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 やがて高校生活最後の行事、卒業式がおとずれる。


 体育館で行われた卒業式は、ピンと張りつめた空気におおわれ、おごそかに進められた。

 その間、浩一は三年間の高校生活を省みる。


 入学してから、とくに変わったこともなく平凡な日々を過ごし、当たり前のように卒業するものだと思っていた。

 ところが、そうではなかった。三年生になって、もっとも大事なときに、とんでもない試練が自分を待ちうけていた。


 ──よく、のり越えられたものだ


 浩一は、しみじみと思う。苦しみの真っただ中にいた、あのとき。外山が相談相手になって話を聞いてくれなかったら、自分はどうなっていただろうか。


 その後、さらに悩んでいた最中、友理奈があらわれなかったら……彼らがいなければ、自分は卒業できなかったかもしれない。


 浩一は、いまだに決心していることがある。


 ──ぼくは、吉野を守る


 友理奈とはすでに電話番号を交換しているが、二人のあいだにはまったく進展がない。だが浩一は、友理奈を守るという想いを手離すことなく、ずっと抱き続けている。


 浩一は、己自身に心の中で語りかける。


 ──別に、いいじゃないか


 この想いが、いまの自分の支えになっているのならば。


 そんなことを考えている間に、卒業式が終わる。楽しくも苦しくもあり、のり越えるべき壁は想像以上に高かった高校生活は、充実感を胸いっぱいにあふれさせて最後を飾るのだった。



 後日、友理奈と外山から、浩一に電話がかかってくる。二人とも、大学に合格したことを浩一に告げるためだ。


 友理奈が国立大学を合格したのは、浩一にとっても自分のことのようにうれしかった。ただ、春には、お互いに離ればなれになる。それが寂しいといえば寂しい。


 外山も防衛大学に、みごと合格を果たす。その外山が、思いついたように浩一にたずねた。


「森川」

「え?」

「おまえのなかにいる得体のしれないヤツは、まだいるのか?」


 気にはなっていた。しかし、あまりぶりかえしたくない問題でもあったので、以前に公園で話して以来、このことはあえて触れずにいたのだ。


「いや、もういない。完全に叩きのめしたよ」

「そうか!」


 外山は電話の向こうで、安心したように笑顔になる。


 浩一は、事の顛末(てんまつ)をひととおり外山に話した。そして、いまの自分を外山はどう思うか聞いてみる。


「吉野とつきあっているわけじゃないけど、ぼくはいまでも吉野を守らなきゃならないと思ってる。変かな?」

「いや。全然、変じゃねえぞ」


 外山には、浩一の想いと通じるものがある。


「俺は、これからこの国を、日本の国民を守っていくんだ」


 防衛大学に合格したとき、大学側から電話で「入校の意志はありますか」と問われた際に、間髪を入れず「はい!」と答えた彼は、これから国を背負う人間に成長してゆくのだ。


 国を守り、見ず知らずの多くの国民を守ってゆく。そういう決意を固めた外山の顔が、自然とひきしまってくる。


「がんばれよ、森川」

「うん。外山もな」


 浩一は、はじめて親友とよべる友だちができた気がした。



 翌日、友理奈から電話がかかってくる。


「公園に行かない?」


 浩一は「うん」といって、了解した。すぐに着替えて公園に向かうと、友理奈がぽつんとひとりでたたずんでいた。


 そんな彼女に、浩一は焦ったように声をかける。


「ごめん、待った?」

「ううん。わたしも、いま来たところ」


 言葉をかわした二人は、自然とブランコの方へ目がいく。三年生になった一学期の終業式、小雨の降るなかで、友理奈はブランコにのっていた。


 浩一も友理奈も、当時のことが鮮明に思い出される。


 ──ぼくの試練は、あの日からはじまった


 浩一がそう思っていると、友理奈が感慨深げにブランコを見つめながら、つぶやいた。


「あのとき、森川くんが来てくれて、本当に良かった」


 記憶だけでなく、感情までもがよみがえる。


 ──吉野を抱きしめたい


 自分の心に、嘘はつけない。


 ──吉野にキスしたい


 その友理奈が浩一にふり向き、笑顔を見せる。


 ──だけど、ぼくは


 友理奈に誓うかのように、浩一は思う。


 ──獣にはならない


 友理奈が、浩一にそっと抱きついてくる。ドキッとした浩一は、思わず彼女の背中に手をまわした。


 友理奈のささやく声が、胸に響く。


「ありがとう」


 礼をいうのは自分の方だと、浩一は思った。


「ぼくは」


 以前から抱き続けている想いを、彼女に伝える。


「吉野を守らなきゃならないと、ずっと思っていたんだ」


 友理奈は、浩一の顔を見上げて微笑んだ。


「これからも、わたしを守ってくれるの?」


 もちろんだ。浩一はうなずいて、いまだに手離すことのない決意を胸に、友理奈に告げる。


「ぼくは、どんなことがあっても吉野を守れる男になるよ」


 まるでプロポーズのような浩一の言葉に、友理奈の胸はドキドキする。顔が赤くなるのを悟られまいとするように浩一から目をそらすと、ギュッと抱きしめた。


 ふだんは頼りない感じのする浩一が、友理奈のなかで、だんだんと頼りがいのある男に変わってゆく。

 浩一は浩一で、もっと強くならねばと思う。


 少しずつ大人に近づいてゆく二人。若い彼らは、思い出の向こう側にある未来に足をふみ入れ、これからの人生を歩んで行くのだ。


 青春という名の超特急は、まだまだ止まらずに走り続ける。





〈終わり〉



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