表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/115

Death Game: Undead Doctor(デス・ゲーム: アンデッド・ドクター)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


遂に、記憶持ちへと進化していない{ゼオン、エニアル、サイラス}を学園から連れ出した。


逃げる選択肢を下し、次なる舞台へ駒を進める生徒たち。

そこで彼らは、不思議な空間へと辿り着く。


中へ散策しに行く二人の青年は、不気味な聖堂と、一人の人間に接触して——


奴は、敵か味方か——


《Death of the Academia》をお楽しみください

家の中に入ると、ほんのり甘酸っぱい香りが鼻を貫通する。

死体に聖水でも振りかけたのか、ただの果実の匂いなのか正体は分からない。


扉をくぐって右を向くと、細く長い通路が暗闇の奥へと伸びていた。


一歩。また一歩と進むたびに、足取りが悪く、泥沼に沈むように重い感覚だった。


物音ひとつしない不思議な家は――心臓の音や、血流の音すら耳に届くほど静寂そのもの。


どれだけ歩いても景色は変わらず、黒い扉が並んでいるだけ。

次第に視界が揺らぎ、めまいが世界を傾ける。


「ちょっと、止まって……」


ゼフィリーが壁に背を預け、崩れ落ちる。

唇は白く、顔色は青ざめていた。


今にも意識を手放して姿に、アラリックが眉を細めた。


「………ごめん、気持ち悪くなっちゃって。こんなんじゃ、生き残ることも厳しくなるのに」


無音の世界で耐えられるのは、およそ三十分程度……

ましてや時間を操れる能力者なら、それくらいの小細工など造作もないだろう。


「ねぇ。幻覚……かな? あの白い扉、変な感じがする」


ゼフィリーが指を震わせる。

廊下の突き当り――ただ一つだけ、異質な白い扉が佇んでいた。


ドアノブは黒いレバーで施錠され、外から入って来る者を封じている。

右側から差し込む小さな光が、部屋を照らしていた。


「間違いない。万一、何もなければ一度外に出て、体制を立て直す。限界がいつ来るか、分かったものではないからな……」


ゼフィリーは杖を支えに立ち上がろうとする。

呼吸は浅く、ふらつく様子にアラリックが声で止めた。


「お前は、ここで休んでおけ。最悪の事態に備え、先に外に出ていても構わん。いずれにせよ、ここから出ない限り……我々に勝ち目はないのだから」


「……分かった。何かあれば、ヴェイルたちにすぐ呼び掛ける」


二人の視線は、まるで門番のように廊下の果てで待ち受ける白い扉に注がれる。

アラリックが重い足を運び、ゼフィリーは遠ざかる背を静かに見届けた。



匂いは徐々に濃さを増し、足取りは軽くなる。

果てしなく歩き続けた廊下が嘘のように——白い扉までは、ほんの数分の体感に思えた。


術者本人が、僕を導くように――


黒い施錠は船の舵輪を模している。

その中央に鍵穴を見つけた僕は、レイピアの切っ先を差し込み、静かに耳を澄ませた。


だが、扉が異様に厚いせいか、中からはひとつの音も響かない。

聞こえるのは自分の体内の音だけ。

一向に聞こえる自分の体内の音に苛立ちを覚え、素早く鍵穴を動かすと――


カチャっと音を鳴らして、たちまちレバーが内側にしまり、鍵が開いた。

重たい扉が耳障りな軋みを立てながら覗いた先は、大聖堂のような空間だった。


両翼の長椅子には、祈るように項垂れた者たちが鎮座していた。

しかし、その者たちは――生きているのかも怪しく、微動だにしない。


ここは宗教施設……? 時間操作を信仰する団体など、聞いたことはないが。

そもそも、主となる神はどこに……


刹那。外で大きな鐘が鳴り響き、鳥の群れが一斉に羽ばたく音が聞こえた。

僕らにとって、一瞬の騒音が救いに思えるほど、時間の感覚はおかしくなり始めていた。


「さぁ、さぁ、さぁ! 皆さん、今日も新しい御客人(信仰者)が見えておりますよ」


突如、神と思われる存在が大聖堂の中央で信徒たちに呼び掛ける影。

その声は女のように高く、どこか掠れたような男の声色も孕んでいる。

暗がりで顔は見えないが、視線だけは確かにあっている気がした。


僕は咄嗟にレイピアを構え、重心を右の窓へと傾ける。

いつでも脱出できるように、退路を確保しながら。


「……貴方はどうやら、私を信仰して下さる方ではないのですね。でも大丈夫……すぐに分からせてあげましょう!」


影の頭上に、淡く二本の時計の針が浮かび、高速で回転を始めた。

次の瞬間、祈りを捧げていたはずの人喰いアンデットの信徒たちが、僕へ飛びかかってきた。


「ゼフィリー聞け、時間が動いている……! 今のうちに外へ脱出を!」


声を最大限張り上げて叫ぶと、ゼフィリーも即座に反応し、足音を殺して出口へ駆け出す。


甘酸っぱい匂いの正体は、信徒たちから漏れていた腐臭だった。

迫る奴らの手に、僕はレイピアを一閃、薙ぎ払うと——アンデットたちは血も吐かずに吹き飛び、壁に激突して硬直したように倒れ込む。


窓を背に、僕は外へ身を投じた。


甲高い破砕音が響き、空気を裂いて無数のガラス片が宙に舞う。

しかし奇妙なことに、破片は落下せず、その場に留まって静止している。


おそらく、建物の一部の時間は、いまだ止まったままなのだ。


そしてもう一つ。

窓ガラスが落ち、自身の体も落下しかけているということは、ここは一階ではなく、上階にいる証拠。


あの長い廊下を渡っていた最中に、術をかけられていたのだろう――


「アラリック!? 何があった……!」


サイラスたちに真実を話していたヴェイルが、物音に気づいてこちらへ駆け寄る。

剣を地に引きずりながら受け身を取ると、すぐに目の前で見た光景を話した。


「この空間を創り出した術者と接触した。それに信徒らしき人々が、人食いアンデットとして操られている」


だが、実際(術者)が戦うのか、アンデットたちに始末を任せるのか定かではない。


僕らの横で、リオライズとネリカがサイラスたちを守るように武器を構えて、周囲を警戒する。


すると、不気味に聞こえる乾いた手拍子。

割れた窓から忍び込むように意図的に間を空けた音を聞いた。


「白衣の男。あれは、医者か……?」


逆光で顔は見えない。

それでも、盛りのある長い金髪が揺れているのは分かった。

最後まで読んでくださりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ