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大抵において罪人というものはなりふり構わず暴れまわり、断末魔の叫びを上げながら命乞いをする。死ぬ間際の人間というものは凄まじいほどの力を発揮するものである。だから篤弘は思うのだ、今日の執行の付き人はなんと楽なことかと。罪人が執行の場に向かって自らの足ですたすたと歩いてゆくのだから。
警察達は抜き打ちのようにやって来るから塀の外に幾人もの見張りを付け、携帯電話も持たせ、処刑場と連絡を取り合いながら厳重な警戒のもとで執行される運びとなった。処刑場はかつてないほどの激しい怒号に溢れていた。信じていた神を殺され、愛した国を失い、人生を大きく狂わされた者達の凄まじいほどの怒りである。
上半身裸となった夏朗が執行の場へと真っすぐに向かってゆく。痛みさえ覚えるほどに鍛え上げられた身体だ――硬く盛り上がった胸も割れた腹筋も、これから撃ち抜かれて真っ赤に染まる。前だけを見据える、強い意志のみなぎるその目もまた、散りゆくのだ。
篤弘の隣に慎也がいる。篤弘と慎也は誰よりも早く処刑場に来て、夏朗に一番近いと思える場所を陣取っていた。声をしっかりとその耳に届ける為に。その姿をこの目にしっかりと焼きつける為に。
慎也の手が篤弘の肩を抱いている。夏朗の登場と共にその手にさらなる力がこもった。
執行人である青年部幹部の大河はすでにライフルの準備を整え、歩いてくる罪人を真っすぐに見据えていた。国民達の怒りを背負い、片頬だけに笑みを乗せながら。
大抵において罪人というものは付き人に無理やり手首を掴まれ、上からぶら下がる鎖にそれを繋がれるものである。だからこそ篤弘は思った、今日の付き人は報酬など貰うべきではない。罪人が自ら両手を上げたのだから。
強い意志である。執行人の目を真っすぐに見据え、自ら両手を上げたのである。やがてその手首が付き人に掴まれ、鎖に繋がれた。
お慈悲を! 大河様! どこからともなく絶叫が上がる。やがてそれは大渦となり怒号を巻き込んでゆく。視界のあちらこちらで大勢の者達が地面に土下座し、執行人に夏朗の命を乞い始めた。
執行人がゆったりとした動作でライフルを構える。護衛隊のトップクラスに立ち続けた者らしき堂々たるさまで。
いつしか怒号が狂喜乱舞へと変わり、手拍子が揃い始めた。その壁を撃ち抜くかのごとく、荒れ狂う嵐かのように絶叫が揃い始めた。お慈悲を! 大河様! お慈悲を! 大河様!
夏朗の目はただ強い意志だけを持ち、執行人の目を真っすぐに見据えている。