り選別を始める。追憶の海底については好きにすると良い……」


吐き捨てるように、グランは淡く白いポータルを再び出現させて、一人学園に帰っていった。


吹雪の音だけが残り、耳に当たる幾つもの結晶がじんわりと解けた。


自分が見た夢の真相が分かる……そう考えて、浜辺から海に近づくと、アラリックの言葉に振り返る。


「貴様、今日夢を見たか……?」


「み、見ました……少年と母親が出てくる夢。自分と同じ名前だったと思います。もしかして、アラリックさんも見たんすか……」


「今の僕とは、違う世界線の僕と出会った。とても同一人物とは思えなかったが……」


そして思い出すのは、鏡を映したように同じ姿をした自分の幻影。

今のアラリックの性格では考えられない、明るさや器用さを持ち合わせているようだった。


「今回の追憶は、過去の記憶以外にも、二度と有り得ることの無い世界が見られる暗示かもしれない」


アラリックが、リオライズの元へ歩み寄り、右手の人差し指を額に当てると、小さな水属性の魔力を流し込んだ。

小さく澄んだ水色の光がリオライズの顔を照らした。


「これで、扉を探す最中に溺死や、息が出来ない、目が開けれないといった問題は、大丈夫なはずだ」


光が収まると、自然と寒さも消えていた。


「ありがとうございます……それで、先に行って良いんすか……?」


水属性の加護を与えてくれたアラリックに、聞き返した。


「僕はもう少し、周りを探索してからにする。だから、先に終わらせてくれた方が、こちらとしても好都合だ……」


「……分かりました」


そして、リオライズは海へ思い切り飛び込んだ。

水の中でも、加護のお陰なのか息も出来て、目も開けられた。

海の底まで泳いで、追憶の海底の黒い扉を探し出す――

最後まで読んで頂きありがとうございました

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