Death Game: Open the New Gate(デス・ゲーム: オープン・ザ・ニュー・ゲート)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
遂に、記憶持ちへと進化していない{ゼオン、エニアル、サイラス}を学園から連れ出した。
逃げる選択肢を下し、次なる舞台へ駒を進める生徒たち。
そこで彼らは、不思議な空間へと辿り着く。
命懸けの一撃。そこに立つ英雄は——
《Death of the Academia》をお楽しみください
偽の心臓から皮膚を通じて、煮えたぎるような蒸気を噴き上げる。
エニアルの叫びも、次第に弱まっていった。
アラリックは一人、自問自答を繰り返す。
あの日、リゼルドと決別することになったのはどうしてか——
再会した瞬間から、アーサーが死んだことも、リゼルドが復活させるか否かを迷っていることも分かっていた。
それでも、過去の自分の記憶と向き合った後で、師を蔑むように言われたことだけは許せなかったのだ。
僕があのまま逆上することなく、『命に代えてもアーサーを守る』と言っていれば……今の現実も少し変わったかもしれない。
その時。
不意に目を凝らすと、穏やかな夢でも見ているように、ヴェイルと同じ黒ローブをまとったソニントの影が、浮かび上がった。
そして、温かな光がアラリックを包み込み、失われた右足首に肉を戻していく。
エニアルを覆い隠すように左腕を伸ばすと、右目だけが赤く滲んだ世界に変わっていることに気付く。
ただ魔力を集束させるだけで、目眩とともに全身に痛みが走る。
それでも、地を踏みしめた。
下半身に重心を沈め、決断の時を待つ。
その瞬間――
エニアルの魔力が消えると、そのまま一直線に地へ落ちる。
同時にアラリックの掌が、魔力で満たされると十字架を描く光が体を貫いた。
淡く透ける光が、偽りの心臓を押し上げるように包み込む。
結界を裂く二条の閃光が交わり、花火のように眩い光が、外の世界の空を覆いつくした。
その光の中で、リオライズは落下してきたエニアルを抱きとめた。
同時に、アラリックの体が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
「アラリックさん……! しっかりしてください!」
リオライズの呼び声に、アラリックの体が微かに反応する。
途切れそうな呼吸、力尽きそうな光の魔力を手に――腕を伸ばした。
刹那。
流星のような声が、意識の奥へと落ちてくる。
それ以上、その魔力を使わないで――!
聞き馴染みのある声に反応する間もなく、天から無数の雷鳴が降り注ぐ。
しかし瞬きほどの出来事。轟音も、焦げるような匂いも、すぐに消えた。
辺りにはもう、禍々しい呪いの気配はなく、淡い光が脈動していた。
「ごめんね。――みんな待たせてしまって……」
その声が響いた瞬間、風が吹く。
空を見上げて目にしたものは……あの日、決別したはずの男——リゼルドの姿だった。
リゼルドが、静かな光の残滓の中をゆっくりと舞い降りた。
言葉を交わさず、ただ視線だけが互いを射抜く。
「ごめんね、アラリック。こんなボロボロになるまで戦わせて……」
「――別に」
短い返答の裏に、押し込めた言葉があった。
本当は自分も『ごめんなさい』と謝りたかったが、気まずさに目を逸らし、強がりを言うことしかできなかった。
アラリックの想いに気づいたように、リゼルドは話を変えて視線を泳がせる。
「ひとまず、呪いにかかっていた子たちは大丈夫だ。それで——敵はあいつでいいの?」
目線の先には、時間を操る能力者。
そして、この試練を招いた張本人でもあるホワイトに向けられていた。
「敵と断定するより、尋問したほうが手っ取り早い。謎が多すぎて、殺すより先に聞きたいことが山ほどあるからな……」
アラリックの言葉に、屋敷は緊張の空気に包まれる。
全員の視線がホワイトに集まると、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
「こちらに……」
割れた窓からリゼルドを伴い、時間静止の家へ足を踏み入れる。
そこには、静寂と死臭が入り混じる、老若男女の屍が転がっていた。
鼻を突くような腐臭に、リゼルドは思わず口元を覆い、ホワイトに問いただす。
「これは、君がやったの?」
モノクルに反射する自分の顔。
ホワイトの怪しげな糸目が、小さく見開かれ、低く答えた。
「えぇ。私は、《世界の闇》などと言った事情は知りませんでしたが、自分を信仰する者の願いは叶えたいと思ったのです」
信仰者。おそらく、この世界の選別から逃れようと思ってきたのだろう。
時間停止の中なら、誰も邪魔をしてこない安全な場所。
必ず、助けが現れると信じて待ち続けたが――結果的に悲惨な結末を迎えた。
「君と違って、ここへ来た人たちは神でもなければ、優れた能力者の持ち主ではなかった」
時間停止は名前の通り、時が止まっても、術者であるこの者以外は、体の成長や年齢の成長を止めることはできなかった。
「もう、解放してあげよう……」
赤子をあやすようにホワイトに呼び掛けると、ゆっくりと頷いた。
屍の民間人の前に立ち、僕は掌に光をまとわせると、包み込むように天へと弔う。
雪のように溶けゆく魂に、祈りを込めて見つめていた。
「私は、自分だけが良ければ幸せだと思っていました。しかし実際には、沢山の人間を見殺しにしていた……罪を償うため、彼らに助力するつもりです」
一瞬の沈黙をおいて、皮肉じみた言葉を並べた。
「それは言葉じゃなくて、行動で示して。まず、負傷した生徒たちの治療……その恰好と言い方なら、傷の完治くらいどうってことないでしょ?」
「当然です。私は何千年と生きた医者ですから――」
最後まで読んでくれてありがとうございます。




