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もう何を言ってもいけないし、何を聞いてもいけないのだ。殺した李凰に何を思うのか、何を思っていたのか、そのようなことなど聞いてはならない。この方のことは何も分からない。結局最後までほとんど何も分からなかった。ただただ美しくあるだけだった。
それももうじき、消えてなくなる。この方は沈黙したまま、李凰の神の生まれたとされる山に献上されるのである、罪人として。そしてこの方がそれを望むのであるから自分はそれを尊厳する――それこそが、この方への愛の証明となるのだから。
不意に夏朗の目にありありと喜びが溢れ出る。篤弘が来た、写真を撮ろう。そう言って夏朗はダンボール箱の上にあったポラロイドカメラを手に取り、手招きして篤弘を自分の隣に呼び寄せる。
もっと近くに寄れ、と夏朗は言う。だから慎也もその身に身を近づける。篤弘と慎也で夏朗を挟み、慎也の手によりカメラのレンズが三人のほうを向き、シャッターが切られる。
「目、つぶんなよ。もう一枚」
出てきた写真に夏朗が笑う。さも愉快そうに。明日死にゆく者だとは到底思えぬ笑顔で。
「もう一枚だ、もう一枚」
幾度もシャッターが切られ、幾度も写真が出てくる。拭っても拭っても頬に液体が垂れてゆき、もうどうしようもない。篤弘などは声すら上げていた。
「ひでえ顔だ」
夏朗だけはケタケタと笑っていた。