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Death Game: New Horizons(デス・ゲーム:ニュー・ホライゾンズ)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


ネリカの記憶持ちに復活した真意を知るも、思わぬ形で決別してしまったリゼルドとアラリック。


そしてグランの死を通じて、記憶持ちへと進化を遂げるゼフィリー。

一方で——レンリーには、大きな問題が立ちはだかる。


I組の生徒へ課せられた、最難関の試練を彼らは突破できるのか——


《Death of the Academia》をお楽しみください

俺は一人レンリーを教室に残して、ストリクスの寮部屋をノックする。

扉越しで聞こえてくる、擦り切れた声は——今にも消えそうで、かつての自分を思わせた。


「入って良いか?」


「…………どうぞ」


中へ入ると、ダウンケットに全身を包み、背を向けて寝込むストリクスの姿。

グランが死んでから、思考を巡らせるたび——こいつの心は荒んでいった。


「どうだ、具合は……少し落ち着いたか?」


横たわる、ストリクスの背中越しに問いかける。

返事はなくとも、漂う喪失感で答えは分かった。


そして、低く小さな声がベッドの奥で呟く——


「昨日の夜……解散したあと。ゼフィリーたちに何かあったの?」


昨晩――ネリカを奪還し、グランの死が確定した後、俺たちは寮へと帰って行った。

下の階へと歩を進める途中で、ふと気づく。


今まで感じていた呪いの気配が少ないことに気が付いて――


「術者……つまり呪いをかけた張本人のグランが死んだことで、ゼフィリーとレンリーの入学前の記憶が解放された」


ストリクスが、ベッドの上でこちらを振り返ろうとする。

しかし、非常な現実を仲間として――戦友として、伝えなければならない。


「……と思ったんだが、レンリーは違った。入学前の記憶も……入った後の記憶さえも、全て消えてしまった」


その言葉に、ストリクスの動きが凍りつく。

やがて膝を抱え込み、小さく身を縮めるように蹲った。


「――だから、本人の意思を聞いて……レンリーは学園から帰すことにした。もし望むなら、お前も……」


お前も、精神的に限界なら――一緒に帰ってもいいんだ。

そう言おうとした時、ストリクスが先に言葉を紡ぐ。


「ありがとう、レンリーのこと。――でも、僕は大丈夫だ……乗り掛かった舟、必ず前線復帰を約束するよ」


背を向けたままでも伝わってくる、微かな熱と灯。

この先は、ストリクス一人でも――きっと大丈夫だと信じられる。


「……分かった。元気になったら、また顔を出せよな。――期待してる!」



こうして俺は、寮部屋を出て――扉の前で次の作戦を考え始めた。


レンリーが記憶を失った真相を探らなきゃならない。

それに……グランが死んだ理由も、必ず突き止めてやる——


そんな思考の最中、隣の寮部屋からアラリックが姿を現した。


廊下へ一歩踏み出した瞬間に分かる。

昨夜よりもずっと深い闇が、その佇まいから滲み出ているのが。


どう声を掛ければいいか迷ってしまう。

だが、視線が絡んだ瞬間——逃げ場を失ったように言葉が零れた。


「……おはよう、アラリック。昨日は……よく眠れたか?」


沈黙が、廊下の空気を張り詰めていく。

気まずさと、不用意に踏み込んでしまった後悔が、胸を締めつけた。


「――問題ない。それより……何か企んでいるようだが、考えでもあるのか?」


低く落ち着いた声色の裏に冷たさを感じ、心臓が跳ねる。


「あ……あぁ。この後、ゼフィリーを交えてⅠ組で会議を開こうと思ってる。――解決しなきゃいけないこと、謎を解かなきゃいけないことは……山ほどあるからな」


アラリックは、まるで未来を見通しているかのように話を受け止めてくれる。

頼もしさに安堵しながらも、背筋を冷やすような不安が胸を擦り合わせるように交差した。


「――その会議、僕らがいれば始められそう?」


第三者の声が耳に届く。

振り返ると、曲がり角の陰から――ゼフィリーとレンリーが顔を覗かせていた。


「二人ともいいところに来た! ストリクスは休みだけど、当事者がいれば十分だ。――早速、会議室に案内する!」


努めて明るく振る舞ったものの、レンリーの表情にはやはり影が覗いていた。

それでも隣のゼフィリーに小さく背を押され、しぶしぶながらも前向きな返答が返ってくる。


「……確かに、貴方たちには借りがありますし。最後くらいは、役に立ちます」


「よし、決まりだな! 寮の奥に隠し扉があるんだ。仕掛けも単純だし、すぐに入れるぜ」


案内したのは、一見すればただの壁。

最初に俺が知った時も信じられなかったほど、周囲と完全に同化している。


グランが死んだ後でも、消えてはないよな……?


確かめもしないまま自慢げに話してしまった自分を内心で叱りながら、思い切って壁に手を押し当てた。


すると――意外にも、会議室へと続く回転扉を潜り抜けることができた。

幾度となく開けてきたはずの扉なのに、状況が変わるだけで――再び足元から力が抜け、思わず腰を落としてしまう。


「ほら……! 入れた、中は――」


慌てて立ち上がり、手探りで照明を点ける。

白光が部屋を満たすと同時に、そこに広がったのは、グランが死んだ今なお——崩れることなく残り続ける会議室の姿だった。


「大丈夫そうだ。問題ないぞ!」



円卓に並んだ席へ、それぞれが静かに腰を下ろす。

場を仕切る役目を担う者として、俺は最初に口を開いた。


「まず、最初の議題は――レンリーの記憶が無くなった理由についてだ」


本当に、グランの術によって記憶が奪われたのか。

あるいは、精神的な衝撃で記憶を失っただけなのか。


今後、同じ現象が他の仲間に起こる可能性もある。

その時に備え、原因を突き止めておかなければならない。


「レンリーは無理をする必要はない。――思い出せそうなことがあったら、その時に教えてくれ。……それで、二人はどう考える?」


短い沈黙。

アラリックとゼフィリーが視線を交わし、思案の空気を浮かべる。

やがて、ゼフィリーが真っ先に手を挙げ、意見を口にした。


「僕の考えでは――『同属性による呪いの発動』……それが原因だと思う」


真剣な眼差しで告げるゼフィリーを見つめ、俺は続きを促す。


「どういう意味だ?」


「アラリックは、元々呪いを解いていたから影響を受けなかった。けれど先生にとって、同属性であることこそが最大の脅威だったのかもしれない」


「――だから、自分が死んでも俺らが力を得ないように……予め仕組んでいたってことか」


死を前提にした自爆――。


「あとは……記憶は戻ったけど、騙されていたショックが大きくて……記憶が一部消えるという、単純な原因の可能性もある」


アラリックが静かに言葉を重ねた瞬間、脳裏にひとつの光景が閃いた。


ある。ひとつだけ、レンリーの記憶を戻す方法が――


「追憶の海底に行って、ソニントの記憶を見せれば元に戻るんじゃないか……?」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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