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 あっくん、とあの娘は篤弘を呼んだ。前髪を真っすぐに切り揃えた、色白の、小柄な少女だった。

 リオウの神はね、ずうっと昔からこの国に存在する神なんだよ。信仰のない人間達から迫害を受けながら、その血を綿々と紡いできたの。

 あの娘がいつから李凰の名を口にするようになったかは覚えていない。信仰深い少女だった。いつか入信する日を夢に抱き、祈りを捧げ続けていた。


 あの娘が焦がれ続けた、足を踏み入れることを望み続けた、それがついに叶わなかった場に、今自分が向かっている。


 車が揺れる。ひどい山道だ、噂通りである。

 李凰国は山奥に存在している。今にも車が横転するのではないかと怯えるほどの、舗装のない細すぎる山道を抜けた先に突如として人が石を積み上げて造ったことが容易に想像できる高い壁が現れると噂に聞いていた。


 鬱蒼とした山奥にそびえ立つそれがあまりにも不気味であるから心霊スポットとして多くの者が訪れるらしいが、その壁を超えて先に進む者はほんの少ししかいない――無事に帰ってきた者がいないという噂のせいか。


 壁の向こうにはいくつもの罠が仕掛けてあり、それに探検者が引っかかって中の者に捕まり生きたまま腹を斬られて内臓を取り出され密売されるとか、または生きたまま肉を食われるとか、囁かれる内容はさまざまだった。実にくだらない噂である。


 六人を収容する車内には無言が続いている。夜の闇に沈み込みながらただ車が揺れ続ける。道に覆いかぶさってくるかのごとく生える木々はもはや幽霊の手招きである。だから徐々に篤弘の心が細く頼りなくなってゆく。

 車内にいる者達は本当に李凰国の人間だろうか、本当に自分を李凰国に連れて行ってくれるのか、全くの別世界に連れて行かれるのではないか――そんなくだらぬ心配事に身が潰されてゆきたまらなくなって篤弘は隣に目をやる。夏朗がいる。すでにその目は篤弘を見下ろしている。ゆったりと笑って。何も心配いらないとその目が言っている。


 噂通りに忽然と高い壁が現れ、そこから車を降りて歩くこととなった。それぞれが懐中電灯で足元を照らしながら木々の合間をぬって歩いた。罠などなかった。この奥に一万人を超える人間がいる、その事実など存在せぬかのようにただただ雑木林が広がっていたが、しばらくして不意に篤弘は声を聞いた。あの娘の声だった――あっくん、着いたよ、と。

 その通りだった。突如として道が開けた。そして自分はあの娘に手招きをされながらここに来たのだと、はっきりと思った。




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