Death Game: Clash of Fire and Ice(デスゲーム:クラッシュ・オブ・ファイア・アンド・アイス)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、二つのクラスに振り分けられた彼等は、”空白の入学前の記憶”を取り戻した、青年達の契約の下、対人戦に駒を運ぶ——
“何が真実”で”何が嘘”なのか、生徒達は真相を探るべく戦っていく——
《Death of the Academia》をお楽しみください
「——では、《イレギュラーデュエルマッチ》始め!」
グランの声が聞こえたと同時に、ヴェイルは一つの目的を見据えて剣を構えた。
そうだ……俺の目的は、戦うことじゃ無い。“対話だ“
「俺は残念だぜ? サイラス。お前とは性格も似てるし、気が合うかと思ったんだけどな……」
「何言ってんだてめぇ……気持ち悪りぃ」
あまりの気の合わなさに、ヴェイルは少しだけ悲しげに笑った。
「……ドストレートに言いますなぁ」
剣が赤熱し、地を焦がす熱風を巻き起こす。
サイラスも剣を掲げ、結界の内側に大きな魔法陣が浮かび上がる。幾千の氷塊が星屑の雨のように降り注いだ。
「なぁ、サイラス。お前はこの学園に来てから、疑問や悩みに直面したことは無いか……?」
ヴェイルの剣が炎の弧を描き、氷の雨を蒸気に変える。剣閃は魔法陣を断ち切った。
「学園に来てからの悩みなんて一個もねぇぜ? てめぇこそ、少し火の剣術で氷を溶かせるくらいで調子に乗んなよ」
「疑問も無いと……?」
「無論だ――」
即答の中に、一瞬の呪いの気配。ゼフィリーや、レンリーと同じ気配がすることを、ヴェイルは見逃さなかった。
——そして確信する。サイラスはまだ記憶を取り戻してはいない。それでも、心のどこかに引っかかれ――そう願って、ヴェイルは剣を振るった。
「そうだ……もう一つ聞こうと思っていた……お前はなんで、この学園に入ることを決めたんだ……?」
「……あ?」
一瞬のうちに距離を詰め、ヴェイルの剣が、サイラスの首元を狙う。サイラスも応じ、剣と剣が火花を散らした。
――爆音とともに、結界内の空気が揺れる。
赤い炎が結界を染め、氷結の冷たさと炎の熱が同時に肌を刺した。それでもヴェイルは冷静だった。淡々と口を動かす。
「何故、この学園に入った? 強くなりたいからとか、家族の期待に応えたいからとか、そういう理由は無いのか……?」
狂気に満ちたようなヴェイルの瞳がサイラスを射抜く。
サイラスは、何か秘密を見透かされたような気がして、逆上した。
「いちいち聞いて、何になるんだよ!? お前に言ったら、何かしてくれんのか! しねぇだろうが!これ以上俺の詮索を……するなっ!」
結界内の空気が一変した。冷気だけが満ち、ヴェイルは直感でサイラスの肩を蹴り飛ばし、距離を取った。
サイラスが地を滑り、鈍い音を立てて倒れる。すぐに不気味な静けさの中、立ち上がると低く呟く声が漏れた。
「痛ってぇな……調子に乗りやがって。――壊死ルーレット、《第一の吹雪、ネクロ•ブリザリア》」
冷気が結界の内側の天井に渦を巻き、白銀の禍々しく美しい吹雪が結界内を覆う。……まるで死者の魂を呼んでいるかのような吹雪が降り注いだ。
「これは……!チッ――悪いな、アラリック、ストリクス。俺には人を目覚める才能は“もうない”。そして、こいつも決して向き合うつもりが無い感じだ……情けねぇけど今は、勝つことだけに専念する……!後は頼んだ」
別の結界内で戦っている記憶の戻っている、仲間達に、ヴェイルは小さく、だが強く願った。
吹雪の冷たさが骨の芯まで迫り、体が鈍く重くなる。壊死ルーレットの影響だ。足先から感覚が遠のくのを感じた。
「てめぇに要求されるのは二つ。まず一つは、壊死ルーレットは体の自由が効かないだけじゃなく、当たれば、その体の
一部は破壊される……
そしてもう一つ。それは、この吹雪の中でも、“俺は何の代償も発生しない”。――つまりてめぇは、吹雪ルーレットを見極めながら、動かねぇ体で俺に勝たなきゃならねぇってことだ!」
息を吹き返すように、サイラスが疾風のごとく剣を振るう。全方向から突き出される剣閃がヴェイルに襲いかかる。
「……これじゃ防戦一方……!」
ルルナと学んだ剣の型で必死に受け流すが、吹雪が視界と動きを奪う。制服のローブは切り裂かれ、剥がれ落ちた布片が氷の床に舞った。
「はぁ……はぁ……」
息が上がり、ヴェイルは天を見上げて分析する。もちろんサイラスは、待ってくれない。振り下ろされる剣が視界に映った瞬間――普通の吹雪とは違う、黒い何かが降って来るのが見えた。
その一瞬、ヴェイルは剣を強く握り直し、サイラスの剣を、横へと弾き返した。火花が散り、氷と炎の蒸気が視界を白く覆う。
「お前のカラクリは分かった……いつ黒い吹雪が降って来るかまでが分からなくても……今は、その情報だけで十分だ……!」
「吹雪を止めねぇ限りは、一生体もそのままのお前に勝ち目なんてねぇよ!」
「そうかもな……このままじゃ確かに負ける。だけど、俺は仲間を、Ⅰ組の仲間を全員信じているから……!」
再び剣と剣が激突する。炎を纏った刃も、吹雪に呑まれ音を消される。それでも、ヴェイルの瞳から決して諦めの色は消えなかった。
「……早く、……来い!」
ヴェイルの剣に罅が入り、刃が凍りついていく。
サイラスの剣圧が重くのしかかる中、ヴェイルは歯を食いしばり、ただ耐えた。
その時——遠くから火の魔力が、こちらに向かって迫るのを感じた。
ふと視線を上げると、結界の中にひとりの魔法使いの姿があった。
「――よく我慢した。ヴェイル・イグニス」
目頭が熱くなる。全身に再び力が満ちるのを感じた。
「……待ってたぜ!ゼフィリー」
「大丈夫だよ。すぐに吹雪を消して参戦するから……!」
「あぁ……例え、お前であっても、助けに来てくれたこと感謝するぜ」
安堵する瞳と声。それでも、油断を許さない状況……
ゼフィリーが何故、ヴェイルの助けを選んだのか。
——そしてストリクスの元に、リオライズが到着する。
次回ヴェイル&ゼフィリー対サイラスの戦いをお楽しみください!




