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Death Game: Speed Wind of Flame(デスゲーム:スピード・ウィンド・オブ・フレイム)ゼフィリー・フィオラ編

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー

土、火、風、水の四属性をメインに、二つのクラスに振り分けられた彼等は、新たなる試練【対人戦】に向けた戦いに駒を進める——

生き残るのは真の才能がある人間のみ

誰が生きて誰が死ぬのか完全オリジナル作品

《Death of the Academia》をお楽しみください

五つの入り口に、それぞれ足を踏み入れると視界が、一瞬歪んだ。

後ろを振り返って入り口を確認すると、見えない壁で封鎖されていた。


——そう、既にこの時点で訓練が開始されている事を、暗示していたのだ。



ゼフィリーとクレヴァスの特訓では、掛け声の合図もないまま、突如として攻撃が飛んでくる。


「……取り敢えず、これは序章ね」


クレヴァスが構えから一閃。

ゼフィリーは反応すらできず、斬撃をまともに受けた。


「……何が……」


体には至る所に切り傷があり、そのままクレヴァスがゼフィリーへ剣を突き立てて、見えない壁へと叩きつけられた。


「……くっ……かはっ——」


「……この時点で君は、十回は死んでるかな? でも大体課題は見つけた」


クレヴァスはポケットから回復ポーションの瓶を取り出し、ゼフィリーの頭に無造作にかけながら言った。


「……君は魔法使いで、風と火の使い手でしょ……」


話しながら、殻になったポーションの小瓶を投げ捨てる。


「風の特権の移動と攻撃のスピード。そして水にも勝てる火属性の魔法の威力を手に入れる」


しっかりと耳を傾けて話を聞くゼフィリーと距離を取り、自身の刀を眺めながら、クレヴァスは淡々と話す。


「これが君の課題って所かな」


「……やっぱり火属性で間違いなかった……」


まるで”知らなかった”と言うような、掠れた声で呟くゼフィリーにクレヴァスが問い詰める。


「……まさか自分で気付かなかった。なんて言わないよね?だとしたら、すごく幻滅する」


「第一授業の時、自分と同じ属性の敵と戦った。だけど、課せられた課題の意図を理解した瞬間、自分の中で本当の属性——火属性に目覚めた」


深いため息を吐いて、一瞬何か安心した表情を浮かべると、すぐに鋭い目つきに変わる。


「……それでも大分遅いけど、まぁ及第点だ。時間が勿体無いし、早く次の段階に行くよ——」




クレヴァスが、刀を構えて一歩踏み出す。

ゼフィリーは即座に反応し、杖の先端から火炎が唸りを上げて奔る。


クレヴァスの足元に火炎が放たれる。

その瞬間、地が割れながら耳を劈くような轟音が鳴り響く。


間違いなく右足は燃やした……! 少なくとも、接近戦しか強みのない剣技なら……っ。


燃え盛る火の中から、何かが突っ切る音が聞こえる。

その光景に、思わずゼフィリーは目を見開く。


目の前に、クレヴァスが無傷のまま再び、一閃ゼフィリーに刀が振るわれる。


——その瞬間、クレヴァスの速さに応じるようにゼフィリーは高々と飛び、背後を取る。

そのまま視界を塞ぐように、火炎の魔法弾を連続して打ち続けた。


「——次、クレヴァスが来るとしたら……」


全方向から飛んでくる事を予測した魔法を準備する。

魔力を込めて、足音が近づいてくるのを合図に一気に放つ。


「……ストップ」


クレヴァスは、刀を鞘にしまい、ゼフィリーに一度構えを解くように、声を掛ける。


しかし、警戒心と魔力を集中させていた彼には、言葉が合図になるように、聞こえた方向に向かって、無数の火の玉の魔法を繰り出した。


バチバチと、火花同士が交差する音を鳴らす。


だがクレヴァスは、怖くなるほど落ち着いていた。

刀を薙ぎ払うように、火の玉を消し去ると、ゼフィリーは我に返った。


「あっ……すみません。集中してしまって……」


すぐに杖を下ろすと、肩の力が抜けた感覚がやってくる。

ゼフィリーが、急いで謝罪をするとクレヴァスの口から衝撃的な言葉が飛び出してくる。


「いや、良い反応だった。相手の言葉を過信せず、自分の考えを貫いたのは良かった。——あとは一人で大丈夫そうかな……」


「ちょ、ちょっと待ってください! これで、終わり?」


「……そうだよ。だって、俺の仕事は終わったもん」


まるでゼフィリーが可笑しくて、自分が普通のことを言っているような不思議そうな顔で答えるクレヴァス。


困惑のあまり思考が止まる。

咄嗟に出た言葉も、止めるのに精一杯だった。


「か、帰るんですか?」


「うん……そのつもりだけど」


会話が続かない。

本当に人と会話しているのかも疑うほど、単調だった。


悩んだ末——

ゼフィリーは、思い切って自身の願いを口にする。


「あの……! 最後に一戦だけ、手合わせを……お願いします」


「人の話聞いてた? 俺はここで帰って、残りは一人でやって……暇じゃないんだよ、こっちだって」


苛立ちながらも、必死に感情を抑えるように低く小さく言葉を紡ぐ。

焦りも感じる言動に、ゼフィリーは違和感を覚えつつ、何か思いついたように、今度は明るく交渉する。


「そんなに急いでることがあるなら、僕も手伝います。なので……手合わせしてください」


その瞬間、クレヴァスの瞳が揺れる。


長い沈黙が続き、洞窟内の雰囲気は緊張に包まれる。

ゼフィリーは、冷や汗をかいて回答を静かに待つ。


そして、数十分の時間が経った頃——

ようやく、クレヴァスの重い口が開かれた。


「……分かった。一戦だけで、それ以上の関与は俺はしない」


ゼフィリーの険しい表情が、一気に柔らかくなる。

活気を取り戻した彼は、杖を握って感謝を告げる。


「っ……ありがとうございます! 早速、手合わせよろしくお願いします」


クレヴァスが小さく頷くと、もう言葉は交わさなかった。

互いに刀と杖を構え、視線だけが交わる。


すると、ゼフィリーが冷や汗を拭うのに、左手の構えを解いた。

その間も、クレヴァスは一切微動だにせず剣先を向けた。


刹那——

ゼフィリーが、杖を両手で握り直した瞬間、幾千の爆炎の閃光と、星屑をまとった眩い竜巻がぶつかり合う。


洞窟内全体を赤く染め上げる中、ひとつの風のような光の竜巻が舞い上がる炎を吸収していく。


やがて、竜巻の姿が増え、暗がりの洞窟が広がり景色と視界が元に戻っていく。

そこからは、一進一退の攻防が激しく広がった。


ゼフィリーは、クレヴァスから放たれる斬撃を、正確に読み、素早く回避して魔法を繰り出す。


爆炎の魔法は、回数を重ねる度に威力を増していく。

最初は洞窟の壁も、黒く焦がす魔力が一撃で崩れるほどの威力を出していく。


対するクレヴァスも、刀を使った古風な戦い方。

武将のように並外れた身体能力と、彼の持つ光属性の魔力は、頭ひとつ分のスピードを発揮し、徐々に接近戦へと持ち込んでいく。


クレヴァスが得意とする型を使った連撃技。

狭い洞窟で、距離を取るのも困難になっていき、高く飛躍しても光という上位属性の前には、一切通用することはない。


「そろそろ限界なんじゃない? もう手伝いとかしなくていいから、早く終わって貰って良いかな」


何分……魔力をぶつけたか分からない。

それでも、クレヴァスの気配からは一切——

息切れも、汗も、傷もなく刀を握り、呆れ果てた表情でゼフィリーを見据える。


それと対比するように、ゼフィリーは息が上がり、滝のように汗が流れ、杖に(ひび)割れが小さく顔を出し、焦る表情で、クレヴァスの言葉を真っ直ぐに受け入れた。


「いいえ……諦めません。この後、お手伝いをするなら実力を示してこそ、信頼を勝ち取ります」


「本当に何も気付いてない。あの人の思い通りの人間だ……」


クレヴァスが一人呟く。


そして、ゼフィリーの片側の肩に羽織っているナイトグリーンの《ペリース》が、紅に染まり——

一斉に熱気が洞窟内を包み込んだ。


「この一撃で決める……早く終わりにして、用事を済ませましょう」


先程まで追い詰められ、焦っていたゼフィリーの雰囲気は一変し、火と風の膨大な属性魔力を同時に帯びながら、彼の身体をまとっていく。


再び視線が交わり、杖の先端から脈動するように魔力の欠片が姿を現した。

クレヴァスは今までに一番早いスピードで、ゼフィリーの首筋へ刀を振るった。


刃が首筋に触れた瞬間、クレヴァスは悟る——


あぁ…。気付いてない。だけど、俺はここで負ける……

死ななくても、あの人の右腕になって初めて——“恥を晒す時が来た……


その瞬間——

出し切れる全ての魔力が集束し、澄み切った淡い緑色の風と、どこまでも続く深紅の炎が混ざり合いながら、空気を押しつぶかの如く、魔力が噴き出した。


ゼフィリー達が戦っていた洞窟内の結界となっていた壁は、易々と破壊され、貫通するように燃え上がる炎が全体を包み込んだ。


数秒後。

杖が(ひび)の入った箇所から、バラバラに砕け魔力を使い果たしたゼフィリーは、その場で座り込んだ。


「大砲か、それ以上の魔力で押し切ったのに……僕の杖を破壊するまで余裕があったなんて……」


彼には見えていた。

首筋に刀が触れた瞬間——確実に振り斬られる前に、魔法で投げ飛ばされるように宙を待った。


しかし、炎に身体を焼かれながら型を使って、正確に(ひび)を狙っていたことが。


弱りきった霞む呻き声を上げながら、クレヴァスが地に着いた左手から、洞窟内を伝うように光を広げる。

着物は裾や丈が黒く焦げ、右半身は赤く腫れ上がり火傷を負っていた。


「……まぁ、ここまでやれるなら、流石に俺は要らないよね……?」


徐々に火傷痕も小さくなり、刀を地に突き刺して、クレヴァスはゆっくりと立ち上がった。


「手伝いに関しては、気持ちだけ受け取っておく」


全身が震え、歩くのも一苦労のようだった。

刀を一歩一歩進む度に突き刺し、洞窟を出た。


最後に、ゼフィリーと戦った者として、ひとつの助言を言い残した。


「それと次の訓練をやりたいなら、杖が無くても……戦えるようになれ……魔法使いは剣士と違って、武器が無くても魔力さえ消えなければ……戦える特権を持ってるから」



こうして、ゼフィリーとクレヴァスの不思議な決闘は幕を降ろした——

最後まで読んで頂きありがとうございます!

次回もお楽しみに

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