Death Game: Black Frozen(デスゲーム:ブラック•フローズン)アイレン・セウリー編
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
土、火、水、風の四属性をメインに、二つのクラスに振り分けられた彼等は、各自提示された課題をこなして”自分の価値を証明する戦い”を繰り広げる——!
生き残るのは真の才能がある人間のみ
誰が生きて誰が死ぬのか完全オリジナル作品
《Death of the Academia》をお楽しみください
一進一退の攻防を繰り広げた、サイラス対マリーナ。
サイラスは最後に受けた肩の傷を癒やして貰いながら、マリーナからの評価を静かに聞く——
「……第二の吹雪を起こした時点で、俺は負けていたか?」
「……そうね。でも——」
一拍置いて、彼女は言葉を繋いだ。
「……あの吹雪をもっと強化できれば、本番の対人戦ではきっと役に立つわ」
癒しの術が完了し、肩の痛みが消えていく。サイラスが静かに身を起こすと、マリーナが手を差し出していた。
その手を一瞬だけ見つめ、サイラスは何も言わずに取った。
淡く交わされた信頼の余韻だけが、アリーナの中心に残った。
「それじゃあ。次で最後——アイレン・セウリー。準備が出来たらアリーナへ」
観客席で”回ってきてしまった”という表情を浮かべながら、アイレンは返事をした。
「……分かり……ました」
先程、口喧嘩をしたネリカには、蔑むような目で見られながら、観客席入り口の階段を降りてアリーナへ足を運んだ——
「なんだか死人みたいな顔をしちゃって——どうしたの?」
「大丈夫です……気にしないでください……」
今にも消えてしまいそうな掠れた声、内側から感じる物騒な魔力の気配。
”謎多き青年だ”
観客席で見守るサイラスが、ネリカに問い詰める。
「お前……絶対あいつに何かしただろ」
「何かって何? 先に攻撃してきたのは向こうだし。それにあの感じ、僕との口喧嘩が原因じゃないみたいだ——」
静寂が訪れる中、氷の花が宙を舞い罅が割れるのと同時に、禍々しいオーラがコロシアムを静寂と包んだ。
マリーナは、アイレンから感じる魔力に気付くと、低い声で問いただす。
「……貴方、その力どこで手に入れたの……?」
「分かりません」
淡々と答えるアイレンに段々と、恐怖を覚えていくマリーナ
彼女が感じたのは水属性だけでは無く、現段階で全教員専門外の”闇属性”の気配を感じ取ったからだ。
それでも、彼女に「授業を中断する」という選択肢は存在していなかった。
「まぁ、良いわ。そのスタイルで模擬戦を行うなら——許します」
「ありがとうございます」
アイレンの掌に集まった水が、音もなく膨れ上がる。
凝縮された水塊は、まるで砲弾のように空気を歪ませながら形成され、至る所に闇がが絡みつく。
——そして解き放たれた瞬間、全てを飲み込むような甲高い音を立てながらマリーナへ迫った。
「打ち抜け……」
マリーナは刀で受け止めるも、砲弾と闇の力の重さが体全体を覆った。
「中々、”この攻撃は慣れないものね”……」
アイレンと視線を交えると、彼の目には光は宿らず、言葉も交わさず、水柱を起こすと次第に姿を消した。
「ま、待ちなさいっ!」
透明感のある彼はその見た目を利用し、目立たない攻撃を仕掛けてくることは入学前の、面接の時に自ら話していた。
「だからって……! ここまで見えないのは反則なんじゃ」
ネリカと違って魔力探知がうまく出来ない。マリーナの鼓動は、今までで一番早く動いていた。
「……良い加減に………しなさい!」
再びマリーナが怒り大太刀を薙ぎ払うと、サイラス以上にコロシアムが凍土に変わり、アリーナには氷山を作る程の威力だった。
「……驚かないで……ちゃんと、ここにいるから……」
後ろから、脳に直接語りかけられるように、響く声に振り向くと、氷山の先端に静かにアイレンが立っていた。
「ッ———」
姿を確認した瞬間に、マリーナは強烈な蹴りを入れられる。
そのままアイレンは魔力を込めた右手をマリーナに差し出し、氷の刃と禍々しい闇の気配を纏って放とうとした。
——ドックン……
アイレンの術が放たれる寸前、マリーナは体を捻ってその一撃を避けた。
「……なんで君はいつも、”僕の言う事を聞いてくれないの”」
氷山は解かれバタッと力なく倒れたアイレンに、マリーナは大太刀で背中を貫いた。
「……本当に恐ろしい子を招集してしまったものだわ。早めに決着をつけないとね」
一連の戦いを見たサイラスは驚愕の表情を浮かべ、ネリカはやっぱりという表情を浮かべていた
「なぁ……ネリカ」
「……何?」
「お前の言った通り、あいつは口喧嘩なんかで……あんなふうになった訳じゃねぇって自然と分かる——」
闇が裂け、氷が砕かれ、混ざり合った魔力が閃光となって放たれる。
雷鳴のような轟音とともに放たれたその砲撃は、何度も激しく憎悪に塗れて幾度も、マリーナに向かってアイレンは杖を突きつける。
「大分対応出来るようになってきたけれど、このまま暴走でもされると大変そうね……」
マリーナが必死に頭を回転させて、早急にアイレンとの対戦を終わらせる方法を考えていた。
——しかし彼は無慈悲に残酷に冷徹な声で詠唱を唱え始める。
「冷たい水、続く常闇。今ここで汝の願いを聞き届けよう——氷に咲いた華が、漆黒の闇を抱いた大爆発……」
杖から放たれた魔法は、氷の結晶と闇の爆発がアリーナを飲み込み、マリーナもその爆発に巻き込まれた。
観客席で見ていたネリカは、先程まで知っているような顔を浮かべていたが、術を見た瞬間に驚愕した表情へ変わった。
「……こんな事ってよ」
「なんて事だ……アイレン、君は一体何者なの?」
段々とアリーナの、濃い紫の煙が晴れマリーナが呪いのような紫の斑紋が血管のように皮膚を這い、じわりと広がり体中を疼きながら横たわっていた。
「……うぅ………くぅぅぅ……」
「呪い自体に効果はありません……ただ、気持ちの悪い感触が体を巡るだけです」
「……これで勝ち点は同点……ねぇこれ、回復が効かないわ……解除してくれないかしら?」
「いいえ、貴方にはこのままでいてもらいます」
「———は?」
アイレンの予想外の回答にマリーナは一気に凍りつく。
流石に危険を感じ取ったネリカが静かに呟く。
「もう、このままじゃ取り返しが付かなくなる。その前に僕が……」
「このままラスト一点、貰います」
杖を再びマリーナに向けて魔力が集中する。
その瞬間——観客席から、ネリカがマリーナ戦で使っていた氷のダイヤが、アイレンめがけて放たれた。
「マリーナ先生には申し訳ないですけど、アイレンは再試験という事で僕の独断で、今回は止めさせてもらいます」
ネリカの術がアイレンにしっかりと命中、衝撃で壁に体を打ちつけたアイレンは、そのまま壁から地面へ滑り落ちマリーナの呪いも姿を消した。
急ぐようにサイラスとネリカが観客席の階段を降りて、アリーナへ走ってくる。
「先生! 怪我ねぇか……?」
「えぇ……なんとか。ネリカのお陰で助かったわ」
「ご無事で何よりです。それでアイレンの再試験は……」
向かいで倒れているアイレンを覗き込むように、ネリカは問いかける。
「ごめんなさい。その件については、もう少し考えさせてもらうわ」
流石にマリーナも予想をしていなかった展開が続き、声にいつもの元気な雰囲気はなく、酷く疲れている声だった。
「取り敢えず一度ヴァンティス達と合流しましょう。二人とも手を貸してちょうだい。貴方達の試験結果は、ちゃんと反映して考えるから安心して大丈夫よ」
——こうして三人はアイレンを担いでコロシアムを後にした。
そして、ヴァンティスとフラーナを交えての緊急教員会議が、静かに幕を開けるのだ——
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