Death Game: Battle Seeking the Light(デスゲーム:バトル・スィーキング・ザ・ライト)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、二つのクラスに振り分けられた彼等は、”空白の入学前の記憶”を取り戻した、青年達の契約の下、対人戦に駒を運ぶ——
“何が真実”で”何が嘘”なのか、生徒達は真相を探るべく戦っていく——
《Death of the Academia》をお楽しみください
「分かってる……あんたの怒りは痛いほど分かるっすよ……」
火を纏う剣が、空気を裂いてリオライズへと迫る。
リオライズは咄嗟に籠手を合わせ、火花とともに鈍い衝撃音が結界内に響いた。
リオライズの隙を逃がさぬように、ゼフィリーは火属性の小さな結晶を幾千と打ち放った。
結界の内側は、瞬く間に炎の揺らめきに赤く染まった——
「殺すなよ、ゼフィリー……こいつは生かして、尋問しないと気が済まねぇ」
「君こそ……誤って巻き込まないでよね」
小さな火花が弾け、柔らかな音が結界を満たす。鏡面に走る細かなひびに、ゼフィリーの目が微かに留まった。
「ヴェイル」
「あぁ……とどめは俺が刺す」
光を失った瞳でゼフィリーを一瞥し、ヴェイルは火の海へと飛び込んだ。
膝をつき、荒い息をつくリオライズがそこにいた。
「お前には、後でじっくり話を聞かせてもらう……仮に死んだとしても、ストリクスに吐かせれば良いだけだが……!」
容赦なく、剣先が突き立てられる。
金属の冷たさが、手の奥にまで沈み込み、鈍い衝撃が腕を伝う。その静かな重さが、空気さえも沈黙させる。赤い雫が剣身に滲み、ぽたりと地を打った。
「な、何をしている……?」
「貴方の名前を聞いていなかったのと、この傷に関しては何ともないっす。風で切り傷を受けるのと一緒っすよ」
けれど両手の血は、とめどなく流れ続ける。ヴェイルも、怒りの奥底で、リオライズが本当に敵なのか……分からなくなりかけていた。
一瞬の静寂の中で、深く息を吸い、ヴェイルは答える。
「ヴェイル・イグニス……それが俺の名前だ」
その名を聞いたリオライズは、血に染まった手の痛みも忘れたように、微かに微笑んだ。
「ヴェイルさん……すね。良かった……“ようやくちゃんと、記憶持ちの、同じ境遇の人間の名前を聞けました”」
真っ直ぐで、希望の光のような輝きを放つリオライズの瞳。
ヴェイルは目を見開く。燃え尽きないその瞳に、確かな真実の光が宿っていた。
「ヴェイルさん……俺は、いつかこの世界に住まう人間も、これから誕生する新しい命にも、蹴落とし合う暗闇の世界より、自由で互いに高め合う世界を創りたい……」
それは、ストリクスの言葉。だが、今のリオライズの心からの願いでもあった。
「壮大で無理な話かもしれないけど――そうなる未来を信じて、歩き続けます」
その覚悟の言葉と、瞳はヴェイルを完全なる信頼へ導いた。そして、リオライズがゆっくりと、剣から手を離した。
しかし、その奥で痺れを切らしたゼフィリーが、火の海を解く術式を発動していた。
「イレース・タイフーン!」
明らかに、いつもとは低く、黒い声とともに術が放たれる。
そして、サイラスの時と同じように結界内が、元の姿を取り戻していく……
その光景に、胸騒ぎがしたヴェイルは叫んだ――
「リオ――!」
その呼び名に、遠い記憶から母親の声が思い出される。
『リオ……』
名前も顔も覚えていない母親。それでも優しい声で、自分の名前を呼ぶ声だけは忘れていなかった。
「図々しいっすよ、ヴェイルさん。その名前で呼んでいいのは――大事な家族だけっすから」
リオライズが地に拳をかざして、魔力を込める。赤々しい景色から一変、白く輝きを取り戻していく結界を見ながらリオライズは声を張った。
「フロラーズ・ルクス!!」
リオライズが地に拳をかざすと、土が微かに震え、翠の葉が風に乗って舞い上がった。
葉は光の粒となって結界を満たし、やがて螺旋を描きながら蔓を編み、大きな水晶を形作る。
水晶は二人を閉じ込め、その上から蔓が静かに封印を施した。
「この葉に包まれた者は、魔力の流れを断たれ、解除の言葉が届くまで、一切の術を使えなくなるっす」
赤く染まっていたリオライズの掌は元通りになり、地を蹴ってゼフィリーに向かって、拳を突き付けた。
君にも、いつか真相を話したい……今は、何も考えないで待ってると良いっすよ……
心の中で、ゼフィリーに告げるように、水晶の中へ入り込むと、首元の真珠に触れて、ゆっくりと崩れ落ちていった。
魔力の衝撃がゼフィリーを吹き飛ばし、結界の壁に鈍い音を響かせた。
倒れ込むゼフィリーを遠目に、今後、まだ記憶を取り戻していない生徒達が、どのような結末を辿るのか……、という考えだけが脳内を巡っていた。
「それじゃあ、ラストマッチと行きましょうかね……ヴェイルさん」
水晶の蔓が解かれ、体が自由に戻ったヴェイルは、ゆっくりと地に足をついてリオライズを見据えた。
「十八の俺達に、妥当な舞台なのか否か……少し重すぎる使命かもな」
「そうっすねぇ……Ⅱ組に関しては、十八歳以下の子供もいますから、生徒達である俺達は気負わず、やっていけばいい……絶対的に、あの人達の思想は、“間違っている”。それだけのことっすよ」
「……もう一人の所在については、“ゼオン達の結界を尋ねろ。”俺から言えんのは、それだけだ」
互いの視線が絡み合うと、微笑みに変わり、そのままリオライズはヴェイルの真珠を破壊した。
割れた真珠の破片と、崩れる結界を見ながらヴェイルは、リオライズの背中を見届けた。
「あいつなら、きっと大丈夫だろ……アラリックは話の分からん奴ではないし、Ⅰ組が負けてもペナルティなし、契約もリゼルドが守る限り安全……だよな――」
そして、教師達の間では記憶持ちの発生と、勝手に結んだ契約について、授業中と関係なく議論が為されていた。
「どういうことなの……? 二人とも。どうして、記憶を取り戻した生徒達の言いなりになって、私達Ⅱ組担当に何も話していないわけ?」
マリーナが、リオライズとヴェイルの異変に気付き、Ⅰ組担当のグランとフラーナに問い詰める。しかし、グランは余裕そうな笑みを浮かべて冷静に答える。
「安心しろ……奴らはまだ、四人しか記憶に目覚めていないし、一人は戦力外同然の、呪いの後遺症を持つ人間。現時点で三人だけで、俺達を潰すのは不可能だ……」
「ですが、部外者を入れて、その者に勘づかれたと聞いています……それについては、どう説明するのですか?」
ヴィンティスも続けてグランに問い詰める。それでもグランの表情は、一向に変わることを覚えず、淡々と答えた。
「部外者と言っても、刺客は存在する……今は、仲間内で争っている最中だろうな……」
謎が深まる、闇の学園。そしていよいよ、クライマックスを迎える《イレギュラーデュエルマッチ》
彼らの導き出す、最後の答えは――
最後までご覧頂きありがとうございました!
次回からクライマックス突入!
初めに、アラリックvsゼフィリー戦をお楽しみに!