Death Game: United Rhythm(デスゲーム:ユナイテッド・リズム)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、二つのクラスに振り分けられた彼等は、”空白の入学前の記憶”を取り戻した、青年達の契約の下、対人戦に駒を運ぶ——
“何が真実”で”何が嘘”なのか、生徒達は真相を探るべく戦っていく——
《Death of the Academia》をお楽しみください
「――っ!エニアルの役立たずが……!」
サイラスが、ヴェイルを蹴り飛ばし、ゼフィリーに向かって氷の斬撃を放つ。
だがゼフィリーは、空を駆け、斬撃はグランの結界に触れた瞬間、溶けるように霧散した。
「イレース・タイフーン」
ゼフィリーの声と同時に、二つの巨大な竜巻が吹雪を飲み込み、鏡の結界が姿を現す。三人の姿がそこに映し出された。
「ハリケーン・スラッシュ……」
杖の先に魔力が収束し、風の刃がサイラスへと放たれる。
ヴェイルは、ゼフィリーの到来に本能的に立ちすくんだ。
――助けが来た安堵で、一瞬だけ、体が硬直した。
「無駄なことしたら、折角の救援が水の泡になる。――でも、なんでだろ……ゼフィリーは、心の中でグラン達のかけた呪いに抗っている気がする……」
サイラスは後退しながら、反撃の隙を窺う。氷の剣がゼフィリーの風の刃を受け止めようと振るわれた瞬間——
「クッソ……が!」
サイラスの剣と風の術が交差し、術は霧のように消え、サイラスの右肩を裂いた。
「風は、時に見え、そして消える……」
「詩人かよ……意味、分かんねぇ」
ゼフィリーは、数メートル先にいるヴェイルの元に降り立ち、その傷だらけの姿を見て小さく笑った。
「怪我は大丈夫?」
「……この顔見て、それ本気かよ」
「確かにね。君が一番危なそうだったから、助けに来れて良かった」
他の結界内の仲間のことを見たような、口ぶりにヴェイルは驚く声で聞き返した。
「……他の奴はどうなってる?」
「……ストリクスは、まだリオライズと合流なし。ただ、風属性の魔力が向かってきているのは、感じた。レンリーの結界は相打ち。そして、アラリックのほうは、互角状態……僅かに優勢だったかな」
仲間の現状を聞いたヴェイルは、ほっと胸を撫で下ろす。一呼吸おいて、ゼフィリーを鼓舞した。
「なら、俺たちも勝たなきゃな!」
「勿論だ」
傷を受けて、呆然とするサイラスは、ゼフィリーとヴェイルが何か作戦を立てているのを見た。
「コケにしやがって……!」
血が流れ、痛む右肩を抑えながら、立ち上がると氷結の斬撃をヴェイル達に向かって放つ。
氷が形成されるような、甲高い音とともに、冷気が二人の姿を呑み込もうとした。
しかり、華麗に避けたヴェイル達は、再び二手に飛んで戦闘態勢に入る。
「同種族に対して向き合わないお前に、一つアドバイスだ……!敵が自分達の陣営より多い場合は、1対2ではなく、1対1の状況を作り出して“勝つ”」
ヴェイルの声が響く。サイラスの胸に、昔の情景がよみがえった。
「勿論、強い奴だったら、相手が何千、何万いようと関係ないけど……君は“子供で人間で、まだ弱い生き物だ”」
ゼフィリーの言葉も、どこかで聞いたことのある。
サイラスは、昔、父親に一つの質問を投げかけたのを思い出した。
サイラスが産まれてすぐ、母親は死んだ。
代わりに父親が、サイラスを引き取ることになった。父親は優しく、最低限の教育を受けて育った。そして、物心ついた頃に初めて強さを求めた時のこと——
「ねぇ、父ちゃん。俺はもっと強くなりたい……何か必要なことはある?」
「良いかい、サイラス。“強い奴だったら、相手が何千、何万いようと関係ないけど……お前は子供で人間で、まだ弱い生き物だ”。もしも、強い奴らが、お前を襲って戦うしか選択肢がないとしたらどうする?」
「どうすればいい……?」
「……その時は、“1対1の状況を作り出して勝てば良い“」
その時、父親が昔、自分に言った言葉だと思い出した。サイラスの元に迫る二つの影……
そして、向き合うことを決意した瞬間でもあった――
「アドバイス……ありがとよ!」
皮肉に笑い、傷の痛みに耐えながら剣を構える。
剣は龍のようにうねり、投げつけるようにヴェイルへ放たれた。
「……ぐっ……」
そして螺旋を描くように、ヴェイルの首を絞めて、真珠を砕くように破壊を始める。
「しくじったか……」
「ヴェイル……!」
ゼフィリーが魔法を放とうとした瞬間、サイラスは足元に氷の台を作り、地を蹴って一気に空へ駆け上がった。
柄だけを残したサイラスは、再び刃が形を作る。そのままゼフィリーの杖と交差するようにぶつかった。
「知ってるか? 魔法使いは、接近戦に持ち込まれたら……存在価値を失う」
深くゼフィリーがため息をついて、答える。
「確かに君の言っていることは、正しい。……だけど、あんまり僕を舐めない方が良いよ。――イレース・タイフーン……」
ゼフィリーの体を風が纏い、巨大な竜巻が起きる。風に吹き飛ばされたサイラスは、ヴェイルにかけた術が解けかかっているの、目撃した。
ゼフィリーは、疾風のような速さで、ヴェイルの元へ駆けつけた。ぶつかった衝撃で流され、数十メートル先まで飛ばされたヴェイルの体を、術が解かれる寸前、抱きとめるように距離を取った。
「ごほっごほっ……!はぁ、はぁ……」
ようやく、空気を取り入れたヴェイルは大きく息を吐いて、呼吸を整える。
「真珠は大丈夫?」
「あぁ、完全に壊れてはない。少し傷はついてるけど、結界が消えてないってことは、まだ戦う権利はあるはずだ……」
「なら良かった……君に、一緒に唱えてほしい詠唱があるんだ――」
そして、ゼフィリーがヴェイルに合流してすぐの頃に、ストリクスの元へリオライズが合流していた。
「……いよいよか。リオライズ・ニイタ」
「あれ……? 思った人と違ったなぁ。まぁ、全力でやるのは変わりないっすけど――」
舞台は、ヴェイル&ゼフィリーへ戻る。リオライズが合流したことを察知したゼフィリーは、最後の術で決めようと詠唱を始める。
「今ここに願うは、風と火を纏いし調べ……」
ヴェイルが言われた通りにゼフィリーの詠唱の後に続ける。
「我らの願いを聞き届け、今こそ結ばれる時……!」
ゼフィリーは、空飛んで詠唱し、ヴェイルは、リズムに乗るようにサイラスと剣を交え、詠唱を止めずに言い切った。
「「アル・フェニックスファング!!」」
空を舞うように、火の鳥達が飛んでいる。そして、サイラスの真珠めがけて火の鳥は突進。
「キェェェェェ」
鳥が声を上げながら、徐々に罅が入り、サイラスは為すすべなく、真珠がガラスのような音を立てて砕け散った。
「勝った……のか……」
少し、状況を理解するのに時間がかかったヴェイル。そして、負けてしまったことで、深く落胆するサイラスの姿があった。
「また、負けた……」
息を切らして、その場に立ち尽くすと、ゼフィリーがやって来て我に返る。
「お疲れ様。初詠唱の、初めての合わせ技にしては上手く行って良かったよ」
「俺も驚いたぜ……でも、サンキューな」
グータッチをして、ヴェイルは記憶持ちじゃなくても、信用してみても良いと思った瞬間だった。
「じゃあ、次は――」
突如、風の斬撃が二人を襲った。だがゼフィリーは、まるでそれを予期していたかのように防御魔法陣を展開し、寸前で防ぎ切った。
「な、なにが……!」
「――へぇ……それ止められるんすね。じゃあ、俺の相手もお願いするっす」
「う、嘘……だろ……」
煙が晴れて、姿を見たヴェイルは青ざめた。目の前に立っていたのは——“リオライズ・ニイタ”。決戦前に突如、姿を現したⅡ組の人間だった――
次回、ストリクス対リオライズ戦、是非お楽しみにください!




