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 夏休みになり、学校の授業から解放された浩一は、数日とたたないうちにモテない連盟のメンバーに呼び出されてカラオケに行く。


 カラオケで歌い終わったあとにファーストフードの店に行くのは、彼らの黄金パターンだ。五人の仲間で他愛もない話がはじまり、時間が過ぎてゆく。


 話しているうちに、いま、ここにはいないメンバーである谷本の話題になった。


「あいつ、どうしてるかな」

「夏休みのあいだは、父親の会社で仕事を手伝うらしいよ。小遣いをくれるっていってた」

「元気だなあ」

「これ以上、暑くなると、俺たち倒れるぞ」


 今年の夏は、例年より気温が高くなるという。夏の暑さはこれからが本番となるのだが、すでにあちこちで熱中症により救急車で搬送されたというニュースが流れている。


 ろくに運動することもない、ひ弱な彼らにすれば、「これ以上、暑くなると倒れる」というのもあながち冗談とはいえない。


 ここで、話が予期せぬ方向へ切り替わる。山崎が、何気ない感じでつぶやいた。


「吉野、終業式になっても学校へ来なかったな」


 浩一はギクッとする。友理奈のことは、もっとも触れたくない話題である。


「吉野か。やっぱり大学進学は、あきらめるのかな」

「最悪、学校を辞めるかもな」

「それはどうかな」


 浩一はなにも言わないまま、話を聞く側に専念する。


 ──吉野……


 公園での友理奈との出来事が、瞬時に思い出される。こんな場所にいても、友理奈のことを忘れることが、かなわない。



 話も終わり、みんなはファーストフードの店を出たところで解散となった。


 浩一は帰るまえに本屋に立ちより、なにも買わずに店を出た矢先に、声をかけられた。


「あら、あなた」


 聞き覚えのある女性の声だ。彼女の姿は、一度だけ見たことがある。

 その女性は、浩一に微笑んだ。


「やっぱり、ユリちゃんといっしょにいた子ね」


 終業式の日、公園にいた友理奈を自宅まで送ろうとしたとき、途中で出会った女性である。


 浩一は「どうも」と言って頭をさげた。 彼女は「喫茶店に行きましょう」と言い、浩一は彼女にしたがい、ついて行った。

 ファーストフードの店を出てからまだそれほど時間が過ぎていないのだが、暑さのせいでもう喉が渇いている。


 喫茶店に入った浩一は、コーラを飲みながら彼女の話に耳をかたむける。そこで、アイスティーを口にするこの女性が、友理奈の叔母だと知った。


 浩一は、気になっていることをたずねた。


「吉野は大丈夫ですか?」

「だいぶ落ち着いたわ」


 その言葉に、浩一はホッとする。だが、気になることはそれだけではない。


「吉野、大学受験はどうするんでしょう?」


 友理奈の叔母の顔に、困惑の色が浮かぶ。


「うーん、まだ、なんともいえないわねえ」

「二学期は、学校へ来るんでしょうか。まさか、学校を辞めたりは……」

「ああ、それは大丈夫。あの子は絶対に卒業させるから」


 どうやら、友理奈が学校を退学することはなさそうだ。

 浩一は、彼女の話に安心するのだった。


 涼しい時間を過ごした二人は、喫茶店を出る。浩一は、友理奈の叔母にコーラをごちそうになったお礼をいう。


「きょうは、ありがとうございました」


 そんな浩一に、彼女は明るい笑顔を見せる。


「あなたは、優しいのね」

「いえ……」


 彼女の言葉からは、温かさが伝わってくる。しかし浩一の心は、逆に冷たく沈んでゆく。


 ──ぼくは


 心の中で友理奈に襲いかかった、自分だけが知る事実。


 ──全然、優しくなんかない


 罪悪感が胸にひろがり、ズキンと痛む。友理奈の叔母と別れた浩一は、暗い顔をして自宅に足を進めてゆく。


 胸の痛みはおさまることなく、しばらくのあいだ(うず)き続けるのだった。



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