Death Game: Undead Doctor(デス・ゲーム: アンデッド・ドクター)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
遂に、記憶持ちへと進化していない{ゼオン、エニアル、サイラス}を学園から連れ出した。
逃げる選択肢を下し、次なる舞台へ駒を進める生徒たち。
そこで彼らは、不思議な空間へと辿り着く。
中へ散策しに行く二人の青年は、不気味な聖堂と、一人の人間に接触して——
奴は、敵か味方か——
《Death of the Academia》をお楽しみください
家の中に入ると、ほんのり甘酸っぱい香りが鼻を貫通する。
死体に聖水でも振りかけたのか、ただの果実の匂いなのか正体は分からない。
扉をくぐって右を向くと、細く長い通路が暗闇の奥へと伸びていた。
一歩。また一歩と進むたびに、足取りが悪く、泥沼に沈むように重い感覚だった。
物音ひとつしない不思議な家は――心臓の音や、血流の音すら耳に届くほど静寂そのもの。
どれだけ歩いても景色は変わらず、黒い扉が並んでいるだけ。
次第に視界が揺らぎ、めまいが世界を傾ける。
「ちょっと、止まって……」
ゼフィリーが壁に背を預け、崩れ落ちる。
唇は白く、顔色は青ざめていた。
今にも意識を手放して姿に、アラリックが眉を細めた。
「………ごめん、気持ち悪くなっちゃって。こんなんじゃ、生き残ることも厳しくなるのに」
無音の世界で耐えられるのは、およそ三十分程度……
ましてや時間を操れる能力者なら、それくらいの小細工など造作もないだろう。
「ねぇ。幻覚……かな? あの白い扉、変な感じがする」
ゼフィリーが指を震わせる。
廊下の突き当り――ただ一つだけ、異質な白い扉が佇んでいた。
ドアノブは黒いレバーで施錠され、外から入って来る者を封じている。
右側から差し込む小さな光が、部屋を照らしていた。
「間違いない。万一、何もなければ一度外に出て、体制を立て直す。限界がいつ来るか、分かったものではないからな……」
ゼフィリーは杖を支えに立ち上がろうとする。
呼吸は浅く、ふらつく様子にアラリックが声で止めた。
「お前は、ここで休んでおけ。最悪の事態に備え、先に外に出ていても構わん。いずれにせよ、ここから出ない限り……我々に勝ち目はないのだから」
「……分かった。何かあれば、ヴェイルたちにすぐ呼び掛ける」
二人の視線は、まるで門番のように廊下の果てで待ち受ける白い扉に注がれる。
アラリックが重い足を運び、ゼフィリーは遠ざかる背を静かに見届けた。
匂いは徐々に濃さを増し、足取りは軽くなる。
果てしなく歩き続けた廊下が嘘のように——白い扉までは、ほんの数分の体感に思えた。
術者本人が、僕を導くように――
黒い施錠は船の舵輪を模している。
その中央に鍵穴を見つけた僕は、レイピアの切っ先を差し込み、静かに耳を澄ませた。
だが、扉が異様に厚いせいか、中からはひとつの音も響かない。
聞こえるのは自分の体内の音だけ。
一向に聞こえる自分の体内の音に苛立ちを覚え、素早く鍵穴を動かすと――
カチャっと音を鳴らして、たちまちレバーが内側にしまり、鍵が開いた。
重たい扉が耳障りな軋みを立てながら覗いた先は、大聖堂のような空間だった。
両翼の長椅子には、祈るように項垂れた者たちが鎮座していた。
しかし、その者たちは――生きているのかも怪しく、微動だにしない。
ここは宗教施設……? 時間操作を信仰する団体など、聞いたことはないが。
そもそも、主となる神はどこに……
刹那。外で大きな鐘が鳴り響き、鳥の群れが一斉に羽ばたく音が聞こえた。
僕らにとって、一瞬の騒音が救いに思えるほど、時間の感覚はおかしくなり始めていた。
「さぁ、さぁ、さぁ! 皆さん、今日も新しい御客人が見えておりますよ」
突如、神と思われる存在が大聖堂の中央で信徒たちに呼び掛ける影。
その声は女のように高く、どこか掠れたような男の声色も孕んでいる。
暗がりで顔は見えないが、視線だけは確かにあっている気がした。
僕は咄嗟にレイピアを構え、重心を右の窓へと傾ける。
いつでも脱出できるように、退路を確保しながら。
「……貴方はどうやら、私を信仰して下さる方ではないのですね。でも大丈夫……すぐに分からせてあげましょう!」
影の頭上に、淡く二本の時計の針が浮かび、高速で回転を始めた。
次の瞬間、祈りを捧げていたはずの人喰いアンデットの信徒たちが、僕へ飛びかかってきた。
「ゼフィリー聞け、時間が動いている……! 今のうちに外へ脱出を!」
声を最大限張り上げて叫ぶと、ゼフィリーも即座に反応し、足音を殺して出口へ駆け出す。
甘酸っぱい匂いの正体は、信徒たちから漏れていた腐臭だった。
迫る奴らの手に、僕はレイピアを一閃、薙ぎ払うと——アンデットたちは血も吐かずに吹き飛び、壁に激突して硬直したように倒れ込む。
窓を背に、僕は外へ身を投じた。
甲高い破砕音が響き、空気を裂いて無数のガラス片が宙に舞う。
しかし奇妙なことに、破片は落下せず、その場に留まって静止している。
おそらく、建物の一部の時間は、いまだ止まったままなのだ。
そしてもう一つ。
窓ガラスが落ち、自身の体も落下しかけているということは、ここは一階ではなく、上階にいる証拠。
あの長い廊下を渡っていた最中に、術をかけられていたのだろう――
「アラリック!? 何があった……!」
サイラスたちに真実を話していたヴェイルが、物音に気づいてこちらへ駆け寄る。
剣を地に引きずりながら受け身を取ると、すぐに目の前で見た光景を話した。
「この空間を創り出した術者と接触した。それに信徒らしき人々が、人食いアンデットとして操られている」
だが、実際奴が戦うのか、アンデットたちに始末を任せるのか定かではない。
僕らの横で、リオライズとネリカがサイラスたちを守るように武器を構えて、周囲を警戒する。
すると、不気味に聞こえる乾いた手拍子。
割れた窓から忍び込むように意図的に間を空けた音を聞いた。
「白衣の男。あれは、医者か……?」
逆光で顔は見えない。
それでも、盛りのある長い金髪が揺れているのは分かった。
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