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Death Game: Shaped by Actions(デス・ゲーム:シェイプト・バイ・アクションズ)

十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー


ネリカの記憶持ちに復活した真意を知るも、思わぬ形で決別してしまったリゼルドとアラリック。


そしてグランの死を通じて、記憶持ちへと進化を遂げるゼフィリー。

一方で——レンリーには、大きな問題が立ちはだかる。


I組の生徒へ課せられた、最難関の試練を彼らは突破できるのか——


《Death of the Academia》をお楽しみください

朝早く、リオライズが見舞いに来てくれた。

けれど彼の口から告げられた一言は、胸の奥に鋭い釘が打ち込まれるようだった。


「……じゃあ、僕のせいでアーサーさんが、死んだ………?」


あの時、僕に見えていた幻影も、夢の中で囁いた声も。

全部――死後のアーサーさんだった。


過去の情景が脳裏に過った瞬間、堪らずベッドの上で吐き出していた。

鉄のような粘り気のある味が口に広がり、喉が痙攣して嗚咽が止まらない。


「ネリカさん……! 一度、口をゆすぎましょう」


リオライズがベッドから僕を抱き起こし、右腕を肩に回して支えてくれる。

多分、僕がアーサーさんのことになると、水を操れなくなるのを、分かってくれているのだろう。


蛇口をひねる音を聞いた途端、抑え込んでいた衝動が弾ける。

飢えた獣のように両手を突っ込み、流れ落ちる水で口を何度もゆすいだ。


徐々に、狭い口内で蠢いていた気持ち悪さも、水で流されていく。

動揺で乱れていた呼吸も、ようやく整いはじめた。


「……ネリカさんは、『自分のせいで、アーサーさんが死んだ』と言いましたが——それは違う」


洗面台の鏡に映るのは、青ざめ、疲弊しきった自分の顔。

その背後に立つリオライズの言葉に、思わず顔を上げて彼を仰いだ。


「どういうこと……?」


「アーサーさんは、自分の命と引き換えに仲間を救い、未来を次の“記憶持ち”に託したんです。俺たちが世界を元に戻せると、最後まで信じて——」


心のどこかでは、分かってた。

アーサーさんと会えないかもしれないと――


けれど、だからといって「代わりになる」なんて到底できない。


「……僕、Ⅰ組のみんなに謝りたい。それから……アーサーさんを復活させられる方法を、必ず探してみせる……!」



決意の声に呼応するように、寮室の扉が静かに軋みを立てて開いた。

リオライズが瞬時に臨戦態勢を取り、空気が緊張に凍り付く。


蛇口から水滴が一つ、ぽたりと落ちた瞬間――

扉の隙間から、不意に顔が覗き込んだ。


「よっ! 怪我の具合、大丈夫か」


紅蓮の瞳を輝かせ、漆黒のローブを纏ったヴェイルが立っていた。

その姿を見た瞬間、反射的に胸の奥が熱を帯びる。


扉が閉められた瞬間に、僕はアーサーさんのことで、咄嗟に頭を下げていた。


「ご、ごめんなさい……! リオライズから聞いたんだ。みんなが尊敬していたアーサーさんが……死んで、僕に能力を託したって」


涙が零れそうになるのを必死で堪えながら、言葉を絞り出す。


「無責任かもしれないけど、僕には背負えない……能力を返すためにも――アーサーさんに直接会って、お礼を言いたい……!」


恥も外聞も捨てて、ヴェイルの足元に縋るように土下座をする。


「僕は、仲間のためなら何でもする! だからどうか、一緒に復活方法を探して……協力してください!」


膝の関節が床板を擦り、そこから全身を駆け上がるように熱がこもる。

その熱を抱えたまま、僕は額を地に押しつけ、全身で懇願した。



「……覚悟は、受け取った。やってほしいことは山ほどあるが――お前と同じ志を抱く奴の頼みを、無下にはできねぇ」


ヴェイルの小さくも力強い声が降り注ぐ。


扉が再び軋む音が聞こえ、おそるおそる顔を上げた自然の先に立っていたのは—— 暗闇の中から光を探すような眼差しを宿した、やつれたアラリックだった。


「アラリックも、アーサーを復活させたいと願う……生徒の一人だ!」


自然と土下座を解き、僕は彼と正面から顔を見合わせる。

言葉を交わす前に、昨日の救援への礼が口を突いた。


「昨日は、本当に助けてくれてありがとう。それで……アーサーさんのことで、何か困りごと?」


互いに目を逸らさず睨み合う。

静まり返った室内に、風が吹き抜けるような微かな音が靡いた。

アラリックの視線が、嘔吐物で汚れたシーツをちらりと捉え、やがて彼は口を開いた。


「蘇生方法の知恵を獲得した後で……アーサーの復活を反対する仲間の説得を——貴様にはやってもらいたい」


その願いの一言に、僕は息を呑む。

背筋を氷でなぞられたように冷たくなり、ルームウェアの裾を無意識に握りしめていた。


「その……仲間っていうのは、生徒? それとも、別の誰か?」


「リゼルド・グレイアスさん。アーサーさんと同じ、外部の人間ですが……俺たちに協力してくれる仲間っす」


頭の奥で、あの夢の断片が蘇る。

眠っていた時、アーサーさん以外の声も確かに響いていた気がした。

リゼルド氏が学園に来て、二人に知らせてくれたんだ……


リオライズが呆れたように眉をひそめ、アラリックに対し皮肉を込めて言う。


「昨晩、リゼルドさんと話し合うって言ってから、帰ってこないと思ったんすよ。――喧嘩別れっすか? こんな時に」


「僕は間違ったことは言ってない……もちろん、無謀な話であるのは否定はできないけど」


アラリックが一拍置いて、僕に向き直して話を続ける。


「蘇生方法については、番人が眠る図書館が当てになる。もちろん占拠されている可能性は十分に高いが……」


本当にそこに答えがあるかもしれない。

けれど、アラリックの言う通りそこが敵に占拠されていたら……


「当てが消えたらリゼルドさんの説得が先ってこと?」


アラリックは、真剣な瞳で頷いた。

僕を射抜いたその瞳は、さっきまでの陰を払い、光を追い求めるように真っすぐだった。


そして、ヴェイルが僕の左肩に手を置き、言葉を続けた。


「それだけじゃねぇ……グランが死んだ真相を語るのに、お前の証言が不可欠だ。今から会議室で――思い出せる限りを話してくれ」


もう迷う理由なんてない。

全部、やってみなきゃ分からない。

結果は――出せるだけの策を出し切った後で初めて、分かるものなんだ。


「もちろん! あの時、見たものも……感じたことも。全部、共有させてほしい」

最後まで読んで頂きありがとうございます

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