Death Game: Duo Memories (デスゲーム:デュオ・メモリーズ)
十二人の生徒が命を賭けて挑むデスゲーム×学園ストーリー
ネリカの記憶持ちに復活した真意を知るも、思わぬ形で決別してしまったリゼルドとアラリック。
そしてグランの死を通じて、記憶持ちへと進化を遂げるゼフィリー。
一方で——レンリーには、大きな問題が立ちはだかる。
I組の生徒へ課せられた、最難関の試練を彼らは突破できるのか——
《Death of the Academia》をお楽しみください
昇降口の曲がり角に立つアラリックは、ただならぬ気配を感じ取り、ゼフィリーに声を掛ける。
ナイトグリーンの瞳孔が、風に靡くように訴え始めた。
「埋葬が終わって帰ってきたんだけど、レンリーの様子がおかしくて……」
突如――レンリーの黄色い瞳がアラリックを鋭く光り、猛獣のような目つきで睨んでくる。
その目は、いつもの穏やかさも、戦いの最中で頼れる瞳でもなかった。
見かねたアラリックは、レンリーの目の前に立ち一つの問いを投げかける。
「ねぇ、僕が分かる? それとも……初めましてかな?」
光の宿らない瞳に、恐怖に震えるレンリーは遮るように強く言い放つ。
「知らないです……! 誰ですか、貴方っ」
すると、コロシアムから戻ったヴェイルが、騒ぎを耳にして――血相を変えて駆け寄ってくる。
「――大丈夫か! こっちにまで、デカイ声が聞こえたけど……」
息を切らしながら立ち止まったヴェイルは、目を細めて二人を見比べた。
その紅蓮の瞳に宿る直感は、記憶の戻ったゼフィリーと、全てを失ったレンリーの違和感を即座に捉える。
「どういうことだ……? 二人は、入学前の記憶が封じられてたんじゃ……」
緊張の糸が張り詰める中、アラリックがそっと俺の耳へ囁きを滑り込ませる。
「ゼフィリーは、記憶が元に戻った」
アラリックの声に、安堵しかけた矢先——次の言葉に背筋が凍りつく。
「ただ、レンリーは記憶が消えたらしい。――原因は分からないが、グランの死が関係しているのは……確実だろう」
グランにかけられた呪いの気配を、二人から感じなかったのは同じだった。
だが、記憶喪失まで行くのは——予想を逸脱していた。
「う、嘘だろ……! やっぱり、死んだのには何か裏があったってことかっ」
だけど、どうしてレンリーは記憶が全部消えることになったんだ……
二重人格の闇レンリーの方にも何か、関係があるのか――
「レンリー、落ち着いて聞いてくれ。今、この学園のことや――お前のことを話すと、すげぇ時間がかかっちまう。だから今日は休んで、明日の朝に考えても良いか?」
全く信用のない俺らの言葉に、警戒心を更に強めるレンリー。
口を尖らせ、ゼフィリーの腕を強引に振り解こうとする。
「――帰ります!」
帰らせるわけにはいかない――そう悟った俺は、己の全てを投げ捨てる覚悟で、レンリーに好条件を言い渡した。
「なら、俺たちの持つ武器や凶器になる物は、全部お前に預ける。万一お前に危害を加えようとした時は——俺たちの首を落としてもらっても構わない!」
長い沈黙の中―― レンリーの黄色い瞳が、一人一人を射抜くように移ろい、そのたびに緊迫した空気が昇降口を覆った。
やがて——獰猛な光を失い、どこか弱々しい色を帯びていった。
記憶は消えても、心の奥底に刻まれた“絆”だけは、きっと残っている。
レンリーは深いため息を吐き、観念したように口を開いた。
「………分かりました、一日だけです。話を聞いて、馬鹿らしいと思ったら帰らせていただきます」
張り詰めていた空気が一瞬で解け、昇降口には安堵の風が流れ始める。
俺は胸を撫で下ろした。
「十分だ。――残ってくれただけでも、ありがたいぜ……」
ふんっと、ヘソを曲げて顔を背けるレンリー。
記憶を失えば、人は別人になる――そんな噂話を、俺は信じざるを得なかった。
「じゃあ、寮室まで案内するぜ。二人ももう遅いから、早く休めよ」
レンリーの手を取るようにして、ヴェイルはアラリックたちを促し、昇降口を後にした。
「ヴェイルも前と比べて、随分頼もしくなったよね」
小さく手を振り、遠ざかる背中を見送りながら、ゼフィリーが穏やかに言葉を落とす。
「あいつは記憶持ちになってから、絶望と再起を何度も繰り返してきた。——そして今、周りを先導する者として一番優秀な人間とも言える」
その言葉には、どこか――羨望するような声色が乗り、アラリックは俯いた。
「何かあった? 僕で良かったら話聞くけど……」
「別に……何もない」
しかし、まるで全てを見透かしているかのように――ゼフィリーは落ち着いた声で告げる。
「ほんとに嫌だね。記憶に目覚めると、知らない方が幸せだったことも……知ってしまう」
「何が言いたい?」
問いかけるアラリックに、ゼフィリーは寮室の方へ歩みを進めながら言葉を結ぶ。
「もし困ったことがあったら、相談乗ってあげる。解決できるか、保証はないけど――」
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レンリーの寮室へ向かう廊下を歩きながら、ヴェイルは一人、仲間たちの現状を頭の中で整理していた。
ストリクスとアラリックは、精神が壊れかけてる。
今、無理に動かせば崩れかねない。
ネリカも療養中、その代わりリオライズは使える。
問題は――何故、ゼフィリーは無事で、レンリーだけが記憶を失ったのか。
その理由と答えを、探らないといけない。
視界の端に、レンリーの名を刻んだ木製の名札が入る。
入学した頃は真新しかったそれも、今では時の色に沈み、黄ばみが浮かんでいた。
「ここが、お前の寮室だ。それと、この剣は預けておくな」
そう言って、俺は腰の剣を鞘ごと抜き、レンリーに手渡す。
「真っ黒ですね。何か隠してるのでは?」
「こう見えて、刀身は真っ赤だぜ」
ガキの頃、ごっこ遊びで振り回してた剣。
いつの間にか火属性の魔力を帯びて本物になったんだっけ?
目頭が灼けるように痛くて、鼻の奥まで水に沈んだように、ツンと沁みた。
あぁ……家に帰りたい。
封じ込めていた感情が再び覗き込んでくるのを、必死に止めた。
「俺の部屋の扉は開けておくから、何かあったらその剣を持って飛び込んできてくれ」
レンリーは軽く会釈して、剣を握りしめたままドアノブを回し、部屋へ入っていった。
廊下に一人残された俺は、小さく呟く。
「……お休み、レンリー」
ということで、新章プロローグ最後まで読んで頂きありがとうございます!
レンリーやゼフィリーの主役章でもありますが、I組全体の章なので、楽しんで行ってください!




